第17話 舞う花びら
「……暇ね」
ルナリアは庭を見ながらぽつりと呟く。今日はカントがいない。
『どう使うかを考えた方が有意義です』
ふと、カントの言葉が頭によぎる。「どう使うか、って言われてもねぇ」と言いながら、薔薇の花びらを数枚ひらひらと散らせてみた。花びらは地面に落ち、そしてしばらくすると消える。
「まあ、役には立たないわよね」
そう呟きながらもうちょっと使ってみる。チューリップ、ガーベラ、ポピー、金木犀と花を変えてみる。
「……いい匂い」
暇つぶしには悪くないかも。鼻歌を歌いつつ花を散らしていた時、ふと気になった。
「……エーデルワイス、ってどんな花なのかしら」
確か高山植物だったっけ。出せたりしないかな、とやってみる。白く細長い花びらが宙を舞った。
「……綺麗ね」
笑いをこぼす。じゃあ次はハイビスカスとかどうだろう、と彼女は花を舞わせた。赤い花が部屋の中に咲き誇る。
「意外と大きいのね。……部屋が狭いわ」
彼女は外に視線を向ける。空は青く晴れ渡っている。あそこで花を舞わせたらどんな気分だろう。そう考えた彼女は立ち上がって庭に出た。
赤いポピーの花びらを空高く巻き上げる。次は黄色い水仙、白いマーガレット、青いアイリス。色とりどりの花が空に舞い上がると、なんだか楽しくなってきた。
ルナリアがクルクルと回れば、花びらもそれに合わせて舞い上がる。東洋にあるという桜、原種のバラ、ひまわり、スノードロップ。季節も咲く場所もバラバラの花びらたちが踊る。むせかえるほどの甘い香りが立ち上る。花びらたちが軽く体にあたる。
「楽しいわね、これ!」
雨のように降らせたり、花びらの絨毯を作ってみたり。すぐに消えちゃうから、すぐ違うのが楽しめる。腕をぶんぶん振り上げて、ぴょんぴょん飛び跳ねて。この花が見たい、と思えば思い通りに現れる。全身を使って花びらに指示を出せば、思った通りに花が動く。髪やドレスが乱れるのも気にせず、ルナリアは花びらと共に踊り続けた。そして。
「あー、つっかれたー!」
ごろりと地面に倒れ込む。花びらが舞い散りながら消えていく。なんだか清々しい気分だ。お腹の底から笑い声を上げる。青い空を眺めていると、ふ、と上に影がさす。首筋に冷たいものが押し当てられた。なに? と視線を向けると、果実水が入った水筒を持ったカントが覗き込んできた。
「楽しかったです?」
「いつ頃帰ってたの?」
「さっきですよ。庭から花びらが上がってたので何事かと」
彼は果実水を手渡し、「起き上がれますか?」と笑った。
「むりー!」
「全く。僕が通り掛からなかったらどうするつもりだったんですか」
呆れたような声色で彼は笑う。そしてルナリアを抱き上げると、「部屋に戻ります?」と聞いた。
「んー……。あんたの書斎、ソファあったでしょ。あそこで寝てていい?」
「邪魔しないのであれば構いませんけど。いびきはかかないでくださいね」
「流石にそんなヘマはしないわよ」
ルナリアは目を細める。さっきまで空に舞っていた花びらの感触が、まだ指先に残っている気がした。
「……まあ、しばらくは退屈しなさそうね」
そう呟いて、彼女は目を閉じた。
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