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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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86 結晶


「きたきたっ」


 それは、鳥人間率いるトトトルたちの群れだった。


「スラちゃーん、かご持ってきてー」


 褒美といえば偉そうになるが、頑張ってくれたトトたちのために最高のとうもろこし――テオシントだっけ、を用意しよう。


 拠点の西側にある畑の方に顔をやり、手をくいっと動かす。


 すると、背の高い草葉が揺れ、そこからプチプチと音を立ててとうもろこしが浮き上がってきた。


 ――おっと、邪魔しちゃったかな。


 お手入れの最中だったのだろうか、その少し寂しくなったとうもろこし畑の影から、なんだなんだとアココが顔を覗かせる。


「さんきゅ」


 俺はとうもろこしをそのまま手元まで移動させ、スライムが持ってきてくれた網籠に振り分けていき、一杯になるまでそれを続ける。


 出来たのはどっさりと三籠分。


 これだけあれば、トトたちも満足してくれることだろう。


 3つの籠を植物魔法で宙に浮かし、あいつらを出迎えにいく。


 空が主戦場のあいつらでもさすがに今回の仕事はハードだったのか、いつもは1分もあれば辿り着くような距離に何倍もの時間をかけている。


 しばらくの間北の空を見ながら到着を待っていると、バサバサと翼を羽ばたかせる音が聞こえてきて、ようやくスライム領に鳥人間たちが到着した。


「はぁ〜っ。疲れた!」


 開口一番、鳥人間はその鋭い爪の生えた手で汗を拭いながらそう漏らす。


「お疲れさん。にしてもすごい量だな。助かったよ」


「いやー、なんかこんなに体を動かしたのは久しぶりだったから気持ちよかったぞ。たまにはこういう負荷のかかる運動もいいもんだな」


 と、爽やかな顔でそいつは答える。


 熊男の件でひとつ文句でも言ってやろうかと思っていたが、こいつの顔を見ていたらそんな気はすっかりなくなってしまった。


 にしてもこいつの発言を聞くと、今回のようなきつい仕事をナチュラルにトレーニングと捉えてる節がある。


 この世界で生き残っている魔族なだけあって、やはりフィジカルトレーニングに対しては意欲的なのだろうか。


 たしかにこいつは肉体労働向きで、事務仕事とかやらせたら発狂してどこかへ飛んで逃げていくタイプだろうな。間違いない。


「トトたちもありがとうな」


 そう、2匹1組で籠を運んできた、ピンク色の丸っこい鳥の魔物たちに感謝を告げる。


 そいつらは俺の言葉がわからないのか、それともそれどころではないのか。


 翼を広げて地面にくたっとへばりつき、ぜぇぜぇと体を上下させている。


「おい! お前らこれくらいでなにへばってる! もう一往復あるんだぞ!」


 ……うそん。


 どうやら輸送物はこれが全てではなかったみたいだ。


 どこか、トトたちが俺を恨みがましい目で見ているような気がしないこともない。


 ついさっきまで、『俺たちは誰の手も借りねぇ』みたいなノリだったこともあり、ちょいと気まずい。


「ま、まぁちょっと休憩したらどうだ。あ! そうだ、マンゴー食うか?」


 どう見てもトトたちには休憩が必要だし、マンゴーなら甘味もあってエネルギー補給にもいいだろう。


 しかしそんな俺の提案に、鳥人間は顔を顰める。


「まんごぉ?」


 ――あぁ、なるほどね。


 俺は植物魔法を使って、拠点に植えてあるマンゴーの木から黄色く熟れたものをひょいとひとつもぎる。


「これだよ。食べたことないか?」


「おっ、ナクァトルじゃねーか。お前本当に人族の住む方に行ってたんだな」


 こいつ、植生でその地域がわかるのか。さすが色んなところを飛び回っているだけはあるな。


「たしかにここら辺じゃ見ないもんな。そんで食うか? そのナカなんとか」


 鳥人間が、元気に「食う!」と答えたので、トトの分含め用意することにした。


 明らかにとうもろこしの時とテンションが違うが、別に嫌いというわけでもないらしい。


 半分に割り、種をとって渡してやると、鳥人間もトトたちもぱくぱくと美味しそうに食べ始めた。


「むっ。ナクァトルってこんなうまかったか?」


 そう言いながら、鳥人間の食べる手は止まらない。


 ウチは水が良いしな。そりゃあうまいだろう。


 向こうの世界で、地下水で作るスイカを食べたことがあるが、そりゃあもう美味だった。やはり作物を美味しく育てるには美味しい水が必要なんだなとその時悟ったものだ。


 その点この領は最高の湧き水有り、植物魔法有りで、作物を生産する環境としては格別だ。


 さて、こいつらはマンゴーに夢中だし、俺は届いた品を確かめるとしよう。


 そいつらが運んできたいくつもの籠を浮かして、拠点のため池の横まで運ぶ。


 スライムたちはすでに何かを感じ取っているらしく、ぞろぞろと俺の――というか、その籠の周りに集まってきていた。


「こらー。踏んじゃうからそこどいてくれー」


 中にはぴょんぴょんと跳ねて籠に手を出そうとする奴までいる始末。


 ほんと、食い意地の張った奴らだ。


 しかし、昔爬虫類を飼っていた俺からすれば、食べる……もとい、吸収してくれるというだけでも百点満点だ。


 他の動物もそうかもしれないが、爬虫類飼いにとって”拒食”はトラウマレベルの出来事だと思う。病院に行って治るものでもないし、原因の特定が難しく、何が正解なのかもわからない。


