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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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94 我らがスライム領


 玄関ホールに戻ると、そこはすでにもぬけの殻だった。


 出口はさっき俺が崩したので、貴族っぽい奴らは別のところから逃げていったのだろう。まぁ王城なら秘密の抜け道くらいありそうだ。


「とりあえず、ぶっ壊すか」


 一国の象徴。


 都に構える王城をこのまま残しておくなんてありえない。


「そいっ!」


 俺は木の船と角柱を振り回し、手当たり次第破壊していく。


 それはまるで子供が癇癪かんしゃくを起こしたかのような力任せの破壊行為だったが、扱う力が子供の筋力とチート能力とでは違いすぎた。


 手元から離れた角柱が大きく弧を描けば、頑丈だった城も積み木を崩すかのようにガラガラと崩れ、投げるように木の船を壁に打ち付ければ、簡単に壁を突き破り、その奥の奥の奥……どこまでも大穴を開けて突き進んでいった。


「うーん。気持ちいい」


 これだけの立派な建造物を破壊するのは背徳感があった。さらに、それが人族の象徴ともなれば爽快さもひとしおだ。


「あ?」


 と、気分良く破壊を楽しんでいると、上の方からパラパラと小石のようなものが降ってきた。


 もはや自分がどこにいるのかもわからないが、今いる部屋の天井を見上げる。


 ……すると、そこかしこからミシミシと嫌な音が聞こえてきた。


「やっば――」


 崩壊。


 天井にピシッと線が入り、音を立てて崩れる。


 ひとつで数百キロもありそうな石の塊が、俺を目掛けていくつも落ちてくる。


 そして訪れたのは、振動と轟音。


 それは、工事現場を直接頭の中に入れたかのような、体がビリビリと震えるものだった。


 ……そんな騒がしさの中でしばらくじっとしていると、まるで何もなかったかのように、辺りは静けさを取り戻した。


「ち……調子に乗りすぎたっ」


 未だバクバクと鳴る心臓をなだめながら、自分に被せた木の船をゆっくりと持ち上げる。


 ガラガラと瓦礫を避けながら船と一緒に体を浮かせていくと、次第に薄暗い船の内側にまで光が入り込んでくる。


「よいしょ」


 と、最後の瓦礫ごと船をひっくり返せば、いつも通りのギラリと照りつける太陽が現れた。


「ふぅー……危なかった」


 正直、鎧人間の群れと相対した時よりも命の危機を感じた。


 木の船を傘にするという発想浮かばなければ、浮かんだとしても後1秒それが遅れていたら、俺は今頃この瓦礫の下にいただろう。


 辺りを見渡すと、ところどころに微かに何かがあったであろう面影を残す柱や壁のなれの果てがあるものの、そこはただの大量の瓦礫の山となっていた。


「うーん。無常だ」


 自分でやったことながら、長年この地の頂点として君臨していた城が瓦礫の山になり果てるというのは、どこか争いの悲哀を見ているような気がした。


 歴史的建造物保護の観点から見ても、もしここが地球だったらあらゆる団体から糾弾されていたことだろう。


 一息ついた俺は、瓦礫に埋もれた角柱を植物魔法で抜き取るように発掘し、その山のようになった瓦礫のてっぺんに降りる。


 遠くを見ると、生き残った兵士たちと、城から逃げ出した貴族たちが唖然とした顔でこちら――城の”あった”場所を見ていた。


「はは、お前らの帰る場所はもうないぞ」


 この世から消えて無くなったそいつらの城を”見せびらかす”ように、角柱を振り回して瓦礫をさらに破壊し、砕き、撒き散らす。


 まるで、この国の象徴であった城など元からなかったかのように、跡形すら残らないほどめちゃくちゃにする。


