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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れから・・・
30/38

第28回 到達

「支倉さん!柏木巡査生きてましたよ!」

「本当ですか!?今、巡査は?!」

「自衛隊ヘリで松島の基地に向かったそうです」

「そうですか!わざわざありがとうございます!」

「向かわれますか?」

「...いえ、大丈夫です。後からゆっくりイビりますから」

「そ、そうですか。支倉さんにお願いしてもいいですか?。臨海線の警戒に向かうやつ」

「あぁ、はい構いませんよ。しかし、なんで帰りの脱出列車を警戒するんですかね?」

「さぁ、暴徒でも襲うと思っているんですかね?」

12:28 臨海本線イオン付近


 「なるほどな~」と先程噛みついてきた感染者を改めて見る。今だからこんなに余裕ぶっこいて見れる。さっきは本気で絶望した。

 俺の右腕を噛んだ感染者には、上の歯が無かった。そう、つまり入れ歯だ。それがどこかでか外れたらしい。それで下の歯も力が入らず、ちょっとした甘噛みになったわけだ。ちくしょー、舐めやがって。

 後ろに気配を感じた。振り向くと、夏制服の警官...たしか「桜井」と名乗った中年の警官がいた。

 「聞いたよ、小隊長さんに。大変だったね」

 「あ、いや、本当にダメかと思いました」

 「たぶん俺なら、噛まれなくても腕の骨折られそうだね。さすが自衛官と言うべきか若者と言うべきか...」

 そう言うと、桜井は笑い始めた。俺も少しつられて笑う。

 「そうだ、申し訳ないんだけど、この不気味な背広の人達が安全に線路を降りられるか見ててもらってもいい?」

 気づくと、桜井の後ろには黒い背広を着た男4人がいた。2人はスポーツ刈りだが、残り2人はまるで警察官僚を絵にかいたように七三分だ。ネクタイこそしていないが、ジャケットが暑苦しい。

 「...別に構いませんが、街に降りられるのですか?」

 「自衛隊側の指揮官さんには許可とってあるよ。この人達は、特別なんだ」

 なんだか理解できないが、変に探索を入れない方が良さそうだった。

 「あれ?、後ろ!」と桜井が指を指したのはその時だった。すわっ!また感染者!?。



ほぼ同刻 脱出列車前方


 「なんとか無事に着いたな...列車も無事みたいだ」

 思わず呟く。小隊を率いる者として、誰一人犠牲を出さなかったことは感慨深かった。

 先方が駆けてくるのを眺めつつ、大和田に声を駆ける。

 「これが、映画なら俺達はもう完璧助かった、と見せかけての列車脱線だよな」

 「いや、その前に小隊から離反者出て後ろから「ズドン」とかありますよ」

 「それよりも、一番の可能性は新たな任地への旅立ちです」と大泉。

 「なんでも良いですが、お三方」と尾形が割り込む。

 「あまりここで不用意な発言は慎んでください。変なこと言い出すと「フラグ」立ちますよ」

 「なんだ?フラグって?」

 「つまり、俺や大泉、小隊長が言ったような事が現実に起きるかもしれない、ということですよ。なぁ尾形」

 「分隊長の仰る通りです」

 「...まぁ、大泉のは現実あるな」


 

 「加山さん、なんとかたどり着けましたね」

 「えぇ。不思議とゾンビに襲われることもなかったし。佐藤さんもお疲れさまでした」

 この時、俺の目には写っていた。背広を着て、冷酷な目を向ける男達に。



12:29 脱出列車機関車横


 「さぁどうぞ、列車にお乗りください」

 そう言いながら若者2人を「佐藤」と名乗ったミニミ手は誘導していた。

 「あんたらもさぞかし大変だったろうね」と言ってくるのは中年の「桜井」という警官だ。

 「えぇ。しかし、これからも任務は続くでしょう。そんなこと言ってられませんよ」

 「俺は早く帰って芋焼酎煽りたいよ」

 そういえば一昨日の夜、3小隊の大和田や大泉を含めた分隊長達と朝方まで呑んでいた。実は全員妻帯者だ。駐屯地外に家を構えている。口にも顔にも出さないが本音を言えば、任務なんか投げ出して一刻も早く妻や子のもとに帰りたい。しかし、それが叶わぬが自衛隊。

 「ところで、あのスーツの方々も警察ですか?」

 「あ、いや、あれはだね....」

 「桜井警部!」と声がかかった。

 「はいよ!ちょっとすみません!」と言って彼は走っていった。



 「どしたの?」

 「いました」

 「例の人?」

 「はい」

 「間違いなく」

 「頭の中にインプットしてます」

 「どうするの?」

 「とりあえず、身分確認のふりして固めます。すべては列車が動いてからにします。その方が逃げ出さなくてすむ」

 「自衛隊に応援頼んだら?」

 「彼らは素人だ。それに我々で十分です」

 「そんなもんかね?」

 「制服さんもいらないです。本部で片付けます」

 そんな甘くいかないよ、と俺は言いたかった。しかし、その県警本部の警官は聞く耳を持たないのは明白だった。俺を警部と呼ぶのも階級上、上だからで実際は「ノンキャリ組」だと馬鹿にしてるのは目に見えていた。

 背中に「失敗するなよ、若い者(もん)」と不安な目を向けるしかなかった。

「やはり無理ですな、ここに留まるのは」

「私も反対です。本部の連中が何て言うか知らんが、機動隊の装備じゃ太刀打ちできない」

「自衛隊もです。今回は退きましょう」

「機関士さんに予定通り下がるように要請してきます」

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