城下の教会
ミリアムとオスカルは聖堂に到着したものの、二人を迎えた司祭と修道女がミリアムを見るなり、
「これはいかんのう」
と、司祭は修道女にミリアムを奥の小部屋に連れて行くよう申し付けた。暫くして、司祭はミリアムと修道女がいる部屋へとやって来た。
「姫様、何かとても悲しいことが起きたのじゃな」
ミリアムを赤子の頃から知っている司祭は、開口一番にそう告げた。
「そうなのですが、すぐに落ち着きますわ。本日の行事に間に合いますように」
泣き腫らした目をしているミリアムの言葉を遮るように司祭は首をゆっくりと横に振りながら、
「行事のことは良い、良い。オスカル殿がおられれば、充分に事足りるじゃろう」
「なれど、それでは司祭様にご迷惑をおかけすることと相成ります。ただでさえマウラが伏せてしまい、予定通りではないというのに・・・」
「かようなことはお気に召さるな。フィヌーラ、姫様について差し上げなさい」
「はい、かしこまりました」
「姫様、後にわたしもこちらへ参りましょう。それまでゆるりとされよ」
司祭はそう言ってにっこりと笑ってから、部屋を出ていった。笑うとできる顔の深い皺が、小さい頃からミリアムは好きだった。
その昔、ケルト文化には「ドルイド」と呼ばれる、宗教的役割を持った指導者がいた。祭司の他、政治的指導や、争い事が起きた時の調停もし、医療も行うという重要な役割を担っていた。
古文書や民話に描かれているドルイドは森の木々と話が出来たり、予知能力を備えていたり、と魔法使いそのもので、ミリアムはこのカトリック司祭が、長く白い髭を蓄えている姿というのもあって、今の時代のドルイドだと常々思っていた。
修道女フィヌーラは、白湯を持って参ります、と、司祭と共に出ていき、後から戻って来た。まだ充分に陽は高いが、蝋燭に火を点け、ミリアムの目の前に置いた。シスターは司祭と同年代で、もう長くこの城下一の教会にて奉仕をしている。
「姫様、蝋燭の灯りをじっと見たことはおありですか?」
「え?あ、はい。ございます」
「悲しいことや辛いことが起きた時に、わたしは蠟燭の灯りを見つめるのです。ゆらゆら揺れたり、かと思えば、すっと上に伸びたり、と、退屈しません。暖かなこの灯りを見ていると、段々と心が落ち着いてきます」
そう言われ、ミリアムは黄色い炎を見つめた。シスターの言った通り、様々に形を変え、まるで生き物のようだ。時折、風もないのにふっと灯りが消えることがあるが、マウラはいつもそれを、悪戯好きな妖精が吹き消した、と言っていたことを思い出した。
(そういえば、あの子、大丈夫なのかしら・・・)
実のところ、姉を心配し過ぎて体調を崩したようなものなのだが、ミリアムはそこまで気が廻っていない。マウラのことを考える余裕ができ、ミリアムは一つ大きく息をついた。それを見て、シスターは、
「少しは落ち着かれたようですね。ようございました」
と、司祭と同じように笑い、元々優しい顔がもっと柔らかい表情になったのを見て、ミリアムは安心感を覚えた。そうだ、子供の頃は、司祭やシスターに話を聞かせてもらったり、自分のことも話しに来ていたりしていたのに、と、思った。
(いつ頃から私用で来なくなったのかしら・・・。神への祈りは城の祭壇で行っているのもあって、先生方の講義などで忙しくなったし、それで足が遠のいたのだわ。こんなにも落ち着く場であるというのに、それをすっかり忘れていたのね・・・)
「お嬢様、わたくしは一旦城へと戻ります。旦那様に行事が滞りなく済みましたことをご報告して参ります。後程お迎えに上がりますので、それまでこちらにお残り下さい。司祭様がお話を聞いて下さるそうです」
行事が終わり、後片付けも率先して済ませたオスカルが言った。
「父さまに叱られないかしら?」
「司祭様の御要望と申し上げますので、大丈夫でしょう」
「わかったわ」
「オスカル殿、後でうちの者を遣い、姫様を城へと送り届けさせよう。しかるに迎えは無用じゃ」
オスカルからあらかたミリアムの城での状態を聞いた司祭が口を挟み、オスカルはミリアムを司祭に託した。全ての領民から慕われている司祭の手元ならば、と、ミリアムに城外での息抜きが必要と考えていたので、司祭の申し出はありがたいものだった。
オスカルを見送り、先程の小部屋に移ったミリアムは、司祭と向き合って座った。
「さてな、敬愛なる神の子よ(マイ・ディア・チャイルド)、どうしたもんかのう?」
ミリアムは上目遣いに司祭を見て、司祭が次の言葉を発するのを待った。
「先ずはこちらへ。もうすっかり淑女になられた姫様にはいささか行儀の悪いことやも知れぬが」
司祭はそう言って、両腕を大きく開いて見せた。ミリアムは椅子から立ち上がり、司祭の大きな体に身を寄せ、ぎゅっと包み込んでもらった。途端に、目からまた大量の水分が流れ出た。
「おう、おう。そんなに泣かれては別嬪の誉れもなくなりまするぞ。身体は大きゅうなられても、中身はまだ小さき姫様のままじゃなぁ」
司祭は笑いながら、号泣するミリアムを、幼子をあやすかのように慰めたのだった。




