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不明の魔女〜転生平民魔女は密やかに魔法を極めたい〜  作者: 清水薬子
学院にて根暗陰キャは潜む

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4/7

根暗陰キャ、事故に巻き込まれる

 王都に到着したその日のうちに、観光する間もなく学院の門を潜る事になった。

 リエに監視されながら、ホールの壁際に位置取る。


 馬車の内装と同じように、学院の建物とやらは煌びやかな調度品やカーテンを多用していた。石造りの建物にシャンデリアが妖しく輝いている。


 周囲を見渡せば、魔女の素質を見出された同年代の子どもたちがいる。

 みなが着飾っていて、髪を結えていた。

 その中で、気になる事が一つ。


(……魔女って、男もなれるんだっけ?)


 数人ほど、居心地悪そうに纏まっている男子がいた。不安そうにキョロキョロと見渡している。

 まあ、異性との関わり方なんてよく分からないから、近づかないが吉なのだ。


 ふと視線を感じて、天井を見上げる。

 シャンデリアの上で、鴉が無言でこちらを見下ろしていた。リエの魔法だろう。


(なるほど、空から鴉で私を見張っていたのか。どれだけ逃げても見つかるわけだ)


 頭の中でリエの魔法への対抗策を考えていると、カツンとヒールの音がホールに響く。

 それは、あらゆる音さえかき消してしまうほどに存在感のある音だった。


「ーー静寂に」


 決して大きな声だったわけではない。

 それでも、静かにしなければと思わせるほどに力強く凛とした声だった。


 藍色の髪に銀色の五芒星の髪飾りが煌めいている。ローブの細やかなところに太陽や月が刺繍されていて、とことん拘っているのが伺えた。


「魔女候補たち、ごきげんよう。私の名前はサテラだ。陛下より“星読み”の二つ名を拝命している。この学院の最高指導者であり、君たちが道を外した場合は処刑者ともなる」


 “処刑者”という物騒な単語に、ホールに集まっていた子どもたちはサッと顔を青ざめた。

 しかし、ほとんどの身なりの整った子たちは、生唾を飲み飲んだり緊張するだけで冷静さを欠いた振る舞いはしていない。


(ふうん、身内の社会的地位が高いと、魔女について詳しい情報が手に入りやすいんだろうな)


 気軽に身近な事を呟けるSNSや検索するだけで欲しい情報に飛びつけていた前世と違い、今世は人の噂話ぐらいしか平民は情報にありつけない。

 身分によって手に入る情報格差とかありそうだ。


「しかし、案ずることはない。君たちが“善き魔女”であろうとする限り、このサテラは君たちの味方であり続ける!」


 両手を広げ、よく通る声で演説を繰り広げるサテラ。

 前世で苦手だった演劇部の同級生を彷彿とさせる威風堂々さと自信に満ちた姿に、思わず私は歯を食いしばった。


(苦手なんだよなぁ、ああいう距離感が異様に近い奴。自分の価値観とか都合を平気で押し付けてきそう。関わらないようにしないと……)


「ーーでは、語るのはここまでとして、君たちの魔女の適性を確認させてもらおう」


 適性を確認。つまり、何らかの測定を行うのだ。

 リエの時には失敗したが、今度はちゃんと成功させる。


『安心して。私は君の邪魔をするつもりはないよ。君に恨まれると厄介そうだし、私は君の周りに起きる出来事を見ていたいだけなんだ』


 別れる直前のリエの言葉を思い出す。

 どうやら律儀に約束を守っているようだ。

 リエと違い、サテラは騒ぎ立てて事を大きくする人物だろう。やはり、目立たないように潜まなければ。


「列を作り、各々で魔法を使ってみせろ。やり方がもう既に知っているはずだ」


 ざわ、と子どもたちが騒ぎ始める。

 どうやら狭い室内で魔法を使う事に抵抗があるらしい。

 火が得意な者たちが、不安を覚えるのも納得だ。狭く、水のないところでは火傷するリスクもある。


「案ずることはない。このホールには、私の魔法による結界が張られている。怪我をする者も、魔法の制御を誤る者もいない。“星読み”の名にかけて誓おう」


 サテラの言葉に不安そうだった子どもたちの顔が和らぐ。どうやらこの数十分で、サテラは場の空気を掴んで支配したらしい。


 最初の一人が前へ出る。

 手を掲げ、魔力を練り――

 ぼっ、と。

 拳大の火が灯った。

 おお、と小さなどよめき。

 続く者は風を起こし、また別の者は水を生み出す。


(なるほどね、炎や水は拳ほどの大きさが出せればかなり良い方と)


 火や水が最も多いようで、風や光は少ない。

 しかし気になるのは、誰も他の属性を使わないというところだ。


(もしかして、複数の属性を使えるのは珍しい?)


 前世で読み漁ったラノベにも、そういう展開や設定はあった。なるほど、リエが私に目をつける訳だ。

 数秒ほど悩んだ後、私は蝋燭ほどの火を掌の中に生み出した。


「……どいつもこいつも普通だな」


 通り過ぎるサテラが、ポツリと呟いた。

 魔法の制御に意識を割いている他の人たちには聞こえなかった様子だ。


(よっしゃ!)


 心の中でガッツポーズをする。

 属性、魔法の威力と制御。その全てで完璧にサテラを欺いてやった。


「むむ、むむむむ……!」


 隣に立つ女子の呻き声が聞こえて、その方向に視線を向ける。魔法の制御に手こずっているようで、なかなか魔法が使えていない様子だ。


(なんだ、この子……他のやつと何かが違う。でも、何が?)


 違和感を覚え、周囲に気取られないように観察する。そして、他の子と比べて違うものを見つけた。


(魔力が違う。多いとか少ないとかじゃなくて、質が違うんだ。珍しい属性なのかな)


 その子は、艶のない黒髪をしていた。所々に入った茶色の差し色は、染めているのかあるいは髪の色素が上手く生成されなかったのか。

 身綺麗に整えているはずなのに、雀斑の多い頬と髪色の雰囲気が合わさってどこか粗雑な印象がある。

 その子の魔力がぎゅっと縮んだ。


(ん?)


 そして、縮まった以上の速度で急激に膨れ上がり、爆発した。

 その子を中心に、突風が吹き荒れる。


(なんだ……?)


 反射的に掌の中の火を消した。


 ツン、とした独特の咽せ返るような甘く嫌な匂いが立ち込め、その懐かしい匂いに驚く。


(この匂い、もしかして“ガソリン”!?)


 前世で馴染み深い燃料。

 その類の資格を取ったことはないが、ガソリンを扱う場所では必ず目にしていた警告が脳裏に蘇る。


 『火気厳禁』


 ガソリンスタンドの事故の映像で何回か見かけた事がある。気化したガソリンが、僅かな火花で瞬く間に爆発して炎上する、凄惨な事故。

 私が地面に伏せた、その瞬間。


 ーードカン!


 学院のホールは一瞬で炎と爆風に包まれた。

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