7 公爵、恋に落ちてしまいました
公爵視点のお話です。
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エメルディ公爵執務室。
「ハッハッハッ」
「そこまで笑わなくてもいいだろう」
「ハッ、ハハッ、可笑しいに決まっている。監視対象が自ら長官殿のところに押しかけて来るなんて。しかも監視が楽になった」
友人のサイアス・ルビエルが笑い続けている。
王国騎士団の前騎士団長、今は、王国の秘密裏の組織である貴族監査部の副長官。
私とは従兄弟同士。ルビエル侯爵家の次男。
サイアスの上に立つ長官は私だ。
「さすがの私もこんな事は初めてだが、少々厄介でな」
「お前が厄介なんて、言葉を使うのか」
貴族監査部は、国王陛下の直属で数名の側近に限られており、実際に動いて調査するのは、暗部の組織になる。
王太子殿下でさえご存知ない。
「で、監視対象はどうなんだ」
「うむ、元からの性格とも言えるが、かなり黒に近い」
「私も報告書を見たが、実家の男爵家は白に近い。出戻っては実家にも迷惑をかけている。それにこれまで不運に遭った夫たちが、全員、再縁で、近しい家族が少なかった」
「いわゆる、後妻業だな」
私は右の人差し指で机をトントンと叩く。
この指で、昨日、アリッサ嬢の顎に触れてしまった。
「なら何が厄介なんだ」
「娘がな」
「ああ、亡ベルモント伯爵の一人娘アリッサ嬢か」
「少々、追い詰めてしまった」
「女には、我関せずの鬼のオスカーが?」
「問題をわかっているのか、確かめたかった」
サイアスが身を乗り出してくる。
「誤魔化したのか」
「いや、平伏して、後妻の暴挙を許してしまった責任を取る、と言った」
「伯爵令嬢が平伏?そこまでするとは、真面目な令嬢だな。しかしプリシラのような女は御せない。アリッサ嬢の責任を問うのもいかがなものか」
そう、プリシラのような女は誰にも御せない。
なのになぜかアリッサ嬢を追い詰めてしまった。
「聡明な女性だった」
「お前、惚れたな」
「っ!まさか、そんなはずはない、人の表情を読むな」
「お前と何年友人をしていると思っている。気になる女を追い詰めて受け答えを見る癖。私が知る限りでは」
「ちょっと待て、そんなはず」
「ない?と言い切れるか。オスカー、奥方を亡くしてもう一年が過ぎた。公爵としての役目もある。そろそろ次を向いてはどうだ」
確かにあの真剣な眼差し。懇願はしてこなかった。
伯爵家の役目を果たそうとしている決意。
ああ、そうか。
サイアスの言う通りだ。
どうやら、一瞬で惚れてしまったらしい。
「ならば、ちょうどいいではないか、陛下が縁を提示されたのもあながち監査だけではないのだろう」
「しかし、サフィエル侯爵家が、待ったをかけて来ている」
「無理だ。そんなこと最初からわかっているはずだ。サフィエル侯爵家だけでは自領とベルモント領の経営は無理だ。嫡男のブルーノ殿も手腕はありそうだが、あの若さでは難しい」
「思い合っている二人を引き裂けと言うのか」
「オスカー、お前らしくないな。ベルモント領は野菜や果実の主な生産地。国の台所だぞ」
それもわかっている。
だからこそ、陛下は私にベルモント領を託したいと、直接、仰った。
冷静な私が何を迷っている。
あの覚悟の涙を見た時、ブルーノ殿を吹っ切って来たのはわかっていた。
だが、泣き落としではなかった。
平伏しても、凛としていた。
口元をキリッと引き結び、私を真っ直ぐに見ていた目の下には隈ができ、頬は落ちていたが、美しいと思った。
若い令嬢が一人で、伯爵が亡くなった後を一手に引き受け、それでも倒れず立っていた。
追い詰めたら、崩れるだろうとタカを括っていた。
しかし、涙が溢れていた事にも気付かないほどの緊張と決意。
妻を愛していた。政略結婚だったが、互いに尊重していた。
馬車の事故で亡くなった時、胸に穴が空いた。
その空白を埋める女性などいないと思っていた。
二度と妻を迎えるつもりもなかった。
後継など何とでもなる。
本音はそうだった。
事実確認だけのために、後妻と後継の話を出した。
だがアリッサ嬢は表情を変えなかった。
領地を守るだけの婚姻など、面倒なだけだと思っていた。
しかし、彼女なら、アリッサなら。
だが。
引き裂けるのか。
いや、引き裂いても、側に置いて、愛でたい。
愛でたい?私が?
昨日、継母が真っ赤なドレスで現れたのを見た瞬間の彼女。
あのドレスはアリッサ嬢のものだったはず。
もううんざりだという表情で、継母に喪の服装を注意した。
その顔が愛らしかった。
扇で打たれても、顔色一つ変えず、淡々と見つめる。
好ましい。
継母から飛びかかられるのも慣れていたな。
暗部でも活躍できるのではないか、そうも思った。
自らに来た公爵家との縁談を継母に「差し上げます」だと。
プリシラから聞いた時は、正直、一瞬だけムッとした。
私に群がる女は多い。
公爵家を侮辱するような事を考えた女に会ってみたかった。
事と次第によっては、タダで済ませる気はなかった。
会ってみたら、清楚で凛とした何も飾らない女性だった。
答えはもう出ている。
彼女が、欲しい。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマ、リアクションも、ありがとうございます。
不定期更新ですが、完結します。がんばります。




