''新章''第25回 想定外
「どこに逃げれば良いんだ!?」
「知るかそんなもん!!」
「おい南京が陥落したのは本当か!!」
「俺は通化だと聞いたぞ!」
「おいおいおい、通化なんて日本鬼子狙いのミサイルがあるんだぞ」
「知るかそんなもん!こっちは自分の身を守るので精一杯だ!!」
「いっそミサイル基地に行った方がいいんじゃないのか!?あそこなら、対核シェルターくらいあるだろう。完全密閉だぞ」
「あんなもん、単なる気休めだろ!実際いくつまともに核食らうこと想定して作ったと思って!おまけに食料があるかも分からん。というか外部の人間を入れるか普通!?」
「俺は立てこもっていると聞いたぞ!あいつら「反撃用装備の防衛」だとかほざいて、実際外に出たくないだけだろ!」
「おい、俺達も早く逃げようぜ!」
「だからどこにだよ!?所詮大陸だぞ!。どこ行っても後ろから来るぞ!」
「いっそなんとかして海を...」
「漁船を盗むかいっそ!」
「止めとけ、漂流するのがオチだ」
「どっか、逃げる場所は無いのか...」
12:15 仙台臨海鉄道臨海本線橋脚(イオン多賀城店付近)
数年前にこの機関銃をライセンス生産した会社が、規定値の満たないまま納品していたことが分かった。もともと「欠陥品」と部隊内では疑われていたが。しかし、その銃は一応メーカー送りにされた上で補修されたらしいが、はっきり言ってあまり変わらない気がした。
まぁ、そんなことなんてどうでもいい。とにかく今ある装備で最善を尽くすまでだ。しかし、よりのよってなんだこの数は!?。
橋の上から、尚且機関車の上から立って見えるのは片側3車線道路の上下線を埋めつくす感染者達。映画と違うのは、「終わり」が見えることだ。それにしたって、ざっと3桁台は間違いない。
「総員展開!」と後方から声が聞こえる。見ると濃紺の出動服と黒いヘルメットにボディーアーマー、ブーツを履いた県警機動隊員達が線路に沿って一列に整列していた。彼らの手にはMP5-F機関拳銃が握られている。そして、客車の上には我らが陸自隊員1個小隊が89式小銃やミニミ軽機関銃を構えて仁王立ちしている。車内にも残りの陸自隊員と制服警官、表情がない(というよりまるで仮面を被っているような)私服警官も若干名待機しているはずだ。
陸自第22普通科連隊第4中隊より2個小隊48名、宮城県警機動隊より2個小隊32名、そして土地勘があるという理由で選抜されたらしい地元の警察官8名(若林暑、塩竃暑より各2名、県警本部より4名)。これに自衛隊と警察側から指揮官が幕僚含めて3名ずつだから計91名が総戦力だ。これを少ないと見るか多いと見るかは別として。
第1目標ー生存者の捜索並び救助
第2目標ー多賀城市奪還に向けた拠点の確保
第3目標ー感染者の無力化(掃討)
が任務である。
しかしいざ目の前で見ると、この数にこれだけの兵力には無理があると思った。いっそMLRS(多連装ロケットシステム)が必要だと思った。
「小隊長より各員、射撃用意」
ヘッドセットから命令が聞こえた。安全装置を単射にして構える。通達では、頭もしくは心臓を狙うようにと厳命されていた。最悪、歩行不可能なほど危害を加えるようにとも。
しかし、命令はそこまでだった。それ以降が来ないのだ。まさか、小隊長、今更躊躇っている訳じゃないよな....。
橋に迫ってくる感染者達の姿は、言うまでもなく「不気味」であった。うなり声ともつかない声をあげる怪物たち。ひたすら肉を求めるその姿。早く射撃許可をっ!!。何を今更!!。いくら橋の上でも下に回れ込まれれば不味い。何て言ったって、この線路の先はもう「橋」じゃない。完全に「地上」と同じになる。簡単に上って来られるのだ!。
その時、ヘッドセットから声が聞こえた。我らが小隊長の声。その声はこう聞こえた。
「総員、衝撃と爆風に備え」
一体なんだというのだ。しかし、命令に従い体を防護する。
上空を「ヒュンヒュン」と数えきれないほどの風切り音が聞こえた。直後に目の前が真っ赤になったと思うと、爆音と爆風に白い煙が襲ってきた。その中から微かに聞こえる聞き慣れたローター音。
上を見上げると、煙に紛れて2機の細長い機体が低空を飛行していった。
2機のAH-1Sから放たれたハイドラ70ロケット弾は、その爆薬を最大限起爆させた挙げ句、残っていた推進薬にも引火、所定以上の爆発と爆風をもたらした。その中でも生き残っていた者には、コブラが持つ30ミリ3連装機関砲という舌によって、残りなく舐め尽くされた。その結果、さっきまで居た感染者達は完全に掃討できたかに見えた。
