表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/54

54.エピローグ 後編

 トントン――。


『ブロン』の支配人がルディ様の訪問を告げた。


 「ルディ様が? こんな所に押しかけて来て、何の用かしら?」


 私が首を傾げると、マリーズが少し照れたように俯いた。


 部屋に通されたルディ様は、私のすすめるがままソファに腰掛けた。


 「夫人、こんにちは。えーっと、今日はですね……」


 今日のルディ様は、どこかそわそわとして落ち着かない。


 その理由を探ろうと、私はマリーズとルディ様を交互に眺めていたが、ハタと気づいた。


 「マリーズ、そろそろノエルが迎えに来る頃じゃない?」


 すると、ルディ様がわざとらしく小さな咳払いをした。


 「ノエル卿は来ませんよ、夫人。これから、マリーズ嬢は俺と夜市を回る予定なので……」


 「夜市ですって!? 護衛も付けずに?」


 「いや、護衛なら俺がいるじゃないですか。これでも剣術は得意なんですよ」


 「アカデミー時代、ノエルに負けたってアベル様から聞いているわよ。それより、よくケビンおじ様が二人っきりをお許しになったわね」


 「ええ……わ、私はノエルが一緒でも良かったのよ。だけど、ルディ様が二人の方が見て回りやすいと仰るから……」


 (これ以上、詮索するのは野暮よね)


 いつの間にか陽も傾き、窓の外は夕暮れの様相に変わっていた。


 「それなら、もうそろそろ行かれたほうが良いのではないかしら。私はアベル様の迎えを待っているから、お二人は先に行ってちょうだい」


 ――「夫人が気を利かせてくれたお陰で、思ったより早くマリーズ嬢を連れ出すことができたな……」


 ルディは、マリーズの整った横顔を気づけば目で追ってしまい、胸がいっぱいになるのを抑えるのに必死だった。

 

 「ルディ様、その……おすすめの露店はどこですの?」


 「ええっと、もうすぐですよ。人が多いので、手を繋ぎましょう。失礼」


 できるだけ平静を装ってマリーズの手を取ったが、あまりにも自分の手が熱く、この緊張をマリーズに気づかれないかと心配になった。


 (しっかりしろ、俺! 今日は、この想いをちゃんと伝えると覚悟したんだろ)


  なぜ、クレマン侯爵がマリーズに告白する機会を与えてくれたのか、ルディには分かっていた。


  (悔しいが……ノエル卿、あいつが閣下を取り成してくれたんだろう)


  あの忌まわしい皇后陛下誕生祭前日、突然ノエル卿がマリーズの護衛をルディに頼んできたのだ。


  いくら護衛の身であっても、平民の自分では皇室の宴でマリーズの近くにずっと控えることはできないから――それが理由だと言った。


 (最初は俺には理解できなかった……。だって、ずっと守ってきた大事なお嬢様だぜ? それに閣下とあいつとの関係は……いくら娘の護衛だからって、ただの平民をアカデミーなんかに行かせるかよ)


 ルディもれっきとした貴族令息、なんとなく想像はついたが、ノエル卿が閣下の思い通りにはならなかった、ただそれだけのことだろう。


 そして、ノエル卿はいつかはクレマン家を去るつもりだと、ルディはそう感じていた。


 (まぁ、だからといって、マリーズ嬢を誰かに譲るつもりもないし、振り向いてもらえるまで俺は諦めないさ)


 マリーズは、ルディがいつものふざけた態度を封印し、どこか緊張しているのが伝わってきて、自分までもドキドキしていた。


 (ルディ様、きっと難しく考えているのだわ。私はとっくにあなたのことが……き、気になって仕方ないのに)


 二人はまだ気づいていない。


 自分たちの影は、仲のいい恋人のように寄り添っていることを。



 ――「ユージェニー、ご、ご機嫌だね。えと……そんなに夜市が楽しいかい?」


 アベル様が、私の様子を横目で忙しく窺っているのが分かる。


 仲直りしたくて、私もアベル様を夜市に誘ったのだ。


 (そうよ、アベル様が悪いわけじゃないもの。今もこんなに気遣ってくれて……優しいのね。アベル様、ごめんなさい)


 私は心の中で謝りながら、それを口にする代わりにとびっきりの笑顔で応えた。


 「ええ、とっても! それに……もう少ししたら、私の大親友のおめでたい話が聞けそうな気がするから……」


 「マリーズ嬢の? ふむ、それは楽しみだ。僕の大親友の嬉し泣きする姿は見ものだろうなぁ」


 私たちは、一瞬、ルディ様の男泣きする姿を想像して思わず吹き出した。


 先ほどからアベル様は、私が夜市を楽しむ人々とぶつからないように、慎重に気を配ってくれている。


 「ふふ、過保護ですこと。少しくらい、ぶつかっても大丈夫ですわ」


 「それは、だめだ。今が一番大事な時だろう? 僕がそうしたいんだ」


 「今日はマリーズに話しそびれたのだけれど、次会った時には……気づかれてしまいますわね」


 「そうだね。きっと大喜びしてくれるさ」


  私がそっとお腹の辺りに手をやると、アベル様も優しく手を重ねた。


  そう、『ラピスラズリの杯』は消えて無くなってしまったけれど――新しい命という、かけがえのない宝が私たちの未来を明るく照らしてくれている。


  「違いますわよ、お父様。私の夫は、アベル・ブルボンで間違いありませんわ!」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

感想やリアクションをいただけましたら、とても励みになります。

感想へのお返事は控えさせて頂きますが、大切に読ませていただきます。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