第32回 Ballistic Missile Defence of Patriot
12:55 埼玉県 航空自衛隊入間基地
「レーダーコンタクト(目標探知)。数は1。目標、弾道弾間違いなし」
その声が基地内に設置された仮設指揮所に響く。
感染者の発生や、米軍発の弾道ミサイル警戒情報受信時点で展開決定し、準備されていたPAC-3部隊。司令部からの連絡で、弾道弾一基の落下を確認。迎撃用のレーダーでも目標が確認されたため、直ちに迎撃行動に移る。
「オールクルー、これより迎撃を行う。目標呼称をαとする」
「ターゲットα、ペトリオット射程圏内到達まで20(トゥエンティー)seconds(20秒)」
「ラジャー、キルコーン突入同時迎撃開始。発射弾数2発。10秒間隔でファイア」
「はいラジャー、キルコーン突入同時迎撃開始。発射弾数2発。カウント15セコンド、第2発射30セコンド」
PAC-3の場合、1つの発射筒に4発搭載されており、最大1発射機に16発搭載可能だ。入間基地に駐屯する第1高射群第4高射隊は、予備も含めて40発分のPAC-3が装備されているため少々余裕がある。
また、年々向上はしているが、ペトリオットミサイルは命中率の低さが指摘されている。そのため2発放つことにより、迎撃率を高めようとしたのだ。
それでも、航空自衛隊の試験では、ほぼ9割越えの命中率であったが。
「10セコンド。9、8、7、6」
「スタンバイ」
「ターゲットαに変化無し」
「ターゲットαキルコーン(射程圏内)」
「ファーストエンゲージ、ファイア!」
「ファイア」
指揮所から離れ、誘導路脇の敷地に設置されていた発射機よりPAC-3弾1発が発射蓋を突き破った。白煙を残し、一気に加速していく姿は、まるで龍のようであった。
きっかり15秒後に第2射が放たれる。
終末段階の状況である目標は、すでに高度を落とし始めていた。
「ファースト命中まで90セコンド」
「ペトリオット、飛翔状況問題なし」
「ファーストインターセプトまで20セコンド」
「ターゲットα接近」
「誘導状況問題なし」
「インターセプト10セコンド、9、8、7、6、5、4」
「スタンバイ...マークインターセプト」
「ターゲットα、命中。されど完全破壊ならず。飛翔中」
「セカンドファイア位置修正」
「セカンドインターセプト10セコンド」
この1発を外せば、落下は必須だ。
「...8、7、6、5、4」
「スタンバイ、マークインターセプト」
「ターゲットα(目標破壊)キル!ミッションクリア!」
「よしっ!!」
と皆が皆済を叫んだ。
しかし、PAC-3の重大な欠点は、成層圏外での破壊ができないため、撃墜された目標の破片が落下してくることだ。
撃墜されたテポドンは、自らの破片をばらまきつつ首都圏に落下した。もちろん、搭載されていた「弾頭」も。
北朝鮮には既に、生物化学弾頭を成層圏突入や弾頭の飛翔熱から完全に防護できる技術があった。そのため、これが着弾していれば間違いなく、さらなるウィルス感染が期待できた。
しかし、弾頭はPAC-3の攻撃により破壊されていた。即ち、ウィルスが外に流出したのだ。
結果、成層圏の高温に耐えられなかったウィルスは無力化された。もっとも成層圏を越えていたとしても、外に流出した状態では高度3万フィートの寒さに耐えられたとは思えないが。
一方、海上自衛隊の迎撃をすり抜けた2つの目標は、「成層圏再突入時」に米海軍第3艦隊所属ミサイル駆逐艦(イージス艦)「カウペンス(CG-63)」により「サクッ」と撃墜された。
これにより被った被害は、日本の首都圏において、破片によりガラスが割れたり、建物に傷がつく程度であった。人的被害は皆無。
一方、北朝鮮にとっては悪夢だった。なぜなら、高い金をかけて行った弾道弾による攻撃が失敗したからだけでなく、ろくな被害を出さずに相手に「自国」を攻撃させる明確な「建前」を与えてしまったのだ。
「なんたるざまだ!!」と我ながら驚いた。思わず笑ってしまった。
せっかく用意した弾頭が無駄になっただけでなく、テポドン1基に関しては、完全に整備ミスで日本を越えるどころか日本に落下しかけたのだから。それも打ち落とされる始末。
それに、思っていた遥かに感染拡大が少ない。この世は映画と違って死体が蔓延りにくいの世の中なのだ。中国と韓国は対応が後手後手だから、なんとか拡大しつつあるが。それにしたって、中国は陸軍の精鋭部隊を投入したらしく、少しずつ規模が抑えられてきているらしい。天安門みたいに戦車で引き潰していたりもしているらしいが。
このままでは、いずれ「粛清」されるだろう。なんとしても、まだ死にたくはなかった。
研究のために多くの人間を殺めた張であったが、なんとしても生き延びたかった。
頭の中で「亡命」という二文字が次第に大きくなるのを感じた。




