裏切り
「婚約破棄が正式に手続きされない内にあなたが亡くなると、どうなると思います?」
馬車の中は重苦しい雰囲気に包まれていたが、サディムの声がそれを打ち消すように楽しく明るく響いていた。
ルシャーナは問いには答えずに、震えながらサディムを見る。
「あなたが亡くなると、婚約者であるフレデリック様に相続権が発生します。
譲渡された領地も新しく建てている屋敷も全てフレデリック様が相続するんです。
更にフレデリック様には貴族制度のお見舞金が入ります。」
サディムは一呼吸分の間をためてから話を続ける。
「フレデリック様が領主の地位に就いた後、お相手の令嬢と結婚するんです。」
(お相手の令嬢…??)
「その令嬢にすごく惚れ込んでいて、フレデリック様は結婚までの一時的な付き合いで終わらせなくなくったようです。その令嬢との結婚を望んでいます。」
(え…付き合ってる?結婚を望んでる?)
フレデリックに付き合ってる令嬢がいるというのを聞いて、ルシャーナは絶句した。
婚約していたし半年後には結婚も控えていて、フレデリックの素行を疑う事はなかった。
それに、ルシャーナは夜会や舞踏会に同伴した事がなかったため、周りの噂話などは耳には届かなかった。
「フレデリック様都合での婚約破棄では、フレデリック様には何も残らないでしょう?
そこで、フレデリック様は婚約破棄しなくても望み通り結婚ができて、且つ、生活が潤うような素晴らしい計画を考えたのです。」
サディムが「ただ筋書きは陳腐で笑いが出ますけどね」と語った、フレデリックと令嬢が結婚するまでの筋書きはこうだった。
『フレデリックはジョージナス公爵家の資産をルシャーナが横領している事に気が付き、ついカッとなって本意ではなく婚約破棄を言い渡す。
正式に婚約破棄をするつもりはなく、ルシャーナに反省をしてもらい、新領地で心機一転して新生活を始めようと思っていた。
しかし、婚約破棄を言い渡した日にルシャーナが罪を悔いて命を絶ってしまい、フレデリックは失意のどん底へ落ちる。
悲しみで生きる気力を失ったフレデリックに寄り添い支えてくれる令嬢が現れる。
令嬢と一緒に過ごしていくうちに、フレデリックは元気を取り戻し真実の愛に気付く。
新領地の領主となったフレデリックは令嬢と結婚して幸せに暮らす。』
綺麗な結末を迎える物語ような筋書きに、フレデリックの自意識が強い部分を感じた。
裏切られてたことを知り、婚約破棄されても残っていた恋心が今、ルシャーナの中で音を立てて崩れ落ちた。
茫然自失の状態で馬車に揺られていたが、突然馬車が止まった。
サディムは楽しそうに、まるでこれから演劇でも始まるかのようにルシャーナに話しかける。
「さぁ、到着しましたよ。何が起きるか楽しみですね。」
窓から外を見ると大きな川と橋が見え、馬車は橋のたもとに止まっているようだった。
両隣に座る男たちが、ルシャーナから靴と髪飾りをもぎ取りサディムに渡した。
サディムは馬車から降りて、橋のふもとにルシャーナの靴と髪飾りを置いた。
「下手に手紙とか置くと怪しまれますからね。靴と装飾品くらいが丁度良いんです。」
手をパンパンッとはたき、サディムはルシャーナを降ろすよう男たちに指示を出した。
男たちに両脇を抱えられながらルシャーナは馬車から降ろされる。
「こんなに可愛らしいのに残念です。泣きはらした顔も川で綺麗になりますよ。
最初は苦しいと思いますが、すぐ楽になりますよ。」
サディムはルシャーナの顔にそっと触れ、「さようなら」と笑顔で最後の言葉をかけた。
男たちはサディムの最後の言葉を聞いて、ルシャーナを担ぎ上げ橋から川に投げ落とした。
あっと思った瞬間に川に落ちていた。
口に川の水が入り込み必死にもがきながら、12歳の時に湖で溺れた時の事を思い出す。
あの時と違い、レースたっぷりのドレスは川の水を吸い重たくなり、容赦なく川底へ誘われる。
「た、たすけて…。」
助けを求めて口を開くと川の水が入り込み、むせてしまいそうになる。
ごぼっ…ごぼごぼっ…。
(苦しい、苦しい、苦しい…助けて…)
ルシャーナは苦しさが増す中、もがく力がどんどんと弱くなり意識が遠き始めた。
読んでくださってありがとうございます。
コメント、評価、ブックマーク、ありがとうございます。
とても嬉しく思っています。感謝です。
これからも頑張ります。