 しばらくすると、そこは浅いクレーターのように、砕けた石が椀状に広がる大きな空き地となっていた。


「こんくらいでいいか」


 奴らには十分伝わっただろう。お前らが積み上げてきた歴史なんて、俺らにかかれば1時間もかからずに消滅させられると。


 俺は自分のやった仕事にうんうんと得意げに頷く。


 ――さて、やるべきことはもう終わった。


 俺は粉砕された瓦礫の粉で少し埃っぽくなった船に乗り込み、湖上の島に別れを告げる。


 向かうのはスライムたちの元。


「思ったより時間かかっちゃったな」


 しかしあいつらに限って心配はいらない。


 1匹のスライムですら人族では倒すことはできないであろうに、それが2000匹近く合体した巨大なスライムとなっているのだ。これほどわかりやすい力関係はない。


 湖を通り過ぎ、王都の上空まで戻ってくると、3匹のでかスライムたちは王都の外でぽつんとして俺の方を見ていた。


「お、もしかしてもう終わったのか?」


 船を飛ばして急いで近づくと、そこにはあまりにも残酷な光景が広がっていた。


 こちらを見るぷるんとかわいいでかスライムの足元、そして周りには、おびただしい数の動かなくなった鎧人間たちが散らばっていた。


 中にはあまり直視したくないような”形”をしたものも散見される。


 想像するまでもなく、それは確かな蹂躙の跡だった。


 しかし最初に隊列を組んでいた鎧人間たちに比べると、明らかに死体の数が少ない。この場にはもう他に人けもないので、逃げ出した奴がかなりいるのだろう。


 ――うんうん。やっぱりそうでなくちゃな。


 それが懸命な判断だったというのは、この光景を見れば明らかだった。


「魔力は大丈夫だったか?」


 まだ体内に四角い魔力結晶を取り込んだままのでかスライムたちに尋ねると、そいつらはふるふると体を揺らして答えた。


「お、おう。それならよかったよ」


 上空にいるはずなのに、それだけで地面の揺れを感じるようなパワフルな揺れに圧倒される。


 さすが、スライム2000匹分のパワーは侮れない。


 しかしこのでか状態を維持するのにはかなり魔力を喰うはずだ。体内の魔力結晶がまだ残ってるとはいえ、ゆっくりもしてられない。


「よし。それじゃあ最後の仕上げといくか」


 俺の言葉に、でかスライムたちは嬉しそうに体を揺らす。


「本当に最後だからな。思いっきりやっちゃえ」


 ピンと体を伸ばすと、今度は興奮した様子で体をプニプニと上下させる。


「おお……」


 今度は確実に地面が揺れた。


 ひとしきり喜びを表現したのち、でかスライムたちはぴょんと跳ねて王都へと向かう。


 このでかスライムたちは何をするのだろうか。と見ていると、赤のでかスライムがピカッと輝きだした。


 ――な、なんだ?


 と、驚きつつ見ていると、赤でかスライムの前にずるずると対流する炎の塊が生まれた。


 いつもより何倍も輝きが強くて気付かなかったが、その光源は赤スライムの火魔法によるものだったようだ。


 ――そういえば、でかスライム状態で魔法を使うのは初めて見るな。


 なんて、呑気に火魔法を放とうとする赤でかスライムを見ていると――。


「……うそだろ」


 突然、赤でかスライムの前でうごめいていた炎の塊が爆発的に膨らみ、まるで町を飲み込む濁流かのようにして放射状に広がっていく。


 その範囲はこの広大な王都の半分を埋め尽くすほどで、まさに王都を火の海にへと一瞬で変えてしまうものだった。


「あちぃ」


 約2000匹のスライムたちが協力して行使する魔法は、後ろで見ている俺の方にまで熱気を届ける。


 ――火の海という表現はあるけど、これは誇張なしで、本当に火の海だな。


 そんな光景に圧倒されていると、ビュウと大気が流れ込む音が聞こえてきた。


 ――風か?


