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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れから・・・
35/38

第33回 One Step

「ドクサを撃つ。南(韓国)だけでも見せしめに全滅させなさい」

「しかし、そうなれば統一作戦時に影響が」

「我が共和国が侵攻を受けるかもしれないときだ。そんなことをいっている暇はありません。それに残念ながらここにはいらっしゃらないが、最高指揮官たる第一書記閣下も同様の決を下すはずだ」

「わかりました。ご命令に応えて見せます」

「今度は絶対に当てなさい。貴方も「元」陸軍参謀長の後を追いたくないでしょ?。''新''陸軍参謀長。ところで、あの博士は?」

「彼が開発者であります。きっと弾頭の再確認行っているはずです」

13:00 高崎中学校グラウンド


 巻き起こる砂ぼこりに思わず目を閉じる。制帽を飛ばされそうになるので左手でおさえる。

 洋上の護衛艦「いずも」(DDH-183)から飛来した、海上自衛隊のヘリコプター(SH-60K)に死体ごと詰め込んだ。そしてヘリは、東京に向けて今まさに飛び立っていった。

 「これでなんとかなると良いですね」と消防団の制服を着た男が言う。消防団は私...支倉が中学校のグラウンドにパトカーごと乗り込むより先に待っていた。そして、中学校には避難した住民で溢れていた。

 「絶対に克服できる。人が作ったもの、人に克服できないようじゃ、ずっと昔に自滅してますよ」

 てっきり、脱出用のヘリが着たと思ったらしく、体育館から避難者が出てきていた。彼らには「緊急を要する感染者打開策の秘密兵器を輸送する」と伝えた。完璧に死んでいるとは言え、「死体」と伝えたら「ゾンビか!?」と騒がれるだろうから黙っておく。

 自衛隊ヘリが着陸すると言うことで反対する者は皆無だった。「震災効果」などと言うと語弊を生むが、この地域で自衛隊を明確に敵視する住民はほとんどいない。

 彼は祈った。遅くてもいい、時間がかかってもいい。しかし、ゾンビが溢れる世の中なんて終わってほしかった。この世に再び笑顔が戻ることを...。



同刻 JR陸前山王駅


 虚しい、という表現が正しいかもしれない。本来はこの車両に生存者をたくさん乗せて帰ってくるはずだった。

 幸いにして犠牲はでなかったが、それでも皆顔には出さないが「絶望」していた。

 2人救出して、1人が工作員で射殺され、実質1人しか救出できなかった事実。もう多賀城に生存者は誰もいないのではないだろうか。

 佐藤が考えにふけていると、桜井が声を掛けてきた。

 「おつかれさんです」

 「あ...はい、お疲れさまです」

 「あんま救助できませんでしたな」

 「えぇ、思ったよりも遥かに少なかった」

 「それで考えに更けていたんですか?」

 「あ...いや」

 「それでいいんですよ」

 「はい?」と思わず佐藤が聞き返す。

 「私はこう考えんですよ。確かに我々が想像したより遥かに人数は少なかった。でも、1人だけ救出できたんです。たとえ、1人だけでも大切な命だ。それを連れ帰れただけでも上出来じゃないか、とね」

 「えぇ、もちろんその通りです。しかし、どうしてもこういった結果だと..」

 「佐藤さんは、何をもって多賀城壊滅としますか?」

 「へ?」と突然の質問に驚く佐藤。

 「...そうですね、市民全員が死んでいたらですかね」

 「それじゃ、市民の5割が無事に市外に逃げていたとして、残りの5割が死んだら壊滅ですか?」

 「...さぁ..、どうなんでしょう。街としては誰もいなくなった時点で壊滅ですが、人間をカウントするのならば、「壊滅」というより「甚大な被害」とかのように表現するべきですかね」

 「もしかしたら、市民の5割方は逃げたしていたのかもしれない。そして4割と少しが怪物に、残りの1割にもなりませんが、ごく少数を我々が救出した。そんなふうに考えたほうがいいんじゃないですかね」

 「....ものすごく楽観論な気がしますけど」

 「いいじゃないですか、これぐらい。これから我々はもっと地獄を見るかもしれない。少しぐらい楽観的になりましょうや。あえて「楽天的」とでも称しますかね」

 「それだとプロ野球ですよ」

 「私はこう見えて中学の頃野球部だったんですよ。2ヶ月だけど」

 「それはカウントして良いんですか?」

 佐藤に笑みが戻りかけたとき、菅原がやって来た。その笑みを慌てて消し、敬礼する佐藤。

 「なにやら楽しそうな話をしてますね」

 「いや、そんなこと無いですよ。ただ私が野球部だった頃の話をしただけです」

 「聞きたいですね、私も高校は野球部だったんで」

 「それはそうと、先程はありがとうございました。おかげで落ちずにすんだ」

 「いやいや、そんなことありませんよ。それよりあの公安の方は?」 

 「本部に報告しています。あんなに憔悴しきっていたのに、自分の手柄はすぐに報告しますね」

 「でも射殺しましたよね?」

 「それだって上手くごまかすでしょう。相手が銃を構えて逃げようとして、ウィルスをばらまこうとしたから撃った、とか」

 「しかし、我々は、特に桜井さんは全てを見てますよね」

 「見てますけど、変にかかわり合い持つとあぁ言うタイプは面倒ですから。あっちはキャリア、こっちはノンキャリ。それに一応逃亡阻止はしたんですから、上も多目に見てくるでしょう」

 結局は無意味な射殺であっても....。2人は同時に同じことを考えた。

 「これからどうするんですかね」

 「とりあえず連隊本部からは帰還命令が出ているので」

 「多賀城に?」

 「まさか。臨時で苦竹の仙台駐屯地に部隊主力は移動します。連隊本部も折り合いを見て七ヶ浜から移って、代わりにホバークラフトを使って宇都宮から部隊が入る予定です」

 「大和町の戦車部隊が出てくるそうですね」

 「戦車というか装輪戦闘車というべき代物ですがね。すでに東部道路に入って向かっているはずですね」

 空が青かった。こんなにきれいな空なのに地獄がある。それが信じられなかった。

 73式大型トラックが駅前ロータリーに入ってくるのが見えた。

 一切の連絡が途絶えた。こっちから連絡してもあいつはでない。失敗したと見るべきだろう。

 こうなればこの国にいるのは危険だった。いずれは自分に手が及ぶだろう。なんとしてでも脱出、最悪は自決しなければ。

 この国は危険と思ったのか、成田空港には多くの外国人が出国しようと列をなしている。その中には日本人らしきものもいる。いいなぁ、貴様らは。そうやって好きに国を捨てられて。愛国心皆無の貴様らに、我が共和国の現状など想像できないものだろうな。

 せめて、国外だ。そして何度か経由して祖国に変えれればそれでいい。とりあえず列に並ぶ。

 人を隠すなら人混みのなかだ。

 

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