キスのあとにみえたもの
「やぁー、気持ち良かったよなぁー」
「快勝だったわね」
マキとマークの初週末デートでの野球観戦はホームチームの勝利という結果に終わり、二人は軽く何かをつまもうとチャイナタウン内の日本食レストランにいた。開店して百年以上という老舗店で、店内にまねき猫がたくさん置いてある。
「サブロー君も大活躍したものね」
「ホントだよ。彼は観客への見せどころを知ってるし、そこでちゃんと打つんだ。全くすごいよ」
アルコールは一滴も飲まないというマークはとてもゴキゲンで、コーラを飲みながらまるで酒に酔っているかのように楽しそうだ。そんな彼の隣にいるマキももちろん嬉しい。
(野球のチケット、取ってよかった)
そう思いながら、マキは梅酒のソーダ割りを一口飲んだ。
「わ、なんだ、これ!?美味い!」
焼き鳥のねぎまを食べ、口の中でモグモグさせながら、マークが驚き眼で串をマキに見せた。
「初めて食べるものかも知れないわね。焼き鳥、というの。こっちも食べてみて」
と、マキは今度はタレの焼き鳥をマークに手渡した。一口食べてから、
「こっちも美味い!」
と、あっという間に串一本を食べ終えた。
「実家でもよくバーベキューするんだよ、で、母さんがチキンと野菜の串焼きを時々してくれるけど、なんでだ?こっちの方が美味しい」
「味つけの違いじゃない?和食はね、奥が深いの」
「へー、そうなんだ。オレはスシにテンプラくらいしか知らない」
「それだけが和食なんて思わないでね。種類は豊富だし、地方によって食文化が違うから。家庭料理も違うし」
マークがどう違うのか、と質問してきたので、マキは日本の食文化について説明し、日米の食へ対する考えの違いについて談義もした。
「そうか、だからオレはピザを焼くくらいしか出来ないのかも知れない」
「うん、多分ね。大抵のアメリカのおうちのキッチンって、キレイなの。なぜかというと、電子レンジしか使わないから、なのよね」
「いや、でもさ、そこは反論させてくれ。アメリカは開拓者の国なんだ。荒野に出ている者は腹を満たすことができれば、食べるものは何でも良かったんだよ」
「それもそうね」
外はすっかり暗くなり、マークの車で自宅まで送ってもらったマキは、玄関下の階段で見送るために車を降りた彼と向き合った。
「今夜もごちそうしてくれてありがとう」
「オレの方こそありがとう。キミと試合が一緒に観られて嬉しかったし、とても楽しかった」
「うん、あたしも楽しかった」
短い間であったものの、マキがそう言った後に沈黙があり、しばしお互いを見つめ合っていたが、マークの顔が近づいてきた。
(ほっぺにチュウ、ま、またもや!?)
と、マキがドギマギしていると、チュッ、と唇に乗せる程度のキスが落とされた。
(きゃあああー!ほっぺじゃなかった!)
そして、確認するかのように小さく笑みを作った後のマークの顔がもう一度近付いて来た。驚いている場合ではない、と、次に何が来るか悟ったマキは、マークの唇を手で抑え、
「まっ、待って!一つ聞きたいことがあるの!」
「なんだい?」
と、くぐもった声で聞いたマークは驚いているが、
「しばらく前に、あたし、あなたが女の人と腕を組んで歩いてるのを見たの。その人と付き合ったりなんてしてないわよね?」
マキが自分の口を押さえている手を掴んで離してから、マークは最初眉間に皺を寄せていたが、数秒後にはっきりと答えた。
「あの人とはあれから会ってないよ。オレは誰とも付き合ったりしていない。キミだけだよ」
フーッと息をし、肩が下がっていくのが自分でもわかった。
「安心した?続けてもいいかい?」
「・・・はい・・・」
唇が重なった。
と、同時にマキの脳裏にある光景が映画のワンシーンのように浮かんだ。
牧草地の丘。
すぐ前に海があり、岸壁が見える広大な景色。
そこにいる二人の若い男女。
両手をつないで、向き合っている姿。
胸の奥がぎゅー、と、締め付けられた。
懐かしくて涙が出てしまいそうになった。




