第33回 One Step
「ドクサを撃つ。南(韓国)だけでも見せしめに全滅させなさい」
「しかし、そうなれば統一作戦時に影響が」
「我が共和国が侵攻を受けるかもしれないときだ。そんなことをいっている暇はありません。それに残念ながらここにはいらっしゃらないが、最高指揮官たる第一書記閣下も同様の決を下すはずだ」
「わかりました。ご命令に応えて見せます」
「今度は絶対に当てなさい。貴方も「元」陸軍参謀長の後を追いたくないでしょ?。''新''陸軍参謀長。ところで、あの博士は?」
「彼が開発者であります。きっと弾頭の再確認行っているはずです」
13:00 高崎中学校グラウンド
巻き起こる砂ぼこりに思わず目を閉じる。制帽を飛ばされそうになるので左手でおさえる。
洋上の護衛艦「いずも」(DDH-183)から飛来した、海上自衛隊のヘリコプター(SH-60K)に死体ごと詰め込んだ。そしてヘリは、東京に向けて今まさに飛び立っていった。
「これでなんとかなると良いですね」と消防団の制服を着た男が言う。消防団は私...支倉が中学校のグラウンドにパトカーごと乗り込むより先に待っていた。そして、中学校には避難した住民で溢れていた。
「絶対に克服できる。人が作ったもの、人に克服できないようじゃ、ずっと昔に自滅してますよ」
てっきり、脱出用のヘリが着たと思ったらしく、体育館から避難者が出てきていた。彼らには「緊急を要する感染者打開策の秘密兵器を輸送する」と伝えた。完璧に死んでいるとは言え、「死体」と伝えたら「ゾンビか!?」と騒がれるだろうから黙っておく。
自衛隊ヘリが着陸すると言うことで反対する者は皆無だった。「震災効果」などと言うと語弊を生むが、この地域で自衛隊を明確に敵視する住民はほとんどいない。
彼は祈った。遅くてもいい、時間がかかってもいい。しかし、ゾンビが溢れる世の中なんて終わってほしかった。この世に再び笑顔が戻ることを...。
同刻 JR陸前山王駅
虚しい、という表現が正しいかもしれない。本来はこの車両に生存者をたくさん乗せて帰ってくるはずだった。
幸いにして犠牲はでなかったが、それでも皆顔には出さないが「絶望」していた。
2人救出して、1人が工作員で射殺され、実質1人しか救出できなかった事実。もう多賀城に生存者は誰もいないのではないだろうか。
佐藤が考えにふけていると、桜井が声を掛けてきた。
「おつかれさんです」
「あ...はい、お疲れさまです」
「あんま救助できませんでしたな」
「えぇ、思ったよりも遥かに少なかった」
「それで考えに更けていたんですか?」
「あ...いや」
「それでいいんですよ」
「はい?」と思わず佐藤が聞き返す。
「私はこう考えんですよ。確かに我々が想像したより遥かに人数は少なかった。でも、1人だけ救出できたんです。たとえ、1人だけでも大切な命だ。それを連れ帰れただけでも上出来じゃないか、とね」
「えぇ、もちろんその通りです。しかし、どうしてもこういった結果だと..」
「佐藤さんは、何をもって多賀城壊滅としますか?」
「へ?」と突然の質問に驚く佐藤。
「...そうですね、市民全員が死んでいたらですかね」
「それじゃ、市民の5割が無事に市外に逃げていたとして、残りの5割が死んだら壊滅ですか?」
「...さぁ..、どうなんでしょう。街としては誰もいなくなった時点で壊滅ですが、人間をカウントするのならば、「壊滅」というより「甚大な被害」とかのように表現するべきですかね」
「もしかしたら、市民の5割方は逃げたしていたのかもしれない。そして4割と少しが怪物に、残りの1割にもなりませんが、ごく少数を我々が救出した。そんなふうに考えたほうがいいんじゃないですかね」
「....ものすごく楽観論な気がしますけど」
「いいじゃないですか、これぐらい。これから我々はもっと地獄を見るかもしれない。少しぐらい楽観的になりましょうや。あえて「楽天的」とでも称しますかね」
「それだとプロ野球ですよ」
「私はこう見えて中学の頃野球部だったんですよ。2ヶ月だけど」
「それはカウントして良いんですか?」
佐藤に笑みが戻りかけたとき、菅原がやって来た。その笑みを慌てて消し、敬礼する佐藤。
「なにやら楽しそうな話をしてますね」
「いや、そんなこと無いですよ。ただ私が野球部だった頃の話をしただけです」
「聞きたいですね、私も高校は野球部だったんで」
「それはそうと、先程はありがとうございました。おかげで落ちずにすんだ」
「いやいや、そんなことありませんよ。それよりあの公安の方は?」
「本部に報告しています。あんなに憔悴しきっていたのに、自分の手柄はすぐに報告しますね」
「でも射殺しましたよね?」
「それだって上手くごまかすでしょう。相手が銃を構えて逃げようとして、ウィルスをばらまこうとしたから撃った、とか」
「しかし、我々は、特に桜井さんは全てを見てますよね」
「見てますけど、変にかかわり合い持つとあぁ言うタイプは面倒ですから。あっちはキャリア、こっちはノンキャリ。それに一応逃亡阻止はしたんですから、上も多目に見てくるでしょう」
結局は無意味な射殺であっても....。2人は同時に同じことを考えた。
「これからどうするんですかね」
「とりあえず連隊本部からは帰還命令が出ているので」
「多賀城に?」
「まさか。臨時で苦竹の仙台駐屯地に部隊主力は移動します。連隊本部も折り合いを見て七ヶ浜から移って、代わりにホバークラフトを使って宇都宮から部隊が入る予定です」
「大和町の戦車部隊が出てくるそうですね」
「戦車というか装輪戦闘車というべき代物ですがね。すでに東部道路に入って向かっているはずですね」
空が青かった。こんなにきれいな空なのに地獄がある。それが信じられなかった。
73式大型トラックが駅前ロータリーに入ってくるのが見えた。
一切の連絡が途絶えた。こっちから連絡してもあいつはでない。失敗したと見るべきだろう。
こうなればこの国にいるのは危険だった。いずれは自分に手が及ぶだろう。なんとしてでも脱出、最悪は自決しなければ。
この国は危険と思ったのか、成田空港には多くの外国人が出国しようと列をなしている。その中には日本人らしきものもいる。いいなぁ、貴様らは。そうやって好きに国を捨てられて。愛国心皆無の貴様らに、我が共和国の現状など想像できないものだろうな。
せめて、国外だ。そして何度か経由して祖国に変えれればそれでいい。とりあえず列に並ぶ。
人を隠すなら人混みのなかだ。




