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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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90 王都へ


 「……んあ」


 背中に違和感……。


 硬い。


 目を開くと、そこには薄暗い群青色の空が広がっていた。


「……あ、そっか」


 モヤがかっていた頭がすっと覚醒していき、自分の状況を理解する。


 背中にはゴツゴツと硬い地面、横を見ると焚き火の跡。


 少し顔を下げると、俺の腹の上ですぴすぴ寝ている赤スライムがいた。


 ――昨日はスライムたちと一緒に地面で寝たんだったな。


 赤スライムを起こさないようそっと地面に移してから立ち上がり、ぐっと伸びをする。


「っくぅ〜〜〜!」


 森の清浄な空気の中、筋肉がほぐれていくのが気持ちいい。


 硬い地面に一晩寝そべっていたというのに、体にダメージは全く残っていない。


 俺はこの世界に転移した時に、体の性能も上げてもらってたみたいだからな。切り傷すら一晩で塞がるのだから、これくらいどうってことはない。


 そのまま船の側に向かい、水の入った革袋を掴み、水を被るようにして顔を洗う。


「っぷはぁ」


 森の早朝、しんとした静けさの中、程よく冷えた水で体を起こすのは、この世界での最高の贅沢だ。


 俺の気配に気づいたのか、スライムたちも1匹、また1匹とモゾモゾ動き出し、みょーんと伸びをする。


 残念ながら、今日はため池も苔モニモニもないぞ。


 スライムにとっては物足りない朝になるだろうが、領に帰ってからのお楽しみということにしておいて欲しい。


 朝の早い時間はそうやって、今回船に積み込む荷の整理をしたり、体を軽く動かしたりして過ごす。


 その間、スライムたちはやはり拠点が恋しいのか、どこかつまらなそうにぽやっとしていた。


 そうして朝日が昇り空が明るくなってきた頃、簡単に朝食を摂り、いよいよ王都へ向かう準備を始める。


 といっても大してすることはない。やるべき準備は全て終えてるからな。


 木剣と木盾を肩掛けのツルに引っ掛けるようにして背中に背負い、俺の命綱であるアームガードを腕に通し、きつく締める。


「今日は船に乗せられないからな。かなり走ることになるぞ」


 そう、俺の支度を暇そうに観察していたスライムたちに伝える。


 昨日みたいに6000匹のスライムを往復して王都まで運ぶわけにもいかない。俺は船で行かせてもらうが、スライムたちはここから王都まで陸路だ。


 だいたい、スライムの足で2、3時間くらいはかかるだろうか。


 まぁこいつらの体力なら全く問題のない距離だ。


「よし、お前とお前とお前!」


 と、近くにいたスライムを赤、黄、緑から1匹ずつ選んでむんずと掴み、船に乗せる。


「お前らが今日の側近スライムだ」


 本隊とは別行動をする、俺の護衛兼連絡係となるスライムを任命。


 一緒に俺も船に乗り込み、残りのスライムたちの方を見る。


 そこには、森にぽっかりと空いた広場にずらっと並ぶ、6000を超えるスライムたちが揃ってこちらを見ていた。


 その姿は、どこか俺の胸を熱くする。


 今思えば、この世界に来てからの俺の原動力というのは、終始こいつらに関係することばかりだった。


「お前ら、今まで作戦付き合ってくれてありがとうな」


 スライムたちは、身じろぎひとつせずこちらを見ている。


「今日がその作戦の最後、総決算だ。今までは我慢してたとこもあるだろうけど、今日はその必要はない。人間どもを、思いっきりボコボコにしていいぞ」


 それを聞くと、今までじっとしていたスライムたちがそわそわと色めき立つのがわかる。


 ――ほんと、わかりやすい奴らだな。


「うーし、行くぞお前ら!」


 俺は空のゴンドラのついた船を動かし、王都へと向けて進軍を開始する。


 それに伴って、6000匹のスライムが森の中をぴょんぴょんと跳ねる。


 それはまるで、森全体が揺れているような、壮大な光景だった。



 ◆◆◆



 その日、クァナック王国に住む人々は混乱に陥っていた。


 ただでさえ、近隣の村や町が次々と滅ぼされ、次の標的はこのクァナックだという噂も流れ、精神的に逼迫ひっぱくしている状況。


 そんなところに、突然クァナックの近くに出現した森。


 ”何か”はわからない、しかしその奇怪な現象は、恐ろしい”何か”を暗示しているかのようで、疲弊するクァナックの住民や、クァナックまで避難してきた人々の心をぐしゃぐしゃに掻き乱すには十分だった。