 あのずっと不安な気持ちが続く体験は、今思い出しても心臓がギュッとなる。


 心の中では、これだけ食事に前向きなスライムたちを、偉い! 天才! と褒め称えてあげたい気持ちだ。


 そうして、まだ理性は残っていたらしい、俺の声を聞いてスライムたちが空けてくれたスペースに、籠の中身をごろりと放る。


 それは、面取りをして角を丸めた正六面体――サイコロのような四角い形をした魔石の大きな塊だった。


 初めて領都を襲撃したあの日、人間が加工したと思われる魔石が大量に手に入った。


 人間がそれを何に活用しているのかはわからないが、その後もある程度大きな町では度々魔石を手に入れることができ、スライム領は過去に例を見ない魔力的好景気に突入していた。


 スライム領では、スライムたちが一度吸収した魔石をため池に沈めることにより、失われた魔力を回復させるというリサイクルが可能となっている。


 物さえあれば、時間というリソースのみで魔力を無限に回収できるので、魔石ひとつが持つ価値は計り知れない。


 そのために一時期は獣道を増やして魔物を呼び込んだりもしていたのだが、ここに来てその魔石の総量がアホみたいに増えた。


 魔石の風呂に入って高笑いでもしようかと思ってしまうほどの馬鹿げた量だったのだが、あまりに多すぎて逆に扱いに困ってしまった。


 そんな時、ふと思い出したのだ。


 北の地に住む造形師のことを。


 あいつは人間そっくりな魔法生物を生み出すほど魔力にもものづくりにも造詣ぞうけいが深い。


 それに硬貨も加工できるみたいなことも言っていたので、もしかしたら人間が扱う魔石加工の技をゴーレムも持っているのではないかと睨んだのだ。


 結果は大当たり。


 あいつも魔石は使うらしく、ごく一部を渡すことを条件に、大量の魔石の加工を快く引き受けてくれた。


 タダでもいいと言っていたが、変な借りは作りたくないからな。もともと拾ったようなものだし、量も相当なものなので少し譲るくらいなら全く問題ない。


 ――その結果がこれ。


 俺はさらにごろごろと籠から大きな魔石――いや、もう石ではないな、魔力結晶と呼んだ方がいいだろう。その魔力結晶を地面に並べていく。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よー、いー……」


 数えると、その数は18個。


 ひとつが1立方メートルほどの大きな魔力結晶が、それだけある。しかもこれからさらに増えるらしい。


「ぐへへ……」


 俺はまるで大金を前にした卑しい悪党のように、人には見せられないような悪い顔をする。


 魔力というのは、俺たちにとって力そのもの。


 力というのは生きるか死ぬかに直結する非常に重要な要素であり、俺らの命綱といっても過言ではない。


 それが棚ぼた的にこれだけ手に入ったのだから、そりゃあ顔が緩むのも仕方ない。


 その魔力結晶には、ゴーレム領に送る前にスライムが吸収していたのですでに灰色になっているものもあるが、ほとんどはまだ淡い水色をしている。


 とりあえず、輝きを失った灰色の魔力結晶だけは先にため池に沈めておこう。


 これだけ大きな結晶だと魔力が復活するのにどれだけかかるかわからないからな。早めの方がいいだろう。


 と、作業をしていると、背中に熱いものを感じた。


 実際に熱があるわけではない。それは、うちの食いしん坊たちの熱い視線だった。


「わるいわるい、待たせたな。好きなだけ食べていいぞ!」


 その掛け声に合わせて、スライムたちは我先にと魔力結晶に飛びついていく。


 まだ魔力の残っていた結晶は15個もあったが、今では全部がスライムの群れによって埋め尽くされており、その姿は少しも見えなくなっていた。


 ――溢れて魔力を吸えてないスライムもいるけど、今食らい付いてる奴らが満足したら次第に席は空いてくだろうし、心配はいらないか。


 領都で魔石を拾い食いしていたスライムたちを見るに、一度分裂までいくと連続して魔力を吸収することは好まないらしいからな。


 その後、もう1往復してくれた鳥人間たちの籠も追加したところ、結局その日は太陽が沈んでも魔力結晶の周りからスライムがいなくなることはなかった。


 いつまでも付き合う必要はないので、俺は早々に切り上げて家に帰り就寝。


 次の日、目を覚ました俺は顔でも洗うかと薄暗い中玄関の戸を開けるのだが、やはりというか、予想通りというか――そこには一面びっしりと、大地を覆い尽くすほどの大量のスライムが見えたのだった。

 

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