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煌天の蒼月 第2部  作者: 天空朱雀
第3章 狙われた乙女
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第2話

「…で、どうするんだ?」


一同のやり取りを遠巻きに見遣りつつ、ルシカから顔を逸らし一度たりとも彼女と目線を合わせないままでそう問いかけるソルマ。

すると、二つ返事でユトナが元気よくこう言い放った。


「この子も一緒に食堂に連れてきゃいーんじゃねーか? きっとねーちゃんとやらも腹減ってメシ食ってるって」


「それじゃルシカちゃん、オレ達と一緒に行こうぜ。きっとお姉さんも見つかるって。ま、何かあってもオレが守るからさ」


「……シグがそれ言うか…。むしろ、一番近くに置いちゃいけない危険人物な気がするが」


「おいおいオレは危険どころか人畜無害だぜ?」


「……。」


「そんなチベットスナギツネみたいな冷ややかな目で見るなよ~照れちゃうだろ? …って冗談は置いといて、此処で油売っててもしょうがねぇし行こうぜ」


ソルマとシグニスのボケとツッコミも最早恒例行事なのであろう、軽やかにそんな会話を交わすと早速4人で食堂へと向かった。



◆◇◆



「よーし着いた着いた~! メシ食うぞメシ!」


最早食べる事しか頭にないのか、部屋から漂う美味しそうな香りにすっかり虜になってしまったユトナは意気揚々と室内に入ろうとする。

此処は教会の人達が大勢利用できるようにかなり広いスペースが取られており、無数に置かれたテーブルには既に沢山のシスターや騎士達で賑わっていた。

教会に従事する者達が愛用している共同食堂である。

勿論、此処を利用するのは比較的身分の低い者達であり、聖女と筆頭した司祭などのそれなりに地位のある存在は別の場所を使用しているようだ。


…と、ユトナが室内へ飛び込んでいこうとするなり、不意に室内からこちらに向かって鉄砲玉のように駆け出してくる一つの影があった。


「ちょっとウチの妹に何さらしとんじゃああああっ!!」


「……お?」


「ちょ、うわっ!?」


その影はユトナをすり抜け、ターゲット目掛けて走り込んだ勢いを殺す事無くむしろその勢いを乗せて飛び蹴りをお見舞いした。

哀れその被害者となりつつあるターゲット──シグニスは突然の殺意に訳も分からず間抜けな声を上げるばかり。

しかしそこは野生の勘とでもいうべきか、咄嗟に身体が回避行動へと移り身を捩らせてそれを躱すシグニス。

一方、虚しく空を切るばかりで終わった飛び蹴りであるが空中で体勢を立て直し軽やかに床に着地すれば、すぐさま床を深く踏み込み今度は回し蹴りを放つ。


「なっ、ちょっストップストップ!」


「煩い! アンタ、他の女の子達だけじゃ飽き足らずウチの妹にまで手を出すなんてどういう了見だよ!?」


「あっはっは、若しかしてルシカちゃんの事? 確かにルシカちゃん可愛いけど流石に手は出さねぇかなー、ってかユシカちゃんこそどうよ?」


「どうって何が?」


「だからオレとお茶でもしねぇ? ってハナシ」


「はぁ? アンタ頭に花でも咲いてるんじゃないの? 誰がアンタなんかと」


「つれねぇな~ホント。…ってかとりあえずさっきから蹴り入れんの止めてくんねぇか?」


「アンタがその無駄口止めてくれたら考えてあげてもいいけど」


突然の来訪者──ルシカと同じく犬のような耳と尻尾を生やした少女はシグニスに対して敵意を剥き出しにしながら辛辣な言葉と蹴りをお見舞いする。

一方、それをさらりと躱しつつ全くめげないシグニスもまた、ある意味ツワモノであろう。


…と、そんなマシンガンのようなやり取りはあっさりと終焉を迎える事となる。


「あ、お姉ちゃんだー」


「ルシカ? 大丈夫? このスケコマシに何か変な事されなかった?」


「うん、大丈夫だよ~。あのね、此処まで案内してもらったの」


「へぇ~、そうなの」


「だからお姉さんの早とちりだよ~。でもね、お姉ちゃんに心配してもらって嬉しかったの」


「……っ! もうっルシカったら可愛いっ! ほら、お姉ちゃんと朝ご飯食べよう?」


「うん」


ぽやっと気の抜けた笑みを向けるルシカに心奪われたのか、シグニスの事などあっという間に頭の中から弾き飛ばされたらしい。

ルシカをぎゅっと抱きしめるとそのまま2人で食堂へと入って行ってしまった。


その場に残されたのはソルマ、ユトナ、シグニスばかり。

まるで嵐が過ぎ去ったかのような感覚に襲われつつ、


「なーなー、あの犬っ子何だったんだ?」


「あぁ、あの子達はこの教会に仕えてるシスター見習いだよ。ユシカちゃんの方はシスターというよりテンプルナイトの方が似合ってそうだけど。双子で確かユシカちゃんの方が姉だったっけか」


「へー成程なぁ。そういや何となく2人共顔似てるなーと思ってたけど双子だったのか~。オレも双子だし何か親近感湧くなぁシノア元気にしてっかな」


シグニスの説明を聞いてふむふむ、と納得しつつもふとユトナの脳裏を過るのはフェルナント王国でメイドの仕事をしているであろう双子の片割れシノアの姿。

何となく懐かしくなって口元が緩んでしまう。


「…にしても、さっきの犬双子すげー仲良かったよな~仲良い兄弟ってのはいい事だぜ」


「まぁ、仲が良すぎて色々弊害も起きてるけどな。ユシカちゃんのあの溺愛シスコンっぷりは結構有名だからなぁ」


「有名…なのか? というか、何でお前はそんなに詳しいんだよ」


思わずソルマが2人の会話に割って入ってツッコミを入れるも、シグニスは何かおかしい事でも? と素知らぬ顔。


「そりゃ、女の子の情報に関しては網羅する義務があるからな!」


「どんな義務だよ…ってか何でそこでドヤ顔なんだよ」


相変わらずソルマのツッコミが炸裂しつつ、シグニスは何やら不満げに口を尖らせてみせる。


「でもなー、幾ら妹大事だからってオレの事スケコマシとか散々な言い草じゃなかったか? それに、何で他に男もいたのにオレピンポイントなんだよ?」


「それは普段の行いがものをいうってやつだろ。自分の胸に手を当てて考えてみたら如何だ?」


「え~、そんな悪い事したかオレ?」


ふぅ、と溜息を零しながら冷ややかな眼差しでシグニスを見遣るものの、シグニスはやはり悪びれた様子も無く涼しい顔。


「なーなー早く行こうぜ! もうオレ腹減ってしにそー」


空腹が限界に近づいたユトナはそう不満を漏らすと、2人の返答も待たずにさっさと中に入って行った。

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