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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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91 ガンガンいこうぜ


 ひゅうひゅうと風を切り、王都へ向かって船を飛ばす。


 後ろからは、勝手に増えてなければ6141匹のスライムが、激しい音を立て、木の葉を巻き上げ、森の中を爆進している。


 この王都の西側にある森もスライム領付近の森とは違い、木と木の間隔が広く、どこか寂しい様子をしている。


 その分スライムたちの進路を遮るものがなく、跳ねて移動しやすいのか、それなりに速度を出しているこの船の後ろをスライムたちはぴったりとついて追いかけてきている。


 ――この感じだと、あと1時間もすれば王都に着きそうだな。


 体の芯を熱くするような戦いの前の高揚感と、それとは反対に、頭の血が引いていくような、すっと冷えていく感覚、異なる2種類の感覚が体の中に同居する。


 俺の準備ももう万端だった。


 そうして森のすぐ上を飛行していると、パッと景色が変わる。


 俺らが一晩潜んでいた森が終わり、代わりに現れたのは青々とした草が生える広大な平原。


 スライムたちもがさがさと森を抜け、平原にぴょんと飛び出た。


 ここまでくればもう王都もしっかりと目視できる。


 俺はまだ小さく見えるそれを視界に入れ、さらに速度を上げて真っ直ぐに突き進む。


 ゴンドラと木の船を繋ぐツタを編み込んだ太いロープがギチギチと軋むのも気にしない。


 ――ん?


 と、そんな時。


 王都の方で、空にもくもくと煙が上がっているのが見えた。


 それは大した煙の量ではないが、少なくとも焚き火なんてレベルでもなさそうだ。


 ――昨日植えたマンゴーの木に火でもつけたか?


 可能性としてはありそうだ。俺だって向こうの立場ならそうするかもしれない。


 しかしマンゴーの木は、大きいものでは樹高40メートルにもなる巨大な木だ。幹も太く、体積もある。


 それに本来はその大きく育った木にたくさんの瑞々しいマンゴーの実を付ける植物であり、当然その幹にも多くの水分が含まれている。


「悪手だな」


 時間があれば可能だったかもしれないが、1日2日じゃあどうしようもないぞ。人族よ。


 と、そんなことを考えながら、スライムたちを引き連れて王都を目指していると、思いの外すぐに目的地にたどり着いてしまった。


 心のどこかではやる気持ちがあり、思ったより速度を出してしまっていたのかもしれない。


 いや、”かも”ではなく、そうだと断定できる。


 なぜなら今俺は、めちゃくちゃ興奮しているからだ。


 そんな俺の速度にぴったりと着いてくるスライムたちも、おそらく同じ気持ちだろう。


 俺らの来襲を予見していたのか、王国の城壁から少し離れたところには、数万に及ぶであろう兵士たちの大群が並んでいた。


「盾……?」


 しかしそいつらは剣は腰に差したまま、体を覆うほどの大きな盾を構えている。


「小癪だな」


 何か手があるのだろう。どっしりと盾が並ぶその陣形からは、攻撃の気配は感じられない。


 そんなもので時間を稼げると思われているとは、まだまだ俺らも舐められているということだろう。


 ――足りない。


 スライムと敵対するということの大きさが、その愚かさが、全くわかっていない。


 それならば、今ここできっちりと刻みつけてやるしかない。


「お前ら! 行くぞ!」


 俺が昨日仕込んでいた、ぷすぷすと火が燻る大きなマンゴーの木を次々と引っこ抜く。


 ――とりあえず使いやすいように、もうちょい王都へ近づけておこう。


 そのままその大木を――投げた。


 狙いもクソもない。ただの適当な投擲。


 拾った薪をまとめてポイと投げ置くかのような、気軽な行為。


 しかしそれは、人族の兵士たちからすれば天地がひっくり返るほどの重大な瞬間だった。


 40メートル級の大木が、数十本ほど空を舞う。


 そんな飛んでいく木も越え、兵士たちも越え、俺は王都上空へとやすやすと侵入。


「今回は制限なしっ! 好きに暴れていいぞ!」


 そうスライムたちに伝えると同時に、後ろで大木が地面とどんどんと衝突する、地鳴りのような音が響いた。


 しんと隊列を組んでいた緊張感のあった鎧人間たちが、突然のことにぎゃあぎゃあ騒ぎはじめる。


 ――そんな大木よりも恐ろしい奴らが、すぐに突っ込んでくるぞ。……6000匹ほど。


 その光景を想像して、自然と笑みがこぼれる。


 ――あの兵士たちには申し訳ないな。


 と、思ってもないことを考えながら、船に積んでいた獣脂を染み込ませた丸太の輪切りのような弾をいくつか空に浮かべる

 

