溺れる
ボートが揺れバシャンと何かが落ちる水音に執事のアルバートが振り向いた。
溺れているルシャーナを見てアルバートが驚いて叫んだ。
「ルシャーナ様っ??」
「アルバートッ!ルシャーナが大変なんだっ!」
フレデリックがアルバートに向かって助けを求めた。
先ほど顔を逸らされたのは気のせいだったのかもしれない。
ごぼっ…。
「た、たす…たすけて…」
手を伸ばすもののボートにつかまる事も出来ず、ただただ溺れないようもがくしか出来なかった。
シフォンドレスのおかげでまだ溺れかけで済んでいるが、レースたっぷりのドレスにしていたら早い段階で湖に沈んでいたかもしれない。
フレデリックがボートから身を乗り出して、ルシャーナに向けて手を伸ばし始めた。
急に助けようとしだしたフレデリックに驚きながらも、必死に手を伸ばしたが届かない。
「ルシャーナ様っ!今助けますからねっ!」
「アルバート!ルシャーナを頼む!」
アルバートがすぐさまボートから飛び込んだ。
ルシャーナはアルバートの飛び込む姿を見て、助かるかもと思ったとたんに身体の力が抜けた。
もがく力もなくなり、湖の底へ引きずりこまれるような感覚に陥る。
ごぼっ…ごぼごぼっ…。
(私…ここで死ぬの?)
ルシャーナは少しづつ意識が遠のき、今までの思い出が走馬灯のように流れ始めた。
そして流れる記憶の一部が12歳までに体験したものではない事に気付いた。
遠のく意識を必死にとどめ、流れる記憶を確認する。
(…私、一度死んでる?)
***
気が付くとルシャーナは客室で寝ていた。
目を開けるとベッドの側にいたメイドが気が付いて話しかけてきた。
「ルシャーナ様。お目覚めになられて良かった。今、フレデリック様を呼んできますね。」
メイドは一礼をして、足早に部屋を出て行った。
ルシャーナはゆっくり身体を起こすが、手や足を動かすたびに痛みが走った。
「いたたたた…。」
溺れている時に必死にもがいたせいかもしれない。
どうやって助かったのが記憶にないのだが、きっとアルバートが自分を助けてくれたのだろう。
意識がぼんやりとしている中、ボートで起きた事を思い出す。
ボートがぐらりと揺れて体勢を崩した時に、フレデリックの手を強く握りしめたら手を振りほどかれた。
気のせいかもしれないが、手を押すように振りほどかれた気がした。
手を握っていれば湖に落ちなかったかもしれないが、こればっかりは故意に起きたのか、ただの事故だったのか判断はむずかしい。
何か大事な事を忘れているようで思い出そうとすると、頭がズキズキと痛んだ。
暫くするとフレデリックが部屋に駆け付けた。
「ルシャーナッ!無事でよかったよ。」
「フレデリック様、ご心配おかけして申し訳ありません。」
フッレデリックが悲しそうな顔をしてルシャーナに話しかける。
「ルシャーナが急に僕のところへ移動しようとしたんだ。危ないって言ったんだけどやめなくてね。
僕がもっと強く注意すればよかったね。」
フレデリックの言ってる事と事実が違う事に唖然とする。
その言い方だと、ルシャーナが勝手にやらかして事故を起こしたように聞こえる。
「え…?フレデリック様がこっちにおいでと…。」
「僕はそんな事言ってないよ。記憶が混乱しているのかな?
まだ目覚めたばかりだから仕方ないね。」
ルシャーナは慌てて違うと言ったが、聞き入れてもらえなかった。
きっと自分が寝込んでいる間も、先ほどの話を事実として話していたのだろう。
フレデリックの思惑も分からないし、ただ保身のための言い訳にしか聞こえず、ルシャーナは悲しくなった。
シーツを手でギュッと握りしめ、フレデリックを見つめた。
(フレデリック様は私の事をどう思っているのかしら)
フレデリックの頭上にぽわんと数字が現れた。
ルシャーナが驚いてその数字を凝視していると、視線を不思議に思ったフレデリックが頭に何か付いているのかと聞いてきた。
「え、あの…。何でもありません。」
なんと答えていいか分からず言葉を濁した。
フレデリックから視線を逸らすと、シーツを握りしめている手の小指から光る糸が出ていた。
(えっ…なにこれ。何が起きてるの?)
先ほどより激しく頭がズキンと痛んだ。
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