 その刹那、赤でかスライムから放たれる炎が巻き上げられ、巨大な炎の暴風となって王都に襲いかかる。


 それは不思議な感覚で、目の前では燃えカスとなった木材が風圧で砕け、焼け残った大きな石材や鉄などが吹き飛ばされて空中で暴れているというのに、そのすぐ後ろで見ている俺のところはそよそよと優しい風しか吹いていなかった。


 完全にコントロールされた緑でかスライムによる炎の暴風は、燃やし尽くされた王都をただの灰にする。


 それはまさに壊滅といっていいほどの、圧倒的な破壊だった。


 しかしそれだけでは終わらない。


 最後には黄でかスライムがぐっと体に力を入れ、魔力をたんまりと込めた土魔法を行使する。


 ――あぁ、可哀想に。


 そう、思わず人族の国に同情をしてしまうほどの強大な魔法の乱打。


 ドドドと大地が揺れ、地面が割れ、王都”だった”場所すらぐちゃぐちゃにしてしまう。


 美しいほどの、完璧なトドメ。


 さらに3匹のでかスライムたちは、まだ遊べるぞと言わんばかりに火の残る荒れた大地をぴょんぴょんと跳ねていき、王都の残りを、そして湖をぷかぷか泳いでいき、王城が建っていた島にあるいくつもの邸宅を……きっちりと最後まで破壊し尽くした。


 ――パチパチパチ。

 

 と、その姿に思わず拍手を送る。


 多くの人族はすでに王都を逃げ出しており、遠くからこの町の惨状を見ていることだろう。


 炎の嵐に喰われ、大地に飲み込まれていく、自分たちが生まれ育った国のことを。


 それはまさに、俺たちの作戦を締めくくるのに相応しい、絶望的なフィナーレだった。




「お疲れ様」

 

 3匹のでかスライムが、満足そうな顔をして俺の元へ帰ってくる。


 すると、自分たちでも作戦の完了を理解しているのか、灰色になった魔力結晶をぺっと吐き出してから、ポーンと明るい音を立てて元の小さいスライムたちに分裂する。


 しかし、6000匹ほどのスライムへと一気に分裂したものだから、スライム同士が重なってスライムの山のようになってしまっていた。


 お互いどけどけと、むにむに体を動かしながら山から抜けてそれぞれ一息ついていく。


 その姿は、ついさっきまで破壊の限りを尽くしていた巨大な魔物とは思えない、愛らしいものだった。


 俺も王都の外、まだ比較的足の踏み場のある地面に降り、スライムたちを迎える。


「お前ら、今まで本当にありがとう」


 1匹1匹、スライムたちと目線を合わせていく。


 遅れて山から抜け出して、ようやく体勢が落ち着いたスライムたちも、じっとこちらを見ている。


「これでもう、人族も俺らに手を出そうなんて思わないだろう」


 それだけの恐怖を、あいつらの体に、魂に刻み込んだ。


「つまり、これにて作戦終了で……」


 ぐっと拳を握り、天高く突き上げる。




「俺たちの……勝ちだ!」




 一瞬の静寂の後、弾けるようにスライムたちが跳んで跳ねてと踊りだす。


「くっ――はははっ」


 俺もそれに混じって、くねくねと思うがままに体を動かした。


 それは、俺らが人族から勝ち取った、大切な日常の1ページだった。




 なぜかはわからないが、突然黒い空間に拉致されて、見知らぬ世界に転移させられて、そこでたまたま出会ったスライムたち。


 初めの方はなし崩し的に一緒に行動しているだけだったが、気がつけば、運命共同体として共に生きていくほどの関係となった。


 代わりに人族とは敵対したし、思い描いていたような内政チートで無双するような生活は送れなかったけど、それでも俺はこの道を選んだ自分を褒めてあげたい。


 そして、こんな俺を今まで支えてくれたスライムたちにも、恩返しをしていきたい。




 ひとしきり満足するまで踊ると、俺とスライムたちは見合わせたように静かになった。


 こうして踊るのも楽しいが、俺らには帰るべき場所がある。

 


「じゃ、帰るか。我らがスライム領に」


 

 俺は木の船に乗り込み、スライムたちも乗りたい奴は自由に乗せ、来た時とは逆にゆっくりと平原を飛んでいく。


 こんなペースでは帰り着くまで時間がかかるだろうが、もう俺らを邪魔する奴らはいないのだ。数日かけて、ゆっくりと、スライムたちと旅を楽しみながら帰るのもいいだろう。


 それをするだけの自由が、勝者となった俺たちにはあるのだから。

 

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