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sideフレデリック

終わりの目処がついてきたので、まったく別の新作を最近書き始めました。

良かったら読んでいただけると嬉しいです。

アカデミーの喧騒はあの日を境に遠い世界の出来事のようになった。

私は己の身を削るようにして、ほとんど眠らぬまま捜索を続けていた。


昼夜の区別すら失われた執務室で私の指先が拾い上げるのは、どれも絶望に塗り潰された報告ばかりだ。


国境付近の村々で報告される、季節外れの異常気象。

一晩で凍結したという不自然な森。

特定の地域で発生する、原因不明の広域魔力障害。


届く報せは、どれもが理を外れたものだった。

つい数日前まで豊かな緑を湛えていたはずの森が一夜にして白銀の墓標へと変わり果て。

温かな生活が営まれている村々が、説明のつかない冷気に呑み込まれて。

空気そのものが死に絶えたかのように停滞し、魔導具すらもその機能を拒絶して沈黙する。


世俗では天変地異と片付けられるそれらすべてを、私はただ一つの、残酷な可能性へ結び付けていた。


「……レティ」

掠れた声が、無人の室内に頼りなく響く。


執務机に広げられた、ボロボロの地図。

何度も折り畳まれ私の焦燥が乗り移ったかのように皺が寄ったその紙面には、異常事態が報告された地点が執拗なまでに赤い印で繋ぎ合わされている。

その歪な線は、逃げ惑う彼女が零した悲鳴の軌跡そのものだった。


その横には禁忌とされる古代魔術の術式が記された、読み潰された禁書の山。

かつては王国の光として正しき魔術のみを学んできた私が、今は呪われし先祖たちが遺した闇の知識を貪っている。

本来なら触れることさえ許されないその禁忌の中にしか、今の私には彼女へと続く細い糸を見出すことができなかった。




「……殿下。温かいお茶をお持ちしました」

扉を叩く音と共に、エレノアが遠慮がちに姿を現す。

彼女は、この混沌とした状況の中でレティシアの帰還を信じ続けている。

彼女は私が復讐鬼のような形相で禁書を読み漁る姿に怯えながらも、決して私の側を離れようとはしない。


「レティシア様を助けるためなら、私にできることは何でもします」

そう涙ながらに訴えた彼女の無垢な想いに、私は今無残にも縋り付いている。

エレノアに協力してもらい、彼女の持つ魔力特性をレティシアの魔力痕跡を特定するための媒介として使わせているのだ。

本来なら、こんな血生臭い執念に巻き込むべきではない。


私の今の瞳に宿る昏い熱を、彼女はきっと恐ろしいと感じているだろう。

それでもエレノアは自分の恐怖を押し殺し、私の無理な要求に必死に応えようとしてくれている。

私はエレノアの善意さえもレティシアを見つけ出すための部品として消費していた。




「どこにいるんだ……。返事をしてくれ、レティ」


独白への返事はない。

窓を叩く冷たい雨の音だけが、私の焦燥を刻一刻と煽るように響いている。

エレノアが置いていった茶が冷めていくのを眺めながら、私は自分の傲慢さに胃を焼かれるような感覚を覚える。


私が彼女に与えようとした愛という名の無自覚な熱が彼女を時計塔の檻へ追い込み、その魂を凍てつかせてしまった。


「待っていてくれ」

震える手が、地図上の冷え切った大地をなぞる。

私は、指から血が滲むほどに拳を握り込んだ。

掌に食い込む爪の痛みだけが、私をこの現実の苦痛に繋ぎ止めていた。


「必ず、君を迎えに行く。……この地位も、未来も、何を代償にしてでも私は君を連れ戻す」

たとえ、君に殺されることになったとしても。


「待っていてくれ、レティ。君がどれほど自分を怪物だと思い込もうと、君がどれほど私を拒もうと。……私は、君を独りにはさせない」


執務室の窓を叩く雨音が、 一瞬、凍りついたような硬い音に変わった。

私は死人のような眼差しで、再び地図の空白へと視線を落とした。

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