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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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81 閑話⑪


 元ポツァルト領は、現在近隣の領の統治者であるテモノノクとツィアトルによる共同管理の下に置かれている。


 そんな異常な状況のこの領には、北方開拓の中核として機能していたチティトリという大きな町があった。


 クァナック王国でもまだ手付かずであった北の森を開き、各村で加工された資材や商品をまとめ、都市に輸送する、いわばこの領の心臓部となる町だ。


 開拓村や、カテペックのような町の例に違わず、チティトリも豊かな資源によって繁栄した賑やかな町だったのだが、ここ数日、その賑やかさには陰りが出ていた。


 元々この町に住んでいた人々の顔は暗く、通りを往来する人々もどこか緊張を含んだ表情をしている。


 しかし、それとは対照的に広場や通りを外れた裏道には多くの人が見られ、通り沿いの店などは普段では考えられないくらい繁盛していた。


「換金屋だよ! 他国のお金は換金しないと使えないよ!」


「うちが1番お得だよー! 早い者勝ちだよ!」


 と、人がごった返すチティトリの広場では、正規の者から怪しい者まで、様々な謳い文句が飛び交い換金屋が声を張り上げている。


 このような光景は、以前の活気に溢れていたチティトリでも見られなかった、異様なものだった。


 ことの始まりは今から6日前。


 青というよりは、優しい水色をした澄み切った空に、ひとつの黒煙が立ちのぼった。


 それはチティトリから見て北の方角。ちょうど、カテペックという町がある方のことだった。


 しかしチティトリの住人たちは特にそれを気にした様子もなかった。なぜならこの国では木造の家屋が普及しており、それに伴い火事が起きることも特別珍しいことではなかったからだ。


 火事に巻き込まれた人に対しては気の毒にとは思うが、遠くで起きた出来事に対して自分たちができることもなく、それはまさに対岸の火事だった。


 しかし、次の日にはまた別の場所で黒煙が上がる。


 2回目であればまだ『そんなこともあるか』と楽観視もできたのだが、それが当日中にまたひとつ上がり、その次の日には3箇所で黒煙が上がったとなれば、さすがにただの火事ではないと誰もが気づいていた。


 その頃から、町の門に多くの人が押し寄せてきているという噂が流れ始める。何事かと自らの目で確認しにいった者も多く、それは確かな情報としてチティトリの町に広まっていく。


 ……運の悪いことに、チティトリの上層部は現在機能していなかった。


 ポツァルトの死から始まる一連の問題は、この領の行政に機能不全を引き起こしていた。


 門の前に増えていく人間に対して、一介の門番にどうこうできるような裁量はない。


 門番の慎ましい抵抗も虚しく、チティトリの門はあっという間に開いてしまった。


 壊れた蛇口のように毎日絶えることなくやってくる人間に対して、一度開いてしまった門は二度と閉じることはない。


 その避難してきた人間たちは町に入り込み、裏道や広場に溢れて占拠する。


 そして、もうそれを取り締まる者もいなかった。



 ◆◆◆



「……以上がチパンガから来た難民の証言です」


「ふむ。ご苦労」


 チティトリにある執務室から、報告を終えた兵士がひとり出ていく。


「……かなりマズい状況ね」


「あぁ……急ぎ国王にご報告せねば。よもや一刻の猶予もないぞ」


 ツィアトルとテモノノク、本来は高貴な身分であるはずの2人だが、その顔には疲れの表情が浮かんでいた。


「チポトリよ、今回の件についてどう思う」


「は、はい! やはり他国、セノーテからの侵略と考えるのが妥当かと」


「それはどうかしら。セノーテが攻めてきたとして、なぜわざわざ自国の金貨を配るような真似を? その理由がわからない限り、セノーテを首謀者と結びつけることはできないわ」


「たしかにそうですが……セノーテの貴族には魔族との繋がりもあると言いますし、可能性はあるかと……」


「あぁ。少なくとも魔族の襲撃とセノーテ硬貨、この2つが関係しているのは確かだろう。しかし共和政のあの国で、このような強権を振るう者がいるのかという疑問は残る。あそこはあそこで問題の多い国だからな」


