小間物屋にて再会
「じゃあ、姉さま、わたしはもう一軒の仕立屋を覗いてみますわ」
マウラがそう言って、姉とは反対方向へと歩いていくのを見てから、ミリアムは、
(さて、わたしは本屋か、貸本屋かしら・・・)
と、考えながら、ゆっくりと町を歩き始めた。
姉妹恒例の行事である町への買い物。都行きまであと数週間となったのだが、マウラは相変わらず夜会服選びに余念がない。それに付き合うのも楽しかったが、このところは頻繁にやって来るので、ミリアムは出てきても手持無沙汰を感じるようになってきた。
が、今日はどうしたことだろう、しばらく前に小間物屋で見て、気にはなったが購ってはいなかった耳飾りのことを思い出した。
(行ってみようかしら)
どの小間物屋であったかはうろ覚えであったが、記憶を辿りながら、足が自然と店に向いた。
店の扉を開け、目に入って来たものは、
(!!!)
「あ」
店の主が、
「いらっしゃい」
と、言ったのに応えながらも、店内にいる人物から目を離すことができなかった。
「あんたか」
何と応えていいかわからず、膝を少し曲げて会釈して見せた。いつぞやのあの男だった。
「お嬢さん、今日は何をお探しで」
「あ、あの、以前こちらで見た水晶の耳飾りがまだあるかしら、と、参りました」
主は明らかに男よりはミリアムのほうが買い物してくれそうだと踏んだようで、
「水晶のですか、ちょいとお待ちを」
「いえ、あの、先客のこちらをお先に。わたくしは急いでおりませんので・・・」
例の若い男は黙って主とミリアムのやり取りを見ていたが、何を思ったか、早足で店を出ていった。
「あ!」
ミリアムは男を追って、自分も店を出た。男はずんずんと歩いていく。
「待って!お待ちになって」
しばらく追っかけっこになっていたが、ミリアムが追い付いて、ようやく男が振り向いた。
「何の用だ?」
「あの、もし、もし、前にもわたくし共が無礼を働いたのでしたら、と、気になっておりました」
「あの、馬車がぶつかりそうになった時のことか?」
「そうです。なにやらご機嫌を損ねたように見受けられましたので」
「そりゃあな。俺みたいな貧しい者には施しが必要と思ったんだろうが、あんたのせいで荷が破けたわけじゃないから金をやる義理はあんたにはないし、俺ももらいたかない」
男はそう吐き捨てるように言った。
「それは大変なご無礼を致しました」
ミリアムは真っ直ぐに向き直り、謝った。男は彼女の視線を逸らした。
「今の店でも、わたくし、何かしましたでしょうか?」
「いや、あれはあんたのせいじゃない。店の主があんたの方を上客と思ったんだろうし、俺はああいった店は慣れてないもんで、居心地が悪かったというのもある」
先程の威勢はどこへ行ったのか、男は少々しどろもどろにそう言った。
「何かをお探しでしたの?」
「ああ、その・・・、妹たちに土産をと思って・・・」
女性に何かを買うこと自体不慣れなのはミリアムにも想像ができた。
「差し出がましいとは思いますが、以前のお詫びの印に、わたくしにお手伝いさせてはいただけませんか?」
「ええ?いいのか?」
「もちろんですわ」
ミリアムが男を連れて行ったのは、先程の小間物屋よりも小規模の店で、扱う品の値も庶民が手の届くものがたくさんあった。
男にはミリアムよりは年下だが同年代の妹、それとまだ十に満たない妹がもう一人いるとのことだった。値の張らないものを二つ選び、男はそれを購った。
買い物が終わり、店を出てから、男は照れ臭そうに、
「ありがとな、お嬢さん、選ぶのを手伝ってくれて」
「いえ。お安い御用ですわ。お気に召すものが見つかってよかったですわね」
「正直意外だったよ。あんたがこういう店を知っていたなんて」
男がそう言うと、ミリアムはきょとん、とした表情を見せた。
「だってあんた、どこかの金持ちのお嬢さんだろう。高級な品しか身に着けない」
ミリアムは笑顔で返した。
「確かに父はお金を持っておりますが、わたくし自身はあまり高級なものには興味がありませんの」
「そうなのか」
「わたくしの妹はそうしたものが好きなのですけれど、わたくしはこの町へ出てきても、いつも行くのは本屋に貸本屋」
「ああ、確か前にも本屋に行ってたな」
それから男は、姉妹が従者を待たせてある宿屋までミリアムと一緒に歩いた。
普段は知り合いのところに寝泊まりしているが、請け負いの勤めが終わると、母親と妹が暮らしている家に帰り、町へは出稼ぎに来ていることや、父親は数年前に病で亡くなったことなどを話した。
一度こういう風に話せば、これまでの気難しい印象はなくなり、意外にも話しやすい相手だとミリアムは思った。
「それじゃ、俺はここで。今日はとても助かった。礼を言う」
「いえ、本当にこれしきのことでお礼なぞ」
「会えてよかったよ」
そう言って、男は来た道を戻っていった。
ミリアムはしばらく男の姿を見送り、胸の鼓動が早くなっていることに気付いた。
(やはり、あの澄んだ目は、一度見たら忘れられない・・・)




