大粒の涙
何か思い出さなければいけない事があるような気がするが、頭が痛くてそれどころではない。
身体が思い出したくないと訴えているのだろうか。
フレデリックはルシャーナを助けた時の事をペラペラと話し出した。
アルバートが助けてくれたはずなのに、さも自分が助けたかのように話す。
得意げな表情のフレデリックを見ていると、ざらりとした嫌な感じが胸に広がった。
頭痛もするし、色々と混乱していて、一人になりたかった。
痛む頭を押さえフレデリックに休みたいと告げる。
「フレデリック様。ごめんなさい、先ほどから頭痛がして少し休みたいです。」
「そうだね、ルシャーナ。ゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます。」
フレデリックはルシャーナを振り返る事もなく、すたすたと部屋を出て行った。
あんなにも一緒に居たかったフレデリックだったが、今は同じ部屋に居たくなかった。
フレデリックが居なくなり、部屋に一人になるとホッとした。
水を一口飲んで一息つき、そろそろとベッドに横になる。
横になると頭痛の波も落ち着き、先ほどの不思議な出来事について考えた。
(あれはなんだったんだろう…。フレデリック様の頭上に21って突然現れたわ。
あの数字は何を表すものなのかしら。
それに…私の小指からも光る糸が出ていた)
シーツからゆっくり手を出して見てみたが、小指から糸は出ていなかった。
(今まで見えた事なんてなかったのに…。
それに、何か大事な事を思い出したと思ったのだけど、それが何なのかわからない…)
また、ズキンと激しい痛みの波がやってきた。
何も考えられなくなり、瞼を閉じて痛みに耐える。
痛みが少し引くと強張っていた身体も力が抜けて楽になり、すーっと眠りに落ちた。
***
「ルシャーナ、君との婚約を破棄する!」
フレデリックの19歳を祝う夜会で、ルシャーナは婚約破棄を突き付けられた。
突然の婚約破棄宣言に、煌びやかだった夜会が色褪せ、賑やかだった会場の音が聞こえなくなった。
何が起きたのか訳も分からず、ルシャーナは放心状態になった。
ルシャーナが何も発言しない事をいい事に、フレデリック身に覚えのない罪を意気揚々と語りだす。
周りの招待客達はヒソヒソと話しながら、軽蔑した目でルシャーナを見る。
「ルシャーナ!聞いているのか!」
フレデリックに強めに名前を呼ばれ、ハッと我に返る。
「ど、どういう事ですか?フレデリック様。訳が分かりません…。」
「今まで目をつぶってきたがもう許せん。君は我が家の資産を横領している事は知っている。」
「えっ…そんな事しておりません!何かの誤解です!」
「卑しい伯爵令嬢め。言い訳をするな。婚約破棄は決定だ。」
フレデリックはルシャーナの話を一切聞かず、一方的に罵られて夜会を追い出された。
ルシャーナは閉められた扉の前で呆然と立ち尽くしかなかった。
扉の向こうから華やかで楽しげな夜会の賑わいが聞こえ、ルシャーナは悲しくなり一刻も早く立ち去りたかった。
迎えの馬車が来る時間ではないため、途中ですれ違う事を願いながら、自分の屋敷までの道をとぼとぼと歩く。
目からは大粒の涙が零れ、先ほど起きた事がぐるぐると頭に流れる。
(フレデリック様どうして…。婚約破棄に身に覚えがない罪…。
誤解だと言っても聞き入れてもらえなかった。訳が分からない)
本来なら、今日の夜会で結婚する日取りが決まった事を招待客に報告するはずだった。
半年後にはフレデリックと結婚しているはずだった。
それに、ジョージナス公爵家の次男であるフレデリックが新たに領主となるため、エイファート伯爵家の領地の一部を譲渡していた。
譲渡した領地に、新居となる屋敷を建てているところだった。
(お父様、お母様に婚約破棄の話をどう説明したら…)
ルシャーナは胸がぎゅーっと締め付けられ、呼吸が苦しくなりしゃがみこんだ。
息が出来ないほどしゃくりあげて泣いていたことに気付いた。
何も考えられなくなり、その場でうずくまるように泣いた。
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