懺悔
ミリアムはマルクへの文をしたため、オスカルに託した。だが、待てど暮らせど返事は来たらず。
ミリアムの食は細くなっていき、洞のようになった。
「オスカル!お前、石畳の君に何を言ったの?」
「何も申してはおりません。ただミリアム様の文を渡し、返事をするならば、わたくしの伝手に、と、それだけでございます。姉君様は、あの若者への文に何を書かれたのでございましょう・・・」
「わたしも聞いたのよ、でも、姉さま、教えてくれないの」
事が起きてからというもの、こうしてマウラとオスカルは結託して、なんとかミリアムを元の状態に戻そうと奮起しているのだが・・・。
遂にその時がやって来た。
伯爵は夫人の意見を聞き入れ暫く静観していたが、ある日、娘を執務室に呼び付けた。
「ミリアム」
有無を言わせない威厳のある声で、伯爵は簡潔に言った。
「明くる月、そなたを東国の騎士に引き合わす。此の縁談は絶対事項である。よいな?」
ミリアムは睫毛を伏せ、
「―はい」
と、小さく返した。
◆◇◆◇◆
ミリアムの名を呼び、そのやつれた頬に眉を顰めずにはいられないオスカルが、五度目にまた名を呼んだ後、ミリアムは虚ろなままの顔を上げた。二人は今、城下へと向かう馬車に揺られている。
「お嬢様、大丈夫でしょうか?本当に司祭様のお手伝い、お出来になられますでしょうか・・・」
「大丈夫よ。お前もいるし、マウラがいなくてもちゃんとこなせるわ」
城下の教会の司祭から、領民のために開かれる行事への参加を依頼され、伯爵は姉妹を行かせるようにしていたのだが、マウラが体調を崩し寝込んでしまったので、急遽ミリアムとオスカルの二人となった。
ミリアムは父の戒めを受けてから、城外へと出るのは初のことだ。
オスカルは、ぎゅっと美しい眉を寄せ、目を瞑り、狭い車の中ではあったが、座席から降りてミリアムの前に片膝を立てて跪いた。ミリアムは何事かと首を傾げた。
「ミリアム姫様、わたくしの懺悔を聞いて下さいますか?」
「何のための懺悔?」
「以前にも申しましたように、わたくしはお嬢様がマルク殿と親密となっていらっしゃるのを存じ上げておりました。もしも、その時にわたくしが上手く立ち回っていれば、状況は改善されていたやも知れません」
「・・・いくらお前でも、それは無理だったのじゃない?」
「いえ、憚りながら申し上げます。わたくしの中に、誠に無礼ではありますが、マルク殿では姫様に相応しくはない、という利己心がございました」
頭を下げたままのオスカルをミリアムは黙って見つめている。
「しかしながら、日に日に面変わりされていくお嬢様のご様子を見て、わたくしがしたことは、果たして間違っていたのでは、と思うようになって参りました。わたくしは、大切なお嬢様のお気持ちを最優先にしなかったということでございます」
「お前は父さまに仕えているのだから、仕方のないことでしょう」
オスカルは辛そうに言葉を吐き出している。
「何が正しいのかはわたくしにも解りませぬ。ただ、お辛そうなお嬢様をお側で見ているのは、この身を切り刻まれているような痛みにございます」
「面をお上げ、オスカル」
ミリアムがそう言い、オスカルは初めて主と目を合わせた。
「お前が苛まれる必要はないの。だって、これが現実なのですもの。お前が彼の君に渡してくれた文には、わたし、ありのままを書いたのよ。そして、君が何かを返してくれるのではないか、よもや、城からわたしを連れ出してくれるのではないかと、愚かにも待っていたの・・・」
オスカルはミリアムの緑色の目から一滴が落ちるのを見た。
「悔しいけれど、父さまは正しかった・・・。わたしも、君も、何の力も術もない、若輩者の夢物語の中を、浮き足立たせて歩いていただけにすぎなかったのよ」
嗚咽と共にミリアムが泣き崩れるのと、失礼致します、と言って、オスカルがミリアムを抱き留めるのがほぼ同時となった。
(なんとお労しい・・・、お嬢様・・・)
ミリアムがまだ小さき頃、昼寝をするのにぐずつくと、オスカルはミリアムの乳母から時折姫君を抱かせてもらい、あやしていた。
不思議とミリアムはその抱き心地が良かったのか、泣き止んでは寝入っていた。此度は昔のようにはゆかぬだろう、と、オスカルはミリアムの背を擦り続けた。




