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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第91話:もう一人の転生者

 物理的な衝撃はないけれど、ぐわんぐわんとジェシカの視界が回る、回る。倒れそうになるから数歩たたらを踏む。


「ジェシカ……」


 ディランの腕の中で寄り添っていたフィオナは、その様子を眉尻を下げて見つめた。


 ジェシカはジェシカの転生者、考えてみれば悲しい話だ、憐憫の情も湧く。

 出合頭に自らを転生者だなんて語り出すわ、いきなり攻略対象に自分からお近づきになりに行くわ、奇襲仕掛けてグワーッ! されてるわ。さっきもいきなりボルトを連続で撃ち込まれるわ……。


 あんまり可哀そうじゃないかもしんない。


 でも。


 考えてもみれば転生前の記憶にあるゲーム知識なんて、死に戻り前にジェシカとして生きてきた十七年の記憶の裏打ちに過ぎない。


 自分が死んだ後個別ルートかハーレムルートに分岐するとか思い出したからなんだっていうのか。

 だって、ジェシカ・レイモンドは……どのエンディングにも存在しない。どんなに世界がハッピーになっても失われた象徴として扱われる。


 ……扱われる? エピローグの一文で。


 ――結局、捜索は成果を残すことはなかった。


 ほんとクソゲ。


 ただ一言、たったこれだけの一言。

 せめてもの慰めはいずれにせよ自分の仇ヴァネッサが地獄に落ちてゆく結末が必ず訪れる事ばかり。


 少しは溜飲が下がるだろうけれど不毛だ。




 ジェシカは、だから今度こそ生き残ろう、そう思っていた……少なくとも個別ルートに入るまでの学院生活は簡単な話だ。


 だってもう知っているんだから。


 けれど。


 違う、違うんだ、大間違いだった。


 フィオナを守ろうとするディランの剣幕を受け、ついにジェシカから零れた険が甲高く石を叩いた。

 零れて、溶けて、石畳の上にがくりと、腰が砕けたように座り込んでしまう。


「違うんだ……ね……」


「……うん」


 小さな声で肯定を返しながら、一瞬水色の瞳で幼馴染を見上げるフィオナ、ここでジェシカと話し続けることは、彼に自分の秘密を明かすことになる。


「ディラン……」

「先帰れってなら聞かねぇぞ」


 未だ警戒を緩めず、半身で右の拳を固めて構えたままの勇者には、名前一つで意図まで伝わってしまう。

 以心伝心もこんな時は不便なだけだ、オンオフできないものだろうか、無理に決まっていることを今更にフィオナは思う。


 攻略だったなんて……知られたくない、知られたらどう思われるのだろう。


 絶対嫌われる……。


 イヤだ。


 嫌われたくない、ディランにもしも「え、お前逆ハーレムとかバカじゃね?」とか言われたら当分立ち直れない自信がフィオナにはある。


(自分だって魔法球もまともに作れないチョーバカのくせに!!)


 誤魔化しの思いを心に満たして軽くぽすんとディランの胸板に頭をぶつけてやる。……でも。


 怖いとは思うけれど、放っておけなかった。


「ジェシカ……そうだよ、ここは前世じゃない」


 ハッとして黄色い瞳を剥いてフィオナに顔を向けるジェシカ、自分以外の転生者に初めて出会った、もう一人の転生者の顔だ。


 知られた以上は覚悟を決めよう。


 手札は十分にあるのだから……。


「フィオナ……あなたもやっぱり……どうして……黙って……」


「ジェシカ、あなたがジェシカだからよ」


 ヴァネッサ・アルフ・ノワールに排除されるお助けキャラ……。


「落ち着いて聞いて? わたしはヴァネッサ様を死の運命から救いたいの」


「国を亡ぼすつもり!?」


 随分と大仰なリアクションが、ジェシカから返ってきたのだった。

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