↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

第三話

あれからも暫く情報を集めたが、獣族の振魔石の加工についての情報はまったくなかった。

獣族は主な攻撃手段が魔力で強化した自前の爪や牙なので魔石は愚か鉄の加工すら発展していないと言う。

ならばそれができる種族に加工を依頼したのではないか。

俺はそう考えた。

それが正解だと思った。

今思えばそれはあまりに短絡的な仮説で師匠たちがそこを考えなかったわけがないのだ。

曰く、エルフは非常に気位が高いので自分たちの作品に獣族連合の紋章等入れないだろうと。

曰く、ドワーフは単純な金属加工なら右に出る者はいないが魔石の加工ではそこまでの技を発揮できるかは怪しいということ。

俺は頭を抱えた。

それとは対照的に二人は楽しそうに顔を上げる。

その瞳は未知への弛まぬ探究心で輝いてた。


(まあそれもいつものことか。)


「フィビー、早くしないと置いていくぞ!」


「待って〜、あっ!」


彼女にしては珍しい慌てたような声の後に何かが倒れるような大きな音が響いた。

様子を見に行けば、部屋一杯に散らかった書類のうえに棚に下半身を押し潰された彼女が倒れている。

さしずめ棚の上においてあった計器を取ろうとしたのだろう。

本を積み重ねて。


「また一段と散らかったな。

大丈夫か?」


「背中、痛い。

早く取って…。」


「まったく、しょうがないやつだな。

おっと。」


助けてやろうと部屋に入った俺も思はず紙くずに足を取られ転びそうになる。

それだけフィビーの部屋は汚いのだ。

棚をどかして助け起こしてやり、背中が痛いそうなので治癒魔術をかけてやった。

詠唱は無しで、だが。

詠唱をしないと少しばかり魔術の効果が落ちる。

痛みを完全に取り去ってもよかったが彼女のだらしなさが招いたことなのでまあ、少しはね?


「詠唱は、しないの?」


背中をさすりながら涙目で聞かれた。

潤んだ瞳、弱々しい声、見上げるような視線。


(こいつ、わかってやがる。

媚の売り方ってやつを!)


幼馴染にこんな顔をされると、少し心苦しいが俺はあえて突き放す。


「本なんか踏み台にするからだろう?

それに、もうそろそろでないと獣族連合王国行きの船がでちゃうぜ?」


「それもそっか。」


そう言うと彼女はさっと立ち上がり、服の埃を払った。

現金なやつだ。

彼女の装いは珍しくよそ行きのものになっていた。普段の彼女は服なんてあまり気にしないのに。


「今日はなんだかおしゃれだな。」


「近所の人達が、貴方もたまにはお洒落しなさいって。

どう?」


そう言って彼女は手を広げて、服を見せる。

黄色を基調にしたレースのワンピースにサンダルのような靴を合わせた格好だった。

清楚な感じでかなり可愛らしい、というのが正直な感想だがそんなに直球には口が裂けていも言えない。

また《《そういう事》》に無頓着なフィビーの口からご近所に漏れて要らぬ誤解を招きかけない。


「よく似合ってるよ。」


「そっか。

ふふ、ありがと。」


「さてと。

話はそこそこにして、いざゆかん、獣族連合王国へ!」


「オー!」


気恥ずかしさを紛らわせるように俺はそう宣言して勢いよくドアを開けた。


「おはよう、ウェルナー君。

あらあら、そんな大荷物で。

もしかして、これから二人で旅行なのかしら?」


軒先で今一番会いたくない人と目が合った。

彼女は、にこやかに笑ってはいるが目の奥は獲物を見つけた捕食者のものである。

もっとの彼女の主食はゴシップなのだが。

三軒隣に住むシュナイダー夫人、街一番の噂好きだ。

悪い人ではないのだが、どうにも話に尾ひれをつける悪癖がある。


「シュ、シュナイダーさんおはようございます。そうなんですよ、所用があって二人で獣王国まで行くんです。」

 

「へえ、二人で、ねえ?

あら、フィビーちゃん。

可愛い格好じゃない!麦わら帽子もよく似合っているわ!」


「ありがとう。

この帽子はウェルナーに貰ったんだよ?」


そう言ってだいじそうに帽子のつばを撫でるフィビー。

この状況じゃなければ軽く感動していたかもしれない。

確かにそれはまだほんの子供だった時に俺が彼女にプレゼントしたものだった。


「あらあら、まあまあ。

そう聞くと、余計に可愛く見えてくるわ。

もしかしてその服もウェルナー君の好みだだったり、するのかしら?」


「う〜ん、よく似合ってるって言ってくれたから、そうかも。」


シュナイダー夫人の赤い瞳が危険な色を帯びて輝く。

これは明らかな危険信号だ。

彼女のことだから調査旅行の話が新婚旅行にすりかえられても不思議ではない。

すでにゴシップ(エサ)を与えすぎたかもしれないがそれは考えないことにした。


「さて、フィビー。

船の時間があるからさ、行こっか?

それではシュナイダーさん、またお土産を持ってきますからね!」


俺たちはそう言って走り出した、帰ってきた時に一体どんな噂が広まっているのか、そんな途方もない心配を振り切るように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。