第1話 お人形
ポラール王国第二王女、ルナリア・ポラールは、夜会でたくさんの貴公子と踊っていた。人形のような美しい笑みを浮かべながら。
「今宵の主役は間違いなく貴女様だ。他の令嬢たちが夜空の星なら、貴女様は天空に君臨する月そのものですな」
「心温まるお言葉をかけていただけるなんて、誠に嬉しいですわ。今宵の夜会が貴方様にとっても実り多きものとなりますよう、お祈りしております」
(ばからし)
自分も含めた皆が皆、心にもない美辞麗句を並び立てる。王宮とはそういうものだ。正妃である母から、そういうものだと教えられてきた。
「常に微笑みを浮かべなさい。それ以外の表情などいりません」
「殿方には意見せず、従順でありなさい」
少しでも自分の意思を見せれば、鬼の首を取ったように詰められる。説教のあと、正妃は毎回このように口にした。
「あなたは祝福が弱いのですから。美しくいなければ、王宮では生きていけないのですよ」
(何よ、祝福、祝福、って。そんなの、どうしようもないのに)
今日も窮屈な夜会が終わる。自室に戻ったルナリアはその表情から笑みを消した。祝福がわずかに漏れ、紫色をした芍薬の花びらが床に転がった。髪飾りを引きちぎるように外し、ベッドへと投げ捨てる。
「……ああ、もう。イライラする」
引き出しから隠していたペーパーナイフを取り出すと、乱雑に足を出した。その脛には無数の傷があった。まだ赤い新しいものから、すっかり色が変わり傷痕になっているものまで。彼女は何も言わず脛にナイフを当てた。赤い血がつぷ、と玉になる。
「……あはっ」
軽い痛みと脛に浮かぶ赤が彼女を現実に繋ぎ止める。幾分かすっきりした表情を浮かべた彼女は、隠しておいたボロ布で適当に傷の処理をした。そのまま彼女はベッドに倒れ込む。
「……明日も夜会か。めんどくさいな。ねえ、クマ太郎」
ルナリアはベッドサイドに置かれた、ボロボロのぬいぐるみに話しかける。
「いつまでこんな生活続くんだろうね〜。……一生か。だよねぇ」
彼女はへらりと笑う。すべてをあきらめた、うつろな目で。
大の字に寝っ転がったまま、彼女は窓の外に視線を向けた。
「いっそ壊れちゃいたいな」
あはは、と乾いた笑みがこぼれる。その声を、四角い空に浮かぶ月だけが聞いていた。
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