表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/54

53.エピローグ 前編

 帝国を揺るがした誕生祭の夜から、慌ただしく日々が過ぎていった。


 私が『ラピスラズリの杯』を叩き割ったからか、辺境伯領をはじめ各地に出没していた魔物の姿は、跡形もなく消えたということだった。


 そして、『ラピスラズリの杯』のかけらたちも、いくら探しても、一つも見つけることはできなかった。


 平穏を取り戻した帝国で、ジョセフィーヌ皇后陛下は手始めに、功績のある家門と人物を取り立てた。


 わが家は侯爵家から公爵家へ、マリーズの生家クレマン家は伯爵家から侯爵家へと昇格したのだ。


 そして、アベル様は侯爵位と皇室騎士団の団長の座を賜り、ルディ様は副団長に、ドット公爵様は皇宮長官に任命された。


 お父様は帝国の政治を補佐し、ドット公爵様は皇后と皇太子を補佐することで、貴族たちに権力の分散を示されたのだ。


 私はというと――サレット次期公爵として、政務に励む毎日を送っている。


 「アベル様が次期公爵になるべきですわ。これでは、私の尻に敷かれていると噂になってしまいます」


 「あははっ、本当のことだろう? 僕は喜んで敷かれているのだから、構わないさ。それに――自ら掴んだ力で君の隣に立ちたいのさ」


 (そう言われてしまうと、何も言えないじゃない。でも、お父様も嬉しそうだったし、これはこれで良かったのかも……)



 ――ある日の昼下がり、今日はマリーズと『ブロン』の個室でティータイムを楽しんでいる。


 窓の外の日差しがキラキラと輝いて、その光が私の足元まで差し込んできた。


 柔らかな温もりを足先に感じながら、上へぐんっと手を伸ばし大きな伸びをした。


 「こんなにゆっくり過ごしたのは久しぶりよ……」


 「まぁ、ユージェニーったら、はしたないわ」


 「マリーズは礼儀に厳しいんだから……。私たちしかいないのよ。少しくらいはいいじゃない」


 「ふふっ、そういうところは変わらないわね。それはそうと、アベル様とはちゃんと仲直りしたの?」


 「……してない。だって、キャロラインと婚約していたこと……黙っていたのよ」


 「正式に決まる前だったのでしょう? それを責めるのは、あまりにもアベル様が気の毒だわ」


 私だって分かっている。


 ただ、あの()()()()()()なのが気に入らない。


 「この間のお茶会でも、キャロラインが……自分ならアベル様を家門の当主にしただろうって。そんな肩身の狭い思いはさせないって……言ったのよ! 思い出すだけで、腹が立つわ!」


 「ただのやっかみじゃない。あなたたちが幸せなのだから、気にする必要はないわ。それに、あなたといるアベル様はとても幸せそうよ。だから、ちゃんと仲直りしないと、それこそキャロラインの思う壺なんだから」


 マリーズに冷静に諭されると、私の頭の湯気は一気にしぼんでしまう。


 「こほんっ、マリーズがそこまで言うなら……いいわ、アベル様を許してあげるわ」


 私が口を尖らせながらそう言うと、マリーズは声を上げて笑った。

 

 「本当に世話が焼けるわねー」


 マリーズはひとしきり笑うと私の顔をしばらく見つめ、思い切ったように口を開いた。


 「……ルディ様から聞いたのだけれど……流刑に処されたロベル様と修道院送りのナタリーさん……フィリップおじ様が密かに追放に処されたって」


 「ルディ様ったら、お喋りなんだから。そうよ、お父様はロベル様との取引の約束を守ったわ。ナタリーまで、ロベル様に付いて行くとは思わなかったけれど」


 「わだかまりがあっても……兄妹なのね。そろそろ、二人が国境を越えた頃かしら」


 「ええ。もう……会うこともないでしょうね。ナタリーとは良い友人になれると思ったのに、少し残念だわ」



 ――お父様がロベル様とナタリーを追放という形で帝国の呪縛から救った日。


 実は、二人に最後の挨拶をする機会をお父様が取り計らってくれていた。


 「ユージェニー嬢……私が令嬢にした罪は消えませんが、あなたと純粋な恋がしたかったのは本心です」


 (ロベル様、ずいぶんやつれられたわ。だけれど……)


 「もう、私がロベル様の名を呼ぶことは、二度とないでしょう」


 ロベル様はわずかに目を見開き、差し出しかけた手を力なく下ろした。


 「ジニー! 私……ううっ……こんな風に罰を逃れてはいけない人間なのに……」


 ナタリーは顔を涙でぐしゃぐしゃにして、私に抱きついた。


 隣に立つアベル様の肩がピクリと反応したが、私はそのままナタリーを抱き締めた。


 「ナタリー、ごめんなさい……あなたとも……」


 「私の方こそ、ごめんなさい。もう会えないって……分かっているわ。でも、必ず正しい生き方をしてみせるから……兄さんの性根も叩き直すつもりよ」


 「ナタリー……元気でね」


 私は寂しいような、清々しいような複雑な気持ちの余韻が消え去るまで、二人が乗り込んだ馬車の後ろをしばらく眺めていた。


 

 「ユージェニー、聞いてるの? ボーっとしちゃって」


 マリーズが私の目の前で手をひらひらとさせている。


 「聞いてるわよ。寂しいって感傷に浸ってたの!」


 「ふうん……私以外の友人は必要ないって、以前は豪語していたのに。でも、新しい友人ならセレナ嬢もいるじゃない」


 「そうだったわ! これからも、新しい友人を作るつもりよ」


 「楽しそうで、いいわねー」


 どこか不満げなマリーズに、なんとなく私はお腹の辺りがむずがゆくなって、突然立ち上がるとマリーズの隣にドサッと腰を下ろした。


 「急にどうしたのよ?」


 「なんでもないの……でも、大好きって伝えたくなっただけ!」


 驚いた表情のマリーズに構わず、腕を絡めた。


 そして顔を見合わせると、二人とも可笑しくなってソファの上で転がるように笑い合った。

感想やリアクションをいただけましたら、とても励みになります。

感想へのお返事は控えさせて頂きますが、大切に読ませていただきます。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