第30回 無謀
「ひゅうが(DDH-181)」は日韓領海線付近に突入した。
任務は自衛隊創設、いや戦後初の「報復作戦」であり、先程の潜水艦撃沈とは比べられない武力行使に備えたものであった。
12:46 脱出列車2両目
「움직이지말아!(動くな!)」
その声と突然の気配に慌てて振り向いた。
そこには、先程の公安3人が銃口を俺に向けて立っていた。
「총을버려투항해라(銃を捨てて投降しなさい)」
土台人とは言え、ハングル語には馴染みがある。奴らはそれを知って使っているのであろう。
公安の後ろから迷彩服を着た軍人達が走ってくるのが見える。祖国もあのような装備の軍人ばかりであれば、すでに南朝鮮を解放していたであろうか。
「...俺は諦めない!」
そういって、俺は七三男を盾にしつつ、窓際に近寄った。
「開けろ」
と七三男に命令しつつ、銃は常に前に向ける。奴らは発砲してこない。さすがは日本人、安定の平和主義か。
「俺の左胸のポケットには、今回の怪物達を作り上げたウィルスが入っているんだ!、迂闊に撃たない方が身のためだぞ!」
最大限の脅しを効かせつつ、いかにこの場から脱出するための行動をとる。
「死ね豚足共」
そういって、俺は空いた窓枠に手をかけた。
「さらばだ」
だから言わんこっちゃない!!。桜井は思った。
男の行動は、すべて予測していた。だからこそ狙撃すべきであった。
が、七三警官が名誉挽回とはがりにP230拳銃を土台人に向けたのは予想外だった。邪魔でここから撃てない。
「くそっ!」。舌打ちをしつつ、土台人を取り押さえるために走り出す。
「パンッ」と乾いた音が響いたのは、その時であった。
撃たれたと直感したのは、音や痛みのせいではない。力が突然抜けたのだ。窓枠を掴んでいた手はするりと滑り落ち、上半身が枠を越え外に出る。
転落する過程で、男の目には田んぼの畦道を列車と並走するパトカーが一瞬見え、そして線路が視野一杯に広がった。
「なにやってんだよ!?」と支倉は思わず叫んだ。脱出列車を見つけたから追跡...といっても、ただ脱出列車の警戒監視をしているだけだが...していれば、突然男が窓枠から身を乗り出そうとした。
「まさか、列車の中にも感染者!?」と思うか否か、男の頭で何かが弾けた。
そして、そのまま列車から落ちかけた。
「ンクッ!」と謎の声を出しつつ、間一髪で男の襟首を掴んだ。しかし、その勢いで自分も落ちそうになる。
ぐいっ、と背中を捕まれたと思えば、そのまま後ろに引きずられた。土台人ごと列車の中に戻されると、自分を掴んでいたのが菅原であったことを知った。
「どうもです」
礼を言ってから、土台人を見る。
後頭部から進入した弾丸は、眉間辺りを突き破って貫通していた。ピンク色の脳漿が髪の毛にこびりついている。白目を剥いている男は即死だろう。
一番気になったのは、男の言った左胸にサンプルがあるかどうかだ。しかし、中を覗く気にはならなかった。きっと箱か瓶にでも入れているだろうし、もし破損でもしていれば流出する原因になるだろう。
射殺する必要は無かった。足でも手でも撃って、逃亡を阻止した上で確保すればよかった。はずした場合の跳弾も心配であるが。
射殺した当人をみると、完全に動揺していた。勝手に撃って、勝手に人を殺した感覚でも味わっているのだろうか。
とにかく、男は死んだ。この先、事件解決の頼み綱は断たれた。
航空自衛隊 小松基地
1機の双発の航空機が、特徴的なローターを上に向けて待機していた。空自の洋上迷彩と似た塗装を成された機体は、昼間でも不気味に見えた。
昨年陸上自衛隊に納入されたMV-22B「オスプレイ」の日本仕様『MV-22J』には、今や遅しと男達を待っていた。
と、緑色の迷彩服を来た男達が走ってきた。装備は陸自でポピュラーな89式やミニミ...ではなく、HK416やG36C、M4(M203グレネードランチャー付)を装備していた。
20名乗り込む。そして、無言で男達は椅子に腰を掛けた。
エンジン音が大きくなる。そして、ハッチが閉まりきらないうちに機体は垂直に離陸した。
そして、ミサゴ(=オスプレイ)の名の如く、すべらかに西へと向かっていった。
その離陸には関係者以外、誰も気づかなかった。