 実際には森というほど大げさなものではない。せいぜい林か、ちょっとした乱立する樹木程度のものなのだが、規模よりも”なかったものがそこに突然現れた”という恐怖心が、この群生するマンゴーの木を恐怖の対象として大きく見せてしまっていた。


 しかし、そんなパニック状態の国民とは裏腹に、クァナック王国の謁見の間――現作戦司令部では粛々と会議が進んでいた。


「――これらの情報から、今回突然発生した成木はくだんの魔族によるものと考えます。王国衛兵長として、早急に軍を展開すべき事案かと進言いたします」

 

「ふむ。トリポロの意見に反対の者はおるか」


 クァナック王国8代目国王、ピピンは立ったまま、その場にいる者たちに問う。


「……わかった。ではトリポロよ、貴殿に万事を託す。クァナックを脅かす魔族からこの国を守るのだ」


「はっ!」


 トリポロは胸に刻まれたノパルの意匠に拳を当て、足早に作戦司令部から出ていった。


 その姿は頼もしく、その場にいる貴族や王の重臣たちの心を幾ばくか軽くさせた。


「しかし王よ、かの魔族が丸太を振り回すというのはわかりました。それから植物を操る技を持つのだろうということも……。では、クァナックのそばにあのように木を乱立させた目的は何処にあるのでしょうか」


「クァナック周辺には奴らが扱えるような成木は少ないからな。殴る、飛ばす、ぶつける、そのような攻撃手段として活用するつもりなのだろう。……あの規模を見るに、こちらに投げつけるというのが有力だな」


「おぉ、ではあのようなもの、早く切ってしまいましょう!」


「ふむ。確かにあいつらの策をただ見ているだけというのも気分が悪いな。あれだけの量、切るのでは時間もかかるし、運搬にもかなりの人員を要する。遠くから火矢を放たせるとしよう」


「しかしあれほどの巨大な生木、葉は燃えても幹まで燃やし尽くすというのは……」


「ふん、あまり気にするな」


 そのピピンの言葉に、その場にいる者たちは困惑の表情を浮かべる。


「……王よ、真意を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」


「かの魔族は植物を扱う技を持つのだ。今までの町を跡形もなく消したのも、その力あってこそだろう。であれば、このクァナックのほとんどの家屋も、今までの町と同じように簡単に破壊されるのは自明。対処しようともせずとも、被害に差はない」


「な、なるほど……」


「しかしここ、王城は別だ。ナワ湖の湖上にあるこの城は、たかが木なぞどれだけ打ち付けられようとも問題にならない、堅牢な要塞となっている。我々は魔族を討ったというトリポロからの報をここで落ち着いて待っておればよい」


「は、ははぁ。さすが王。類稀な慧眼けいがんの持ち主ですな」


「クァナック王国はこの苦難を乗り越えさらに強大な国になりますぞ!」


「今回のことが終われば、見せしめとクァナックの強さを誇示するために他の魔族どもも滅ぼしてやりましょう!」


 ピピンの、一点の曇りもない言葉にその場の貴族たちも追従する。


『しかしそれは、現場で戦う兵たちのことをあまりに蔑ろにした言葉ではないか』


 その貴族たちに混ざるテモノノクは、手を顎に添えてひとり難しい顔をする。


 チティトリにて、実際に魔族と戦った、声を震わせその当時の様子を語る兵士たちの姿は、テモノノクの頭の中にまだはっきりと残っていた。


『王は我らが軍が勝利すると確信しておられる。いや、それは上に立つ者として当然なのだが、それは盲信になってはおられないか。近郊に突如現れた樹木にしても、自身の心配しかしておられなかった。その植物を扱った技の脅威を1番に受けるのは、その場で戦う兵士たち、そして国民だというのに……』


 まだ魔族すら現れていないというのに、すでに戦勝ムードに包まれるその作戦司令部の雰囲気に、テモノノクはどこか気味の悪さを感じるのであった。

 

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