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虹色の扉  作者: ひめみや
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波乱

昼休みのこと。


ランチを買いにオフィスの外へ出たマキは、


(今日は何の気分かしらね~)


と、考えながら歩いていた。日に日に暖かくなっており、ここ北西部は春爛漫といった感じだ。


(スープを買いに行くか、それともそこの出来立てサンドイッチかな)


横断歩道に差し掛かり、信号は赤だったので立ち止まった。


すると、背中に視線を感じたような気がしたので、振り向こうとしたら、目の端で石畳の君ことマークが歩いてくるのが見えた。隣には女性がいる。


(え?)


信号が青になった。


マキは歩きだし、完全に後ろは向かないまま、視界に彼とその女性が入るよう横を向いた。マークは両手をポケットに入れて歩いており、その腕に連れの女性がするっと自分の腕を差し込んで、組む形となった。


マキは次のブロックの四つ角まで早足で歩いた。動悸がしていた。


(なに、何、今の?)


カーッとアドレナリンが出てくるのを感じ、辺りを歩き回ったが、どこか落ち着く場所は、と、この先に教会があったことを思い出し、夢中で駆け込んだ。


(ああ、神様、助けてください!)


マキはクリスチャンではなかったが、目に見えないものを信じる信仰心は多大に持っている。椅子に腰掛け、さっき見たことの整理を頭の中で試みようとしたが、完全にパニックになってしまい、三十分ほどそこにいて、あとはオフィスへ戻った。




エレベーターに乗り込もうとすると、蕗子にバッタリ会った。


「蕗ちゃ~ん・・・」


蕗子はビックリして、


「どうしたの!?麻姫ちゃん、顔が真っ青よ」


オフィスの蕗子の部屋に入るなり、麻姫が言った。


「石畳の君が・・・、女の人と腕組んで歩いてた・・・」


今にも泣きだしそうな麻姫の顔。蕗子は視線を宙に浮かせ、


「背の高い金髪の女の人だね。赤いワンピース着てる」


「うん。すごい、蕗ちゃん、見えたんだ」


すると、窓ガラスがピシッと大きな音を立てた。蕗子はそれを身体にでも受けたのか、


「わ、ほら、今、その人の念が飛んできたよ」


と、こめかみ辺りを押さえて、しかめっ面になった。


「あたし、この分だと午後は仕事にならないと思うから、早退する」


「うん、そうした方がいいね。あとね、麻姫ちゃん、フラワーレメディって知ってる?」


「何それ」


「植物から抽出された、薬とは違う自然療法のレメディ―なの。ナチュラル系のスーパーに売ってるから、帰りに行ってみたらどう?ショックな出来事が起きた時に服用して、それを和らげる効果がある種類のがあるから」


「わかった。探してみる」


麻姫が上司に許可をもらい、蕗子がロビーまで見送りに来た。


「ありがと。蕗ちゃん、また明日ね」


がっくりと肩を落として、とぼとぼ歩いていく麻姫のオーラが濃いピンク色なのを見て、


「麻姫ちゃん、元気出して。大丈夫だから」


と、蕗子は声をかけた。




蕗子に言われた通り、ナチュラル系スーパーでレメディを買った麻姫は、急に空腹感を覚え、スーパーの外二階にある炭火オーブンで焼いたピザを出す店に入った。


(これからって時に、失恋・・・?)


シンプルなマルゲリータとプロセッコを注文した。平日の昼間だが、これが飲まずにいられるか、とヤケになっていた。


周囲を見ると、忙しいランチの時間は終わったようで、客はまばら。イタリア人一家と思しき数人が、イタリア語で話しているのが聞こえた。


「プロセッコ、お待ちどうさま」


イケメンのバーテンダーが、フルートグラスをマキの前に差し出した。


「ありがとう」


「もう仕事は終わったの?」


イケメンお兄さんが聞いてきた。


「うん、というか、ちょっとショッキングなことが起きて、早退してきたの」


「そっか。大丈夫?」


マキは笑って見せ、


「まあ、なんとか、ありがと」


彼もニッコリと笑って返した。


薄皮のピザは美味しくて、一枚が大きいので半分食べてから、残りは持ち帰り用に詰めてもらった。


「君、甘いもの好きかい?」


「へ?うん」


お兄さんは、そうマキに聞くと、後ろに持っていたティラミスを前に出した。


「これ、僕からのおごり。元気出すんだよ」


「ありがとう!!」


(そうよ!クヨクヨするのはバカらしい。空は青いし、イケメンお兄さんは優しい!明日は明日の風が吹く!この世にある全てのものは美しいんだから)


マキはお兄さんにチップをはずんだ。店の名前は、そう、『この世の全てが美しい(Tutta Bella)』という。




それから家に帰り、マキは愛車を走らせ、海を見に行った。海は太陽の光の下、キラキラと輝いていた。よく行くフレンチ・ベーカリーに寄り、ここでも店員と楽しくおしゃべりした。


その夜はよく眠れずに、次の日の朝は四時頃に目が覚めてしまったが、どうせ早起きしたのなら、と、大きな公園まで散歩に出た。


公園内にアジア美術館があり、イサム・ノグチのオブジェが館前に設置してある。そこでストレッチをして、深呼吸を何度もした。朝の新鮮な空気が気持ちよかった。


今日も良い天気。落ち込んでいても仕方ない。今日は昨日よりも良い日になる、と、心から思えた。


マキの住む州の運転前における飲酒規制ですが、0.08%(ワイングラス1杯分くらい)が許可されています。

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