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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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88 意趣返し


「いっ、いっ、あーいー」(いち、に、さん、しー)


「いー、いっ、あーいー」(にー、に、さん、しー)


「スラりょー、あいっ(オー)あいっ(オー)あいっ(オー)あいっ(オー)」


 スライム領の朝はランニングから始まる。


 かっこ内の掛け声は、本来はスライムの分なのだが、なにせスライムなので俺が代わりに心の中でやっている。つまり1人で掛け声をやり合っているということだ。恥ずかしさはとうの昔になくなっている。


 まだ明るくなったとも言い切れない、オレンジと群青の混じった清々しい早朝の空気の中、俺は心地よい汗をかいていた。


 当然後ろにはスライムたち。


 いや、こいつらを”たち”の枠に収めるのは難しいだろう。


 俺がタッタッタッと地面を蹴るその後ろからは、ヌーの群れが大移動をするかのような、ドドドと騒がしい音が聞こえてくる。


 俺の後ろを付いてくるスライムたちは、もう以前とは比べ物にならないほどにその数を増やしていた。


 ――今までめんどくさくてやってなかったけど、明日は大事な戦いがあるし、ここらで一度数えておくか。


 大群と呼ぶに相応しいそいつらを引き連れ、ぐるりとスライム領を1周。


 そのまま拠点横の荒野にまでスライムたちを引き連れて、号令をかける。


「整列!」


 それを聞いたスライムたちは、一度体をピクンとさせ、ぴょんぴょんと跳ねて入り乱れる。


 これだけの数がごちゃごちゃと一斉に移動するので、それだけで地面が振動するのが感じられた。


 しばらくするとその激流のような動きが次第に大人しくなっていき、パチパチとパズルが完成していくように、規則的に並んだ列が浮かび上がってきた。


 ……壮観だな。


 目の前には、1列10匹が10列分、つまり100匹を1ブロックとして区切られたスライムたちが、ずらっと並んでいた。


 100匹の一塊ひとかたまりでは綺麗に並んでいるのだが、ブロック単位で見ると少しずつズレがあるのが愛おしい。


 そのブロックを数えていき、最後に余ったスライムも忘れずに足す。


 その結果は、


「6144匹……」


 ……えぐい。


 色ごとに分けて数えてはいないので、スライム領の総スライム数ではあるのだが、それにしても途方もない数である。


 あの日、ため池の側に置いていた魔力水晶はスライムたちのパーティ会場となり、三日三晩我が領を賑わし続けた。


 他のスライムが魔力を吸収している間に、一度分裂したスライムもクールタイムを終えてまた魔力水晶を求めるというループに入り、結局はそこに置いてあった魔力水晶全てが灰色になるまでその騒ぎは続いた。


 スライムに魔力を吸い尽くされ、もみくちゃにされた魔力水晶は輝きを失い、どこか茫然自失としているような印象すら受けたが、ため池に沈めておいたのでそのうちまた元気を取り戻してくれるだろう。


 魔力水晶の数は、追加でトトたちが運んでくれた分を含め全部で33個にもなった。魔力満タンの水晶のうち3個はあらかじめ取っておいたのだが、それ以外の30個は今、全てため池の底にある。


 それほどの魔力がこのスライム領にもたらされたということだ。


 現在、さすがにこのため池も手狭になってきたし、なによりこの拠点自体、スライムを収容するには全くキャパが足りない状況となっている。


「人間どもを追い払ったら、またスライム領の整備だな」


 その頃には、人間どものちょっかいにも悩まされることのない、過ごしやすい領になっていることだろう。


 その後はいつもより軽めの訓練をこなし、解散してから朝兼昼の食事を摂る。


 一部スライムが、事前に確保しておいた3個の魔力水晶に手を出そうとするというハプニングもあったが、その日の前半は特にいつもと変わりのない、日常と呼べる生活を送ることができていた。


 しかし、明日に向けて、今日のうちにやっておかなければならないことがある。


 少しの間ゆっくりとしていたが、いつまでもこうはしていられない。


 俺は近くにいたスライムを10匹連れて、東屋に突っ込んでいる木の船に乗り込み、植物魔法を使って宙に浮かす。


 向かう先は王都。


 ……の、西側にある森だ。


 ここらあたりの人間はすでに王都にまで追いやっているので問題ないとは思うが、あまり目立たないよう、高度を森のぎりぎりにまで下げて高速で飛行する。


 今の俺の全力なら、1時間もあれば王都に着くので、今回の目的地にもそれくらいでたどり着くはずだ。


 ビュウビュウと風を切り、目を開けるのも辛いほどの速度で船を飛ばす。


 しばらくすると森を抜け、小さな森と平原が混在する、人間の領域”だった”土地に入る。


 当然今では人間の気配は微塵みじんもない。


 そうやって、とある町の跡地までやってくると、さらに高度を下げ、そこから続く街道を辿ってまた飛んでいく。


 そのまま飛行していると、右手に森が見えてきた。


 ここが俺が目指していた目的地だ。


 王都周辺は開けた平原になっているのだが、近くに全く森がないというわけではない。


 かなり歩くことにはなるが、俺が今いる場所のような、そこそこの森も点在している。


 俺は人間に見つからないように祈って、その森の上を進む。


 ――まぁ、最悪バレてもいいけどな。この段階になってしまえば、もう人間どもに俺の計画を邪魔することはできないだろう。


 速度を落とし、下をきょろきょろと見回しながら、いい感じの場所を探す。


 とはいっても、どこを見ても木が生えているだけの森なので、どこがいいかはわからなかった。


「ここらへんでいいか」


 遠くに小さく見える湖を一度見て、ここだと場所を定める。ちなみにあの湖は王都が利用している湖で、本当はめちゃくちゃでかい。


 湖の西側湖岸にくっつくように王都は広がっているのだが、一度その反対側からこっそり湖を見に行ったことがある。


 さすがに対岸が見えないほどではないが、少なくとも俺が今まで見た湖の中では1番大きいものだった。


 それがこんなに小さく見えるということは、ここと王都はそれなりに離れているということだろう。


 俺は空中で船を停止させ、森の木を何本か引っこ抜いて船を降ろせるスペースを作り、そこに船をゆっくりと着陸させる。


「ふぅ〜」


 慣れたとはいえ、やはり空の旅は神経を使うものだ。


 どっしりとした大地に足をつく安心感は何物にも変えられない。


「もし人か魔物が近づいてきたら教えてな」


 そう連れてきたスライムにお願いし、俺は作業に集中する。


「よし、やるぞ」


 といってもそれは難しいことではない。


 ぼこぼこぼこと木を引っこ抜いていき、その木をトンボのようにして使い土を均す。


 それを繰り返していくと、1時間もかからずに森の中にぽっかりと大きい広場ができていた。


 奇しくもそれは、前に俺らの領を攻めてきた人間どもが身を隠すために森に作った野営地と同じような広さだった。


 ――ま、あいつらのやり方の丸パクリだな。


 今までは60匹のスライムで村や町を破壊していたが、今回は違う。


 予想以上に増えたという誤算はあったが、今回はスライム総出で王都へ出撃する予定だ。


 たったの60匹相手でも、あれだけ好き放題やられていた人間どもに、さらに残酷な現実を突きつける。


 謀らずとも、その数は約100倍。


 明日、6000匹超のスライムが人間どもに襲いかかるのだ。


 もうここが最後。出し惜しみは必要ない。


 スライム領の全勢力を使って、人間を叩きのめす。


 この森に作った広場は、その大量のスライムたちを人間の住む王都の近くに待機させておくためのものだった。

 

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