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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れから・・・
31/38

第29回 工作員(スパイ)

 「第7艦隊第70任務部隊は既に横須賀を発ちました。第5空母打撃群は東シナ海です」

 「ジョージ、SSGN(巡航ミサイル搭載原潜)は?」

 「海軍部長より、グアムから「ミシガン」を回航させたと連絡が入っています。現在は丁度第5空母打撃群の後方くらいに位置していると思われます」

 「ジョージ、我々は7,000万という北朝鮮国民が難民と化し、周辺国に雪崩れ込むことに恐怖を感じ、今までほっといてきた。そのツケがこれだ。私は準備でき次第、躊躇いなくトマホークを叩き込ませるよ。ゾンビごと焼却すれば問題ない」

 「Yes sir Mr. President。私も強いアメリカの意思を世界に示したいと思います」

 「全軍に伝えるんだ、徹底的にやれと。神の裁きを下せと」

12:40 臨海本線多賀城イオン付近


 「ピーッ!!」と甲高い警笛と共に、列車は後退し始めた。考えていたよりも多くの感染者による襲撃を受けた。被害は皆無だが、明らかに弾薬をかなり消費した。そもそも、まだ奪還作戦自体も本格的に考慮されていない現状、無理矢理部隊を展開するよりも温存する方が得策だ。

 機関車が引っ張っているため、行きと違い、帰りが転回できない以上「バック」して戻るしかない。だから、最後尾の車両に自衛官が無線を持って乗り込み、障害物等の警戒を行っていた。

 


3両目


 まさか救出部隊の中に公安警察がいるとは思いもしなかった。少なくとも俺の行き先を予測していたのだろう。それにしても....。

 本人達は「知らぬ存ぜぬ」の表情で「お世話係」と自己紹介した上で、俺の側を離れようともしない。笑っていない目は常に俺のことを見ている。

 ただ、公安警察らしき男のうち3人はまともだが、もう1人はどう見ても無能にしか見えない。きっとキャリア組の中でも「外れ」タイプだろう。自分を「警察官」ではなく「官僚」と考え、ただ粛々と上の椅子を狙っている。自己保身には猛獣的だが、利用するには物凄く簡単なタイプだ。なにかあれば一番利用しやすい....。

 列車は少し速力を上げた。



4両目


 弾薬の補給をする。手榴弾の類いは無かったが小銃弾だけでも補給できるのはありがたかった。

 「小隊長」と大和田が声をかけてきた。

 「なんだ?」

 「あの人、いったいなんなんでしょうか?さっきからいろんな方向に目を向けているんですよ。まるで特戦(特殊作戦群)の連中みたいに」

 あの人...先程救出した男に目がいった。

 一瞬、去年、王城寺原演習場で、合同演習したときに見た特殊作戦群の連中の顔が浮かんだ。対ゲリラ戦指導のため訪れた彼らは、たとえテントの中でも隙のない目を周囲に向けていた。まるで、自分以外すべてを敵だと思っているかのように。

 そんな思いを伏せつつ、俺は否定する。

 「...気のせいじゃねぇの?」

 「いや、そんな風には思えないですけどね」

 納得のいかない表情をしながら改めて見る大和田。

 もし俺たちの認識が正しければ奴はなんだ?、そんな想いを浮かべていた。

 


3両目


 「あの、すみません」

 七三訳の髪型をした公安に声をかけた。

 「なんでしょう?」

 「実はお話ししたいことが...」 

 「ここではダメですか?」

 「あなたを信頼して、二人だけでお話がしたい。あまり聞かれたくない」

 そういうと、男は他の三人に目配せをした。

 「奥で話しましょう」

 「ありがとうございます」

 そういって立ち上がった。

 「君達はここで待機していてくれ」

 「しかし」

 「いや、いいんだ。二人で話をしてくる」

 と、見事に男は引っ掛かった。やはり、こういうタイプには「信頼」を見せて「戦果=占有物」を保証すると喜ぶ。

 「さぁ、奥へ」


 「大丈夫なんですか?」と元SAT隊員の男が言う。確かに危険すぎる。

 「私も君らと同じ意見だが、階級とキャリアではあちらさんが上だ。従うしかないよ」

 警察組織における最もな弊害は「キャリア」だろう。それに学歴社会でもある。

 三人の男たちは、警察庁から出向している東大卒のキャリア男と「対象者」を心配そうな面持ちで見送った。

 「こうなったら、ちょっとくらい命令不服従するかね」



2両目


 ここの車両はうるさい。進行方向とは反対だが、目の前にディーゼル推進の機関車があるのだ。

 その結果、この車両は物資や弾薬、屋外展開に備えて持参されたテントなどの倉庫とかしている。

 「で、お話というのは?」

 と若干声を大きくして、七三男が聞いてきた。

 「いや、大したことありません」

 そういって俺は懐に隠していたマカロフ拳銃を取り出した。

 すぐに七三男の顔が音を立てるように青に変わる。

 「佐藤さんなにを.....」

 「知っているんでしょう、私が工作員(スパイ)だと言うことを。そんな相手に、よく一人で挑めたもんだ」

 「こ、ここから、逃げれるわけがない」

 「なにを言ってんの?走行しているなんて関係ない。降りれば平地で、しかもここは日本。走行中の列車から降りるわけないと孝(たか)をくくったあんたは無能だよ」

 そういって、俺は躊躇いなく七三男の眉間に銃口を向けた。

 「問題なのは、周辺国の意思とは無関係に米軍が動いているということです。もし北の国家体制が消滅すれば、押さえどころが効かなくなり、国民や軍人が暴走するだろう。ゾンビでも体一杯なのに、この上テロまで起きれば、日本は崩壊する」

 「総理、韓国政府は事実上崩壊しました。理由は報告の通り、大統領が脱出したことを副総理が漏らしてしまったからです。お陰で国民も軍も大混乱です」

 「韓国海軍のイージス艦...なんだっけ、菅さん」

 「西厓柳成龍(ソエ・リュ・ソンニョン)です」

 「あぁ、ありがとう海幕長」

 「海幕長の言う、その艦が座上艦というわけです」

 「おまけに、その艦から韓国政府名で「海上補給の要請」が来ております。日本国政府の「慈愛」でしてほしいと」

 「つまり、タダで燃料とか水とか欲しいんですよね」

 「総理、政府としては人道的配慮から認めざる得ないでしょう。国民を差し置いて脱出しておりますが」

 「菅さん、回答は保留だ。こっちだって忙しい。国民を見捨てた大統領の要請をすぐに返せるほど日本は安全じゃないんだ。そんな感じで海幕長もよろしく頼みます」

 「承知しました」

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