「スラちゃん、こいつに火をつけてくれ」


 俺の植物魔法のコントロールもだいぶ上達したもんだ。


 俺と一緒に船に乗っている3匹の側近スライムのうち、赤色のスライムが浮遊する丸太にぺっぺっと火を吐くと、すぐに炎が燃え上がり、大きな火の玉が完成する。


「さんきゅ」


 俺はその炎を纏った丸太を浮かせたまま、船の下に広がる王都を覗く。


 そこには慌てふためく人族や、不安そうにこちらを見上げる人族など、色んな奴らが見えた。


 ――すまんな。


「ほいっ」


 俺は軽いかけ声とともに、その燃え盛る丸太を王都の街並みへと叩きつけた。


 地面に到達した丸太は破裂音を立てて砕け散り、辺りに炎を撒き散らす。


 木造家屋が主流なのはこの王都も変わらないらしく、俺が放った火種は瞬く間に町へと燃え広がっていく。


「次も頼む」


 俺はスライムと協力し、ふらふらと王都上空を蛇行しながら、次々と炎を叩きつけていく。


 その度に各所で火が燃え上がり、気が付けば、王都の上空を雨雲のような煙が覆うほどになっていた。


「ゲホッゴホッ」


 さすがにやり過ぎたみたいで、空を飛んでいる俺にまで煙がかかる。


 ――獣脂を染みこませた丸太ももうこれで最後だし、そろそろスライムたちのところに戻るか。


 そう思い、最後の炎を纏った丸太を町に落とした後、船を旋回させてスライムたちがいる方に向く。


「おぉ……」


 すると、そこには素晴らしい、もはや感動的とすら思える光景があった。


 ここからでもはっきりと見える、町の外に現れた”巨大な”3匹のスライム。


 それはまるで、特撮映画に出てくる、町を破壊する怪獣のようだった。


 燃え盛る街並みと相まり、その姿はまさに破壊をもたらす魔族そのもの。


「……はは。すげーな」


 盾なんて関係ない。そいつがぷるんぷるんと体を振り回すだけで、鎧を着た人族はぐしゃりと潰れて飛んでいく。


 力の差は歴然だった。


「……ん?」


 と、暴れ回るスライムたちを見てうっとりとしていると、なにか体に異変を感じ――


「うわっ!」


 その瞬間、船のコントロールを失いそのまま真っ逆さま――となりかけたが、ガクンと一度沈んだだけで、すぐに植物魔法をかけ直して体勢を戻す。


「あっぶねぇな。なんだ?」


 体が弄られるような不快感。それに、植物魔法で動かす船が重く感じる。


 スライムたちは無事かと、俺の近くにいる側近スライムたちの姿を探す。


「おいお前ら大丈――」


 ……なんだこれ。


「大丈夫かっ!?」


 船の上にいるスライムが、しなしなと萎びて小さくなっていく。


 ――これはまさか。


 俺は植物魔法の鈍りを感じながらも、それでも今まで出したことのないような速度で3匹のでかスライムの元に向かう。


「こいつらとも合体してくれ!」


 そう声をかけて、側近スライム3匹をでかスライムに向かって投げつける。


 乱暴なのは許してくれ、今は予断を許さない状況だ。


 でかスライムたちはまだ元気なのか、俺の意図を汲んでくれて、しなしなになったスライムたちをひょいとキャッチして体に取り込む。


 ――やっぱり、こういう搦手からめてを使ってきたか。


 おそらく魔力の制限。


 いや、側近スライムの様子を見るに、それよりももっと強力な魔力の吸収。


 しかし俺も何も対策をせずにノコノコやってきたわけではない。


「スラちゃん! これ使え!」


 どこかひと回り小さくなったように見えるでかスライムたちに、船に積んでおいた魔力結晶をひとつずつ投げつける。


「木枠はぺっしとけよ!」


 木のフレームでコントロールされた魔力結晶は、とぷんとスライムの体内に沈み、その魔力を供給するバッテリーとなる。


「これでひとまず急場は凌いだはずだ」


 とはいえまだ問題は解決していない。


 魔力結晶はあくまで時間稼ぎ。その結晶が輝きを失ってしまえば、次はスライムたちの魔力が失われることになるだろう。


 そうなる前に、俺がどうにかしなければならない。


 幸いというか、予想通りではあるが、人族の魔力吸収も俺の魔力まで完全に奪うことはできないようだ。


 なにせ俺は今まで植物魔法をこれでもかと使い倒してきたが、一度も魔力というか、MP的なものを感じたことがない。


 今回の人族の策略でようやく植物魔法に少し重さを覚える程度だ。


 とにかく、この俺らの魔力を奪っている何かを早く発見して阻止しなければならない。


 他の生物から魔力を吸収するという複雑そうな魔法に対して、俺は巨大魔力結晶による時間稼ぎと、植物魔法による物理的阻止というなんともアナログで脳筋な対応で状況の打開を狙う。


 これは、策と名乗るのもおこがましい、魔力の扱いに関しては素人の俺が考え抜いて導き出した”対策”だった。


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