第31回 Ballistic Missile Defence of Aegis
12:49 新潟県佐渡島 航空自衛隊佐渡分屯基地
「コンタクトっ!」。警戒管制員を務める空士長が叫んだ。
「未確認飛行目標。西南方向より複数探知。上昇中!」
その一言に当直管制指揮官の三等空佐は顔を青ざめた。
佐渡分屯基地にあるJ/FPS-5レーダーが捉えた内容は、リンクシステムを介して速やかに上部組織である中部航空方面隊(入間基地)、航空自衛隊実戦部隊の総本山である航空総隊(横田基地)にリアルタイムで情報が送られていた。
12:50 日本海能登半島沖300Km
1週間前に通常の弾道ミサイル警戒任務のため出港していた第3護衛隊群所属、ミサイル搭載護衛艦(イージスシステム搭載艦)「あたご(DDG-177)」は、リンクシステムから、そしてBMD指令部(横田)からの指示を受けていた。すでに第1哨戒配備(総員配置)、合戦準備・対空戦闘用意が発令されている。
わずか約2時間半前に指令部経由で知らされた米軍からの「警戒情報」。まさか、こんなにも早く「北」が撃つとは。薄暗いCICでは、写る画面に「北」が発射した事実を示していた。
「SPYレーダー目標探知。120(ヒャクフタジュウ)度7機。緩やかに上昇中」と船務科電測員がヘッドセットのマイクに吹き込む。
と、砲雷科のトップである砲雷長が同じCICにいる艦長に「攻撃します」と宣言する。
艦長はただ一言「了解」と言う。
なお、「あたご」は同任務で協同していた第1護衛隊群所属のあたご型三番艦「あおば(DDG-179)」と、急遽舞鶴より駆けつけた同じ第3護衛隊群所属のこんごう型三番艦「みょうこう(DDG-175)」の3隻で対処する。
「新たに目標探知。120度3機。緩やかに上昇中」と電測員。砲雷長は内心舌打ちする。
「先の目標群をαとし、後続の目標群をβと呼称する」
「α目標群の第一から第四目標に対する迎撃を本艦が行う。「あおば」には残りの三個目標に対する迎撃を要請。β目標群迎撃を「みょうこう」に要請」
「了解。α目標群第一から第四を本艦、残り三個目標は「あおば」に対処要請。β目標群迎撃を「みょうこう」に要請」
砲雷長が発令した命令を一言一句復唱する砲雷士。そして速やかに「あおば」「みょうこう」に通達する船務士。
しかし、データリンクで互いに結ばれている両艦は、互いのコンピューターが危険度と効率的な迎撃方法を判断。すでにレーダースクリーンには。迎撃目標が指定されていた。
迎撃用対空誘導弾発射地点や目標の未来予測、高度、速さが画面に映し出される。それは「ゲーム」の世界に見えた。
迎撃率を高めるために「目標に対し、二発ずつ発射」を指示したいが、陸地は怪物であふれている。補給が期待できない現状、弾薬を節約、次なる攻撃に備えるために1発のみを発射する。そもそも、イージス艦(2017年の時点で海上自衛隊が保有する全イージスシステム搭載艦は、BMD対応艦となっている)にはSM-3何十発も搭載されていない。
「対空戦闘、SM―3攻撃はじめ」
「SM-3攻撃はじめ」
「発射20秒前」
「目標進路・速力変わらず。依然飛行中」
「艦橋は前甲板ミサイルの発射に備え。発射後飛翔状況確認」
「発射警報作動」
「発射10秒前。9、8、7、6」
「スタンバイ」
「前甲板VLS開放」
「発射用意!」
「3、2」
「サルボーファイア、撃―っ」
「バーズアウェイ(発射)」
「シュゴー!」、という音ともにミサイルが躍り出る。白煙を残しながら上昇するSM-3。「あたご」より発射された4発のSM-3BlockⅠBミサイルは、飛翔状況に問題なかった。
ほぼ同時に「あおば」より残りの目標に対して発射される。
さらに53秒後には、次の目標群に向けて「みょうこう」が迎撃を開始した。
「αインターセプト(撃墜予定時刻)170秒前」
「SM-3正常に飛行中」
「目標群以前捕捉中」
「αインターセプト30秒前」
「α目標群第三、第五、第六目標はICBMクラスと思われる。迎撃不能」
現行配備型のSM-3BlockⅠBタイプでは、能力の限界から大陸間弾道弾(ICBM)の迎撃は不可能だ。この時点で「サーファイブ(迎撃失敗)」が確定した。
無念さを吐いたような溜息が聞こえた。
「インターセプト10秒前。9、8、7、6、5、4。スタンバイ...マーク・インターセプト」
その瞬間、レーダースクリーンから4つの目標が姿を消した。目標命中が表示される。
「第一、第二、第四、第七目標撃墜。第三、第五、第六目標は依然飛行中」
「了解、β目標群に対するインターセプト40秒前」
「βインターセプト20秒前」
「第五目標降下開始!。本土に落下しています」
なに!?、とCICにいた全員がその報告に反応した。朝鮮半島や中国大陸から発射されるICBMクラスは本来、日本狙いに使われることはない。距離が近すぎるからだ。1998年三陸沖に落下した「テポドン1号」は、最短射程距離が三陸沖辺りだった。
もし、本気で日本を狙うなら「ノドン」や「ムスダン」を代表とした(準)中距離弾道弾(IRBM)クラスが丁度良い。
「司令部に通報急げ」
射程外。迎撃は出来ない。
「βインターセプト10秒前。9、8、7、6、5、4。スタンバイ...マーク・インターセプト」
「ターゲットキル(目標撃墜)」
その瞬間、ほっとした空気が流れた。しかし、
「第五目標の状況を確認!」
まだ、残っているのだ。
「よろしくお願いします」と桜井。
佐藤 幸夫が死んだ今、彼を手引きした者がだれなのか分からない。
しかし、間違いなく彼のポケットには「検体」があった。だから、列車を止めて、列車と並走していたパトカーの警察官に預けるのは当然だった。
本来なら然るべき防護措置を施した車両が望ましい。しかし、時は一刻を争う。東京の国立感染症研究所に届けるために、ここから高崎中学校まで走り、海上自衛隊の哨戒ヘリコプターに届ける。そしてそのヘリは東京まで飛ぶ。
頭部に包帯を巻き、少しでも見栄えをよくした亡骸は、「死んでる」はずだ。蘇るなよ、と念力桜井はかける。
敬礼を交わしパトカーに乗り込む警官...支倉は、「親子の次は死体をのせるのか...」と心のなかで一人ゴチていた。




