第26回 東シナ海は燃えているか
「北京は動きません。火事場泥棒でお国で言うところの「尖閣諸島」を取りたいですが、なにぶん我が国もゾンビで溢れている。南京は陥落、通化はミサイル基地で立てこもっている状態。まったく、我が国の未来は暗いですよ」
「陳さん、そんなことないですよ。必ず勝てる、人類は。所詮人が産み出した兵器なんです。絶対に解決策はあるし、弱味もある」。
「宮内さん、貴方甘いです。北のスパイがバラ撒いたからと言って、別に人工とは限らない。ある種の超自然的変化によって産まれたのかもしれない」
「陳さん。私が貴方を尊敬するのは、うちのアジア大洋州局達と違って何時だって物事を過小評価しないことだ。それに、こんなこと言っては失礼だが、前の大使と違って不用意に「反日」だの「歴史認識」と叫ばないところです」
「宮内さんにそう言われると笑ってしまいますね。いくら中国人で、尚且つ政治関係者で在日大使だからといって色々叫ぶわけではないですよ。あんなの北京にとって、国民を国内から目を背けさせる口実だし、あぁやって馬鹿みたいに騒いだりする人間は、お国で言うところの「極右関係」ですよ。実際、ほとんどの国民はTwitterとかで調べているのが圧倒的ですし」
「貴方が言うと真実味ありますな。しかし、昨日私が見たテレビだと、日本に来た穏やかそうな若者まで反日を訴えてましたよ」
「今度調べてみてください。日本に来て、優雅に暮らせて、学校行って、TVショーに出られる人間です。不思議と党関係者の息子とか娘が多いはずですよ」
「ははは、陳さんは本当にざっくばらんですね。陳さん、日本国内が片付いたら必ずやお国の救援を行います。なんてたって、少しずつインドとかに経済がシフトしていると言っても、あと5年は中国に持ってもらわないと困る」
「その後に戦争となってもですか?」
「そうならないことを祈ります。それに戦争と経済は別論議ですから」
「イギリスでしたっけ?、第二次大戦で飢餓作戦で苦しむお国に石油を売ってきた会社があったのは」
「そんなこともありましたな~。そういえば陳さん。先程仰った「火事場泥棒」という意味を知っていますか?」
「...たしか、その人がなにかをしているときに、第三者が速やかに奪取する、という意味ですよね」
「遠くはないが近くもない。あまり使わない方が良いですよ」
「心得ます」
中華人民共和国在日本大使館大使と外務副大臣の会合はものの30分で終了した。
12:20 長崎県五島列島沖合上空P-1(ジュピター12)哨戒機機内
「タコ、SS1。FCZ(初期遠距離探知)。チャンネル5、シグナル2112。深度200。速力およそ15ノット。目標呼称「G」とする。間違いなくドン亀(潜水艦)です。こいつは臭いですよ」
「SS1、タコ。了解した。G目標に対する音紋測定、データリンク照合始め」
「タコ、SS1。照合終わり。判定、G目標はE目標と認む。一致率97.59%」
連絡の通りだな、と「タコ」ことタクティカル・コーディネーターを務める一尉は心で呟いた。対馬のSOSUSで探知後、上空には「ひゅうが」(DDH-181)から発艦したSH-60Kが舞い、後方には海自潜水艦が追尾していた。
「機長、オールクルー。これよりG目標をE目標と呼称する。司令部に目標発見を通報、および「当機はこれよりH海域へ向かう」と通告」
「副操縦士、パイロット。司令部宛に目標発見通報、「当機はこれより、H海域へ向かう」の通告了解」
12:26 長崎半島西方沖合海上 対空誘導弾搭載護衛艦「きりしま」(DDG-174)
「機関最大戦速、針路315(サンヒトゴ)」
「最大戦速ーっ、針路315ヨーソロ」
「最大戦速、針路315ヨーソロ!」
艦橋に防人達の声が響く。「きりしま」は所属原隊である第2護衛隊群司令部からの命令を受けて、五島列島沖へと向けて航行していた。1隻の僚艦を伴って。
