第二話
「師匠、フィビー何か分かったか?」
「う〜ん。」
「ふむ。」
それは返事と言えるのだろうか。いつものことながら頭を抱えてしまう。
二人とも自分の世界に入り込むと長いのだ。
なにせ今回盗み出した振魔石の解析を始めてからかれこれ5時間は経っている。
その間二人ともほかのことは全くしないのだ。
数日に渡って実験やら調査やらにつき合わされることもざらにあるのだから今更なにも言うまい。
そうは思っているのだが、俺にも途中経過だけでも教えてほしいという気持ちは拭えない。
師匠のアーノルドは真っ白な髪をきつく後ろで縛り上げた、不思議な目の輝きを持った老人だ。
だが正直言って俺は彼を老いていると思ったことがない。
決して衰えぬ魔術、体術、そして好奇心。
未知なるものに出会った時の瞳の輝きは17才のフィビーに引けをとらないほどだ。
正直言って、一緒になって盛り上がる二人を見ていると羨ましいと思ってしまう。
孤児院でずっと一緒に育ったのにも関わらずなぜこんなに知能や知識の差があるのか。
いつもそんな風に考えながら二人に食らいつけるようにひた走っていたら、盗賊になっていたのだが。
ジェラシーとはまったく困ったものなのだ。
しびれを切らしかけていたのを察されたのだろう、やがてフィビーが口を開く。
「これはねウェルナー、獣人の王族の持ち物だよ。振魔石の中央に刻まれた、ここ。
獣族連合の首長の紋章が入っている。」
フィビーが指差す所を見ると何やら鉤爪跡と牙が組み合わさったような紋章が見て取れた。
「これが獣族の王様の紋章なのか?
なら、元の持ち主が誰か分かったりは…。」
「それがすぐに分かれば私らは五時間も考え込んではないさ。
これは獣族連合自体の紋章であって個人に紐づくものではない。」
師匠が悔しそうに顔をしかめて言った。
これだけ粘って収穫が乏しかったのがよほど悔しかったのだろう。
「成る程確かに、獣王の称号は世襲じゃなくて合議によって選ばれる、だったか。
なら確かに個人がわからなくても不思議じゃないな。」
「でも、ますます不思議なんだよ?
振魔石の加工は難しい、それこそエルフやドワーフじゃないとできないくらいには。
でもこれはかなり精巧にカットされてる。
獣人の文明レベルでは到底成し得ない、まさにオーパーツ!」
鼻息荒く魔石を掲げるフィビーは楽しそうだ。
いや、愉しそうだな。
師匠も目がガチだし。
俺も腹くくるか、そう思って俺はあえて声を張る。
「ともあれ、次の仕事は決まったな?」
「ああ、この不可思議な魔石の由来、作られた目的を調べ上げ、」
「もしこれを作った人に会えるなら、私にも振魔石の加工方法を教えてもらうこと!」
「ウェルナー、フィビーの二人はもう暫く情報を集めたら獣族連合王国へ行け。
私の方ではヘルマン公爵がなぜこんなモノを持っていたのかについた当たってみよう。
それでは客員、行動開始!」
「「おー!」」
(獣族連合王国か。
行ったことはないし、正直楽しみだ。)
フィビーといっしょになって元気に返事をしていたときの俺はそんなふうにのんきに考えていた。
この浅はかな判断が大きな間違いだったと知るのはまだ、先である。