「では、魔族の襲撃にセノーテ側が便乗したという可能性はないでしょうか」


「難民の話では、魔族の襲撃に合わせて硬貨は配られたのよ。なぜか干し肉と一緒にね。あなたも見たでしょう? あの白いローブを着た怪しい人物を」


「あ、はい」


「つまり、もしあの硬貨を配っていた者がセノーテの手先だとしたら、そいつは元々魔族が襲撃する日時を把握していたということになるわ」


「では、やはりセノーテが魔族と組んだのでは」


「ふむ……かの国とは大森林で隔てられておる。たとえどれだけ準備をしていようと、容易には通り抜けられん森だ。セノーテが我が国を狙う利は薄いと思うがな」


「むしろ、セノーテに目を向けさせるための陽動ではないかしら」


「にしてはあまりに杜撰だな。なんにせよ、そのローブの男の真意が知れん」


「はぁ……。あの時に無理にでも捕まえておけばよかったわ」


 3人は、机に乱雑に置かれたたくさんの報告のまとめ書きを手に取りながら意見を交わす。


 しかし、起きたことの全容こそ見えてきたが、なぜ、そして誰がそれを行っているのかということに関してはまだまだ模索中であった。


 確実に関係しているのは、開拓村や町を次々と潰している小さい異形の魔族。


 そして必ずその場に現れる、食料と他国の金貨を配る白いローブを着た男。


 魔族は襲撃の実行犯であるが、白ローブの目的はよくわからない。


 実際には、住居を失った人間たちが森に住み付かないように、そして1箇所に人間が集うようにとスライム領の領主が画策した行いではあるのだが、彼の最終的な目的を知らない人間からすれば、それはまさに奇行としかいえないものだった。


「ともかくだ。今回起きた一連の連続魔族襲撃事件についての事実確認はできた。俺はまずこれを国王に届けようと思う」


「そうね。実態がわかってから、なんて悠長なことは言ってられないわ」


「では、自分がいきましょうか?」


「いや、チポトリにはこの地の監督を任せたい。俺らより土地勘があるだろうからな」


「じゃあ私も一度クァナックに戻るわ。この魔物についても調べなければいけないでしょ」


「うむ。では決まりだ。すぐに駕籠かごを用意させよう」


 そう言うと、テモノノクとツィアトルは資料をまとめ、慌ただしく執務室を後にした。


 国難ともなり得る今回の問題に対処するべく、3人はそれぞれの役割を全うする。


 現状はスライム領の方が1歩も2歩もリードしているこの争いだが、これから人族がどう巻き返すかは、この3人の肩にかかっていた。


 執務室にひとり残されたチポトリも、今回の事件を自分なりにまとめた資料を真剣な眼差しで見つめている。


 2人に比べれば地位もなく、ポツァルト亡き今はそれほど権力もないが、今回の事の大きさは理解している。


 テモノノクは言った。『俺らより土地勘があるだろう』と。


 たしかに2人は隣の領の者だ。全くの無知ということはないだろうが、末端の村や町のことまでは知らないだろう。


 であれば、自分にしかできない、見えてこないこともあるだろう。


 チポトリはそう考え、資料を食い入るように見ていく。


「……ん?」


 今回被害に遭った村や町の位置関係を頭の中に浮かべる。


 それは全て森に面しているという共通点はあるが、それ以外は襲撃の場所も順番もてんでバラバラなものだった。


 ゆえに、心のどこかで安心していた。


 森に面しているという条件から、この町は外れている。


 それに力のない末端の村や町なら魔族に襲われることもあるだろうが、このチティトリは人口が8000にも上る巨大な都市だ。魔族とてそうそう手を出せる規模の町ではないだろう。


 森、つまり魔族たちとの物理的な距離もあるし、そういった理由からこんなところにまで魔族は攻めてこないと、思考として知覚するよりも前の段階でそう思っていた。


「昨日襲撃されたのがチパンガ……最初がカテペック……」


 指折り数えていく。


 この開拓村をまとめるチティトリという町と繋がる村を、町を。


 しばらくそうしてから、チポトリはぽつりと呟いた。


「全部だ……」


 この周辺にある、森に面した開拓村、町は全て魔族に滅ぼされていた。


『それでは……魔族どもはこれからどうするのだろう』


 資料を机に置き、窓から外を見る。


 この町には高い塔があり、執務室もその塔の中にあった。


 ポツァルトが治めていた領の中でもこれほど高い建造物はなく、この塔は町の象徴的存在だった。


 そんな塔の窓の外には、連日続いていた黒煙のない、淡い水色の綺麗な空が広がっていた。




  ――その日のうちチティトリを発ち、急いでクァナックに向かったテモノノクとツィアトルの耳に”チティトリ陥落”の報が入ったのは、それから数日後のことだった。


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