「きりしま」の後方1キロ
「しかし、驚きましたね。まさか、こんなにも早く出番が来るとは」
「全くだね副長。しかし、ヘリはしっかり定数分は乗せているし、装備だって完璧だ。燃料は心持たないが、まぁ補給艦と合同すればいい」
「プラットホームとしての役割、果たしますか」
「そうだね」
この艦...完熟訓練航行中に急遽命令が下り、訓練そっちのけで作戦を行うことになったヘリコプター搭載護衛艦いずも型2番艦「きい」(DDH-184)。個艦で航行していたが、事態発生を受けて急遽「きりしま」が護衛についていた。
艦長はベテラン、副長は防大生時代に好成績を残し、統合幕僚学校出の女性自衛官だ。2人は年の離れた兄弟のように馬が合うコンビであった。
同時刻五島列島沖 朝鮮人民海軍所属潜水艦「海龍」
「ソナー、探知された形跡は?」
「ありません。しかし、相手がパッシブモードで探知しているすれば別ですが」
「周辺に艦艇は?」
「機械判断だとクリーンです」
艦長は深く息を吐いた。我が栄えある共和国の最新鋭潜水艦を預かる身として、緊張この上ない。
しかし、何としても憎き日本人の艦は沈めたい。馬鹿な南(韓国海軍)の艦艇1隻や2隻沈めたところで意味はない。
ただ優秀なのは認めている。日本人を敵に回すと恐ろしいということも。だからこそ、沈めれば祖国においての評価は間違いなかった。私の地位も、この艦や乗組員も。
「ソナー探知っ!」
見つけた。豚足の艦だ。
「潜望鏡深度まで浮上」
俺は皆済を叫びたいのを堪えつつ、静かに下した。
「きい」
「して、ヘリからは?」
「本艦の艦載ヘリ「シャドウ6」からの報告によると、このまま目標が進むと本艦と交差する位置におります。既に本艦のソナーも探知済みです」
シャドウ12は既に目標艦である「キロ級」の上に占位していた。潜望鏡深度への浮上も確認している。
「やつは、撃つかな?」
「確認されている行程としては、撃つ気満々ですよ」
「まぁ、撃たれる前にジャマーとかマスカー作動な」
「今、ですか?」
「準備が整ったらな」
「P-1」
「タコ、パイロット。準備よし」
「パイロット、タコ了解した」
「きい」
「ジュピター12から入電。「状況開始」」
「よし、やれ」
「海龍」
その時、聴音士がヘッドセットを耳から勢いよく外し、机に叩きつけた。きっと鼓膜が破れたかもしれない。
「!?、ピンガー音複数!!」
「言われんでもわかる」
「カーン」艦体を叩く音は何時聞いても嫌だった。特に複数となれば。
すでに我々は探知されていた。この時点で「敗北」が確定した。
「こくりゅう」
「す、すごい」
ソナーマンは、ヘッドセットを既に外していたが、それでも艦前方から響くピンガー音は狙いが違うとしても聞きたくなかった。
海上自衛隊第2潜水隊群第4潜水隊所属そうりゅう型潜水艦6番艦「こくりゅう」(SS-506)は、日韓領海線から、男女群島までひたすら追尾してきた。特別無音潜航で音を立てずに、ひっそりと静かに。これまでのストレスが一気に晴れるような状況だが、やはりピンガー音は苦手だった。
「海龍」
「艦長....」
乗組員が俺を見つめる。どうせ敗けだ。浮上すれば捕虜となり本国に強制送還されて銃殺。このまま沈んでいれば二酸化炭素濃度が上昇し、いずれ死ぬ。日本国領海外に逃れるほど酸素は残り少ない。反して戦えば沈められる。進むも戻るも止まるも地獄。ならば.....!!。
「諸君、共和国軍人として、そして俺の部下として共についてくる気はあるか?」
その瞳に多くの軍人が武者震いした。艦長はやる気だ、そう感じていた。
「豚足共にひれ伏すくらいなら、死んだ方がましです」
俺は静かに命じた。この距離なら魚雷でも十分だろ。しかし、どうせなら一泡も二泡も噴かせて、共に地獄に落としたかった。
