紅茶とデザート
馬車が屋敷に到着すると、ライアが出迎えてくれた。
ライアが差し出した手を取り、ルシャーナは馬車から降りる。
「ルシャーナお嬢様、お帰りなさいませ。」
「ライア、ありがとう。お父様は執務室かしら?」
「今は談話室にシエラ様といらっしゃいます。」
「そう…談話室に行くことにするわ。あ、あと、馬車にデザートが入って箱があるの。」
紅茶と一緒に談話室に持ってきて欲しいと、ライアに頼みルシャーナは談話室に向かう。
いつもなら翌日に報告でもいいのだが、皇族絡みの依頼はすぐ報告した方が良いだろう。
談話室の入口に近づくと、ルーカスとシエラの楽しそうな声が聞こえてきた。
いつまでも仲睦まじい二人の結婚生活はルシャーナの憧れだ。
フレデリックと婚約した当初は自分も同じような結婚生活を送れると夢見ていた事もあった。
「お父様、お母様、ただいま戻りました。」
ルーカスとシエラに帰宅の挨拶をすると、二人はルシャーナに笑顔を向ける。
「ルシャーナ、おかえり。」
「ルシャーナ、おかえりなさい。」
ルシャーナが向かいの席に座るのを待って、ルーカスが舞踏会について聞いてきた。
「舞踏会での仕事はどうだった?」
「相性鑑定は問題なく終了しました。皇宮の舞踏会はすごかったですよ、お父様。
料理が桁違いに美味しくて、特にデザートは格別でした!!」
聞かれた事より料理についてを熱く語るルシャーナを見て、ルーカスは声を出して笑った。
「良かった良かった!仕事が問題なく終わってなによりだ。ルシャーナが粗相をするんじゃないかと、生きた心地がしなかったよ。」
「お父様ったら。多分…きっと…粗相はしてません。」
「え…多分…?」
ルシャーナの『多分』という発言にルーカスは少し動揺しているようだった。
ルーカスが何か言いたげに口を開きかけた時、「失礼します」とライアがワゴンに紅茶とお土産のデザートを持ってきた。
ライアは手際よく三人の目の前に手際よく紅茶とデザートを置いた。
「お父様、お母様、まずは紅茶とデザート頂きましょっ。」
ルシャーナは軽く手のひらをパンッと合わせて、ルーカスとシエラにデザートを勧めた。
今すぐにでも目の前にあるキラキラしたデザートを食べたかったが、二人が先にデザートを食べるのをワクワクした気持ちで見つめる。
「ん?!これは…。」
ルーカスがデザートを一口食べて、美味しさに目を見開いた。
シエラも一口食べて「まぁ」と、目をキラキラさせてデザートを見つめている。
(わかります、わかります。美味しいですよね~)
二人の反応を見てウンウンと頷き、ルシャーナもデザートをはむっとほおばった。
「はぁ…美味しいですよね~…。本当に幸せです。」
目を閉じうっとりしながら、ルシャーナは程よい甘さが口の中に広がるのを楽しむ。
先ほど舞踏会でもたくさん味わったのに、もっと食べたいと思わせる何かがある。
「これはどうしたんだい?」
「皇太子殿下がお土産で用意してくださいました。」
「えっ…?」
(そうなりますよねー…)
ルーカスが『皇太子殿下』に驚いて目を見開いていて、帰りの馬車でルシャーナが思った通りの反応を見せた。
最初に皇太子殿下からと言うと味が分からなくなると思い、何も言わずに食べてもらって良かった。
「実はいろいろありまして…、次の夜会でも鑑定をする事になりました。」
ルシャーナはエヘヘと笑いかけると、ルーカスのこめかみから一筋の汗が垂れた。
慌てて断ったけどどうにもならなかったと伝えた。もちろん、デザートにつられた部分を省いて。
「さ、最初は断ったんですよ。不可抗力なのです。」
「え…こ、断った……」
ルーカスの顔色がどんどんと青くなっていき、頭を手で押さえた。
今まで伯爵家は皇族とあまり接点がなかったため、何が不敬にあたるかわからず悩んでいるのかもしれない。
ルシャーナの感じでは不敬にあたる事はしていないし、不敬とみなされたら屋敷には帰ってこれてないはずだ。
「お父様、大丈夫ですよ!ほら、屋敷にも無事に帰ってこれてますし。」
「そうですよ、ルーカス。後で何か届いたら、その時に考えましょう。」
ルーカスの隣で静かにお茶を飲んでいたシエラが、顔を上げてにっこり微笑んだ。
「報告は以上です。では、お父様、お母様、おやすみなさい。」
顔に疲れが出ているルーカスと、微笑むシエラに挨拶をして談話室を後にした。




