怪しい笑顔
ルシャーナは感情のまま、声を出して思いっきり泣いた。
零れる涙が少し落ち着いてきた頃、道端で大泣きして恥ずかしいと思えるほど気持ちが回復した。
道を通る人が居なくて良かったと思っていると、複数の足音が近づいてきた。
「大丈夫ですか?」
(え…)
しゃがみこんだまま顔を上げれずにいると、もう一度声をかけられた。
「大丈夫ですか?エイファート伯爵家のルシャーナ様。」
突然自分の名前を呼ばれ、肩がびくりと跳ね上がる。
おそるおそる顔を上げると、三人の男たちが立っていた。
一人は仕立ての良い服を着ていて、後ろに居る男二人を従えているようだった。
先程からルシャーナに話しかけているのは仕立ての良い服を着た男だろう。
「ルシャーナ様ですよね?探しました。」
ルシャーナが驚いて言葉を発せないでいると、仕立ての良い服を着た男は笑顔で話しを続ける。
「怪しい者ではありませんよ。サディムと申します。
フレデリック様からお屋敷まで送るよう頼まれた者です。
ルシャーナ様は迎えの馬車がまだ来てないから、今歩いて帰ろうとなさっていたんですよね?」
フレデリックの名前が出てきて少し安堵するが、あんな仕打ちをしておいて屋敷まで送る手配などするだろうかと疑問に思う。
しかも男たちは、ジョージナス公爵家側からではなく、ルシャーナが向かっているエイファート伯爵家側から来たようだった。
ルシャーナの直感が危険だと告げ、今すぐにでも逃げなければ思うのに足が震えて動かなかった。
「あ、あの、歩いて帰れますので結構です。」
絞り出すように断りの言葉をだしたが、サディムは笑顔のまま一歩ずつルシャーナに近づく。
「それではダメなんです。フレデリック様にしかられます。」
「ほ、本当に大丈夫です。」
「さぁ、遠慮しないでください。行きますよ。」
サディムが後ろに合図を送ると、男たちがルシャーナに近づき素早く両腕をつかんだ。
「きゃっ!」
精いっぱい抵抗したが力で負け、引きずられるように馬車に連れていかれ、放り込まれるように乗せられた。
周りには誰もおらず、ルシャーナが騒いでも助けに来る気配はなかった。
男二人に両脇をがっちりと固められているので、諦めて大人しく座った。
ルシャーナの向かい側にサディムが座り、残りの二人はルシャーナの両隣に座った。
動き出した馬車の窓から外を見ると、エイファート伯爵家に向かっているようで少し安心する。
このまま無事に屋敷に帰れる事を祈りながら窓からの景色を見ていると、屋敷に向かう途中の分岐で脇道に入っていった。
「どこにむかってるの…。」
「ルシャーナ様、あなたに恨みはないんですが、仕事なので許してください。
あなたには婚約破棄と横領の罪を苦に自ら命を絶ってもらいます。」
サディムは笑顔を崩さず、サラリと大事な事を語った。
「安心してください。自ら命を絶ったようにするので、これ以上乱暴な事はしません。」
サディムは笑顔だが目は笑っておらず、その冷たい視線にルシャーナは背筋がぞくりとし、どんどん体温が低くなっているのを感じた。
ルシャーナの目からは涙が零れて、言葉を震えさせながら懇願する。
「や、やだ…助けて。」
「こんなにおびえて可哀そうに。」
青ざめ震えているルシャーナを見て、「全てをお教えしましょう」とサディムは楽しそうに話し出した。
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