「ずいりゅう」
「?!、発射管開きます!敵艦魚雷撃ちます!!」
「!!」
乗組員一同戦慄した。まさかこの期に及んで敵は!!。
「撃沈せよ!!」艦長は命じた。
「きい」
「ヘリより緊急通報!「目標艦、注水音。魚雷発射準備の模様」」
「マスカー作動!、最大戦速面舵一杯。デゴイ発射用意」
こんな鈍足で巨大な艦。早々簡単に動かせない。
「海龍」
「撃て!」
ズシュン、と発射音が響く。数は4。これでいい、これで。
「後方より異音!、未発見の潜水艦です!!」
先程のソナー士から交代した乗組員が叫ぶ。後方にいたことに気づかなかったとは。
「ずいりゅう」
「発射よーいっ!撃っ!!」
「ずいりゅう」から放たれた2発の魚雷は、真っ直ぐ「海龍」に向かっていった。
「SH-60J(シャドウ6)」
タコは、まさに「吠えた」。
「タコ、オールクルー。目標魚雷発射。....海面に上昇!!これは対艦ミサイルです」
「母艦に警報急げっ!!」
「きい」
「くそっ!砲雷長!!準備はできとるのか!?」
「艦長、合戦用意でしたので、準備万端です!」
「左の対空戦闘、CIC指示の目標。RAM(SeaRAM)発射始め!砲雷長、指揮頼む!」
「砲雷長頂きます!命令追認。前部後部ラム、発射始め!」
「きりしま」
砲雷長が指示した。
「主砲回せ、右対空戦闘!CIC指示の目標、全自動迎撃発動!!」
「右対空戦闘、CIC指示の目標、アルマゲドンモード。主砲撃ちぃ方始め」
「撃ちぃ方始めぇ」
「撃ちぃ方始め!発砲!」
「きりしま」艦橋からは毎分45発発砲可能な54口径127mm単装速射砲が1.2秒程度の間隔で撃ち始めたたため、艦橋の窓ガラスに衝撃波が強かに打ち付けられていた。また、前部甲板の先には「きい」がラムを斉射するのが見えた。まるでロケット花火を撃っているようであった。
「きい」
「目標2発撃墜、あ、今「きりしま」1発撃墜。残り1発が左80度より真っ直ぐに突っ込んでくる!!」
「敵潜水艦撃沈!!」
CICにある画面を見ると艦橋に設置されたカメラから洋上の様子が見え、高々と上がる水柱が見えた。
「チャフ発射、CIWS(高性能20mm機関砲ファランクス)発射始め!!」
砲雷長は最後の切り札を使った。
真っ直ぐ洋上を突っ切ってきた対艦ミサイルは、「きい」右舷艦首に設置されているCIWSによる猛火を浴びた。毎分3,000~4,500発放てるが、唯一の欠点は「射界が狭いこと」だった。「いずも型」の設計上、ポップアップによる突入ならともかく、水面を飛んでこられると、極端に射界が狭まる。そのため発砲時間は1.5秒間のみであった。
「ブオォォゥン」と耳障りな音を放ち放たれた86式20mm機関砲用徹甲弾薬包は、敵の対艦ミサイルの弾頭部に命中した。その細長い対艦ミサイルに命中したのは僅か1発であったが、十分だった。
「きい」の真横に、花火がまたひとつ増えた。
後日、分かったことであるが「キロ級」は対艦ミサイルを搭載していない。そのため対空ミサイルである9K38(イグラ)系のミサイルではないかと疑われた。
が、海に沈んだ今、それを明かす証拠は何もない。ただ残ったミサイルの残燃料に引火し、波間に揉まれながら広がる極小さな炎と海中から浮かび上がってきた潜水艦の残骸ばかりであった。
「大統領、軍はすでにデフコン2に完全移行しました。何時でも指定するポイントに8時間以内に部隊を展開できます」
「ジョージ、それで良い。あとは私が英断をくだすよ」
「イエス、ミスタープレジデント」
一語用語解説
SSー対潜員の略。対潜目標の監視・追尾を主任務とする。海上自衛隊においては、固定翼・回転哨戒機に搭乗している。「SS1」というのは、その機におけるセンサーマンの「1番目」の人。




