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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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84 固有技術


 スライムの身に一体何が――。


 と不思議に思っていると、1匹のスライムが俺の足元にやってきて、『こっちに来い』とでも言わんばかりにスウェットの裾を引っ張ってきた。


「どこに連れてってくれるんだ?」


 という質問に答えは返ってこないが、促されるまま、ぴょんぴょんと跳ねていくスライムの後をついていく。


 もう領都の面影など全くなく、荒れ地と呼んでも差し支えのない開けた土地は、粉砕された家屋や石材の名残で埃っぽい。


 ――スライムたちは呼吸器とかなさそうだし、こういう時便利だな。


 なんて思いながらしばらく歩いていると、突然目の前のスライムがぴたっと止まった。


「こ、これは……っ!」


 それはスライムの先。


 そこには何かが乱雑に散らばった、まるで食料庫が獣に食い漁られでもしたかのような光景が広がっていた。


 ――いや、違う。


 ”まるで”ではない。


 これは実際に獣が食い荒らした跡だ。


「お宝の山じゃねぇか!」


 そう……スライムという名の獣が、この魔石のようなものを好き放題吸収して散らかした跡だった。


 嬉々として魔石のようなものに飛びつくスライムたちの姿は容易に想像できる。


 この”魔石のようなもの”という曖昧な表現は、目の前のこれらが俺の知る魔石と形が異なるからだ。


 俺が知っている魔石というのは、ビー玉くらいの大きさで、淡い水色をしている丸い石だ。


 それに対して、ここにある魔石のような物は色こそ淡い水色をしていたり、一部スライムが吸収してポイしたのであろう灰色をしていたりと、そこまでは俺の知っている魔石と同じなのだが、大きさが全く違う。


 小さい物は魔物から採れるビー玉サイズから、大きい物だと直径30センチはありそうな楕円形のもの、中には四角いキューブ状のものまであり、様々な形と大きさをしている。


「もしかして、魔石を加工してるのか?」


 前に戦った白ローブの奴らは、腰袋の中に森で倒したのであろう魔物の魔石を何個か入れて保管していた。ということはそれを使ったり、後に換金したりする予定があったのだろう。


 それはつまり、人間社会で魔石が活用されていることの証左だ。


 それに、俺は今まで100体以上の魔物から魔石を採取してきたが、魔物の大きさに関わらず魔石の大きさはどれもビー玉くらいの大きさだった。


 もちろん完全に同規格というわけではなく、多少の個体差はあったが、逆にいえばその程度。ビー玉サイズの範疇を越えたことは一度もなかった。


 人間社会では魔石が活用されており、魔物から採取できるサイズを超えた現物がここにある。


 この2点から導かれることは、人間に魔石を加工する技術があるということだろう。


 もしかしたら俺が知らないだけで、こんな形のでっかい魔石もあるのかもしれないが……。


 ……うーん。いまいち想像できないな。


 たとえばあの北の山で見たドラゴン。あいつがどでかい魔石を体に宿しているといわれれば、まぁ納得できないこともない。


 しかし、これだけは断言できる。


 ――人間にあのドラゴンは倒せない。


 ぜっっったいに。


 その力の差は天と地どころの話ではない。


 あのドラゴンが人間を無慈悲にすり潰した衝撃的な光景を見るに、偶然死体を見つけて魔石だけを回収するという方法も難しいだろう。


 ドラゴンがそうそう死ぬとも思えないし。


 もしかしたら、あの北の山ですりおろされた可哀想な人間たちも、そういった一攫千金を狙った奴らだったのかもしれないな。


 力量差がありすぎて相手の強さが理解できなかったのだろうか。


 それはあまりにも無謀で、哀れだ。


 とにもかくにも、ここで魔石を手に入れられたのはラッキーだ。


 量もかなりのもので、1立方メートルのコンテナに詰めたら5、6箱くらいはありそうだ。


 それは、どれほどの数の魔物を倒せばいいのかもわからない、途方もない量だった。


 スライムたちにもお腹いっぱいという概念はあるのか、それともさすがに連続して分裂するのはきついのか、魔石の一部は魔力を吸収されて輝きを失っているが、まだまだ淡い水色をした綺麗な魔石はたくさん残っている。


「これを持ち帰ったら、領の奴らも喜ぶな」


 そう話しかけるが、当のスライムたちは微妙な反応。


 ……まぁ、スライムからすれば別の個体も実質自分の一部みたいなものだし、そりゃこうなるか。


 どれだけ数が増えようと、同じ考えを持ち、同じ記憶を共有し、時には合体したり分裂したりと自由にできる。


 実質どころか、本当に一個体なんだよな、こいつらは。


 赤、黄、緑という色ごとの違いはあるから、三個体か。


「そう考えると、スライムってめちゃくちゃつえーな」


 例えば、領に各色1匹ずついれば、別のところでどれだけスライムが消えてしまったとしても、個体としての質量が減っただけで死んだわけではないのか。


 種としての多様性はないので環境の変化に弱いという弱点はあるが、戦いの多い魔物の生存戦略として、これほど有効なものがあるだろうか。


 俺がこの世界に来た時、スライムの力の源である湧水は封印されていた。


 おそらくそれは人間の仕業なのだろう。


 そのやり方はたしかに合理的だ。


 スライムをいくら倒しても、全てを根絶しない限りまたどんどんと増えてくる。


 まともにやりあえば消耗戦になり、最終的には確実にスライムが勝つだろう。


 だからこそ、魔力という根本を断った。


 どうやったかはわからないが、湧水を封じるというミッションは、人間側からすればどれだけの犠牲を払ってでも成し遂げなければならないものだったのだろう。


「なるほどね……」


 他人事として聞くには趣深い話だが、残念ながら俺は当事者だ。


 ただの考察だといって楽観視するわけにはいかない。


 思考の海から意識を戻し、スライムたちを見る。


 そいつらは名残惜しそうに、大きな魔石に群がってモニモニとしていた。


 そのどこか抜けた微笑ましい姿は、俺が守りたいと思うものだった。

 


 ――ひとつ、怖いことがある。

 


 それは、人間側に”スライムの魔力を奪う”という発想がすでにあるということだ。


 今のところ人間どもがそのような手を使おうとした気配はないが、いつそれに気がつくか、あるいはもう気がついているのか……わからない。


 しかも、魔力関連の攻め手は俺では防ぐのが難しい。


 俺はただチート能力を貰っただけの普通の人間だ。


 植物魔法を行使するという点ではまさに無双といってもいいほどの力を発揮するが、この世界の魔法形態や技術に関しては素人以下、全くの無知。


「……知らないものに対して対策を用意するのは不可能だ」


 スライムが群がる、人間どもが加工したのであろう魔石を見る。


 通常では考えられない形をしたそれは、人間が”魔”というものに精通していることを見せつけられているかのように思えた。


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