俺は皆済を叫んだ。やってくれるじゃないかコブラ!!。本当に最高だ。機関車から降り立った俺は、左手でミニミのハンドカバーを握ったまま、コブラに右手で手を振っていた。
「危ないっ!!」と叫び声が聞こえた。咄嗟に前を向こうと考える前か瞬間か、何かが右手を包んだ。そして痛み。激痛という程ではないが、とにかくその「何か」を左手でミニミごと殴り倒した。その「何か」は右手から離れると、白目を向いて倒れた。
若干腐敗し、肌の色が異様に黒く、白く混濁した目。感染者だった。俺は意味に気づくと堪らず悲鳴をあげた。
前方からは更に数十体の感染者達が迫ってきていた。
同時刻 臨海鉄道線仙台港駅付近
お互いの職業を含めた自己紹介を済ませた瞬間、北の方角から物凄い爆発音と煙が上がった。その真上を飛ぶヘリ。
「自衛隊です!行ってみましょう!」と走る男。正直、誤射される心配を感じたが気にしないでついていくことにした。南の奴より日本人の方が戦場においても賢く行動できることを期待して。
土台人であり、戦時には対日ゲリラとして活動する彼ならば覚えていたはずだが、初の実践で緊張していたのか、はたまた忘れていたのか、彼は重大なミスを犯したことに気づいてはいなかった。
彼の訓練で鍛えられた視力が人並み以上に良い目には、迷彩を施したある種の「昆虫」を思い出すヘリが写っていた。
「諸君、よく集まってくれた。先に言うが、君達は今回治安出動及び海上警備行動発令の中、陸は陸の作戦顧問、海は海の立検(立入検査活動)指導で駆り出されたが、最初から当基地を目指していた者以外は各種トラブルで立ち寄り、たまたま同じ部屋に置かれただけだ。これから私が言う言葉も、起きることもすべては無かった。記憶はしてないし、そんな幻想さえ抱いていない。
出発時か移動時に大方聞いていると思うので、ここでは詳細を話す。
まず、情報は不確定なれど、今回の狂人病事案は「北」が手引きしたことが大方判明している。まだ証拠が無いだけだ。我が国にはこれに対し報復する権利があり、亡くなった国民を弔うためにも何としてでも行わなければならない。また、現物回収に成功すれば、狂人病対策にも活用できる。
次に位置だが、DIH(防衛省情報本部)の方で判明している。ついでにミサイルも発射体制に入っているそうだが、ここは今我々の作戦には関係ない。破壊命令が下されることもあり得るがな。
今回の事案は「超極秘」だ。おまけに総理大臣からの認可も降りてはいない。あくまで統幕(統合幕僚監部)による命令だ。しばらく諸君らには待機してもらう。
しかし、実行されなければ、米国主導による報復で、北朝鮮崩壊による数多くの難民や国際問題を残し、中国が弱体化したとなればロシアや米国の進出、更にはインドやパキスタンの進出を招く可能性がある。そうなれば中国大陸は混迷を極め、大規模戦争の火種となる可能性がある。難民も日本国沿岸部に押し寄せて、その中から狂人病感染者の流入や第11軍団や武力偵察部を代表とした特殊工作員侵入を招き、テロの多発化を招くことも考えられる。なんとしても、我々がこれを阻止せねばならない。
ここで敢えて言うが、もし実行されれば、自衛隊創設以来、いや戦後初、自国の意思で自国の力だけで行われる「報復作戦」になる。その意味を理解した上で待機してほしい。以上。解散!」
一語用語解説
第11軍団ー旧「特殊第8軍団」。現在は「軽歩兵教導指導局」と名を変えており、当軍団はその中の部隊。朝鮮人民軍における「超精鋭」部隊と位置付けられている。軽歩兵・狙撃・空挺部隊からなり、その数は9万~12万人と言われている。ゲリラ工作・非正規戦に優れた行動作戦能力があるとされ、いわば「テロ作戦部隊」との印象を与えている。
一部、「特殊部隊」とする記事があるが、本来特殊作戦というのは、少数精鋭のコンパクト部隊が隠密侵入、もしくは強襲をかけるのが一般的である。訓練に関しても「ごく一部の選りすぐりの兵士に、一般兵とは比べ物にならない金と時間をかけ、一人の兵士を極限以上に鍛上げる」のが常識であり、「北朝鮮」という国家の経済状況を考慮しても、その人数の多さから第11軍団を含めた教導局自体が「特殊部隊」というよりも、「他の兵士よりも体力に優れ(金王朝に対する)思想上の優位者」やパルチザン系の集団と考えられる。
例
総兵力(うち、特殊部隊(予想))
米軍 約141万人(約4万5千人)
朝鮮軍 約190万人(約18万人(2008年))




