6 継母プリシラ、公爵家で暴れました
私の心を見透かすように、公爵様の瞳に射抜かれる。
公爵様の手袋をした指先で顎を持ち上げられているだけなのに、顔が動かせない。
「こ、こうしゃ、くさま」
声が掠れる。
言わないと。
説明しなくてはいけない。
「公爵様を厭うほど、お会いしたこともお話ししたこともありません。嫌いになるような噂話も聞いたことはございません。ただ」
「ただ?」
「ただ私では、継母に言うことを聞いてもらえないのです。努力はしてきましたが、譲る以外の方法がなかったのです」
「部屋を取られ、ご母堂の形見はドレスも宝石も取られたらしいな。そんな驚いた顔をしなくていい。少し調べれば、すぐにわかることだ。それで、私も差し出したのか」
「……はい」
「で、どうやって解決するつもりだった」
「そ、それが。どう考えても、解決方法がみつからなくて」
「で、どうする?」
隙間なく追い詰められていく感じがする。
「継母の非礼は継母の問題ですが、同時に継母がこのような行動を起こしてしまう原因を作ったのは私です。責任は取らねばなりません」
「問題点は理解しているようだな。それでどのように責任を取るつもりだ」
「どんな罰でもお受けします。ただ」
公爵様が、ふっ、と笑った。笑った?
「ただ、が多い方だな」
「申し訳ございません。どうか、ベルモント領の領民と当家の使用人達をお救いいただきたいのです」
「責任を取る話をしているのに、貴方は嘆願もしている」
「……承知しております」
「では、責任と、嘆願の礼も、一緒にしてくれるのだな」
公爵様の指先に少し力が入る。
「……」
私は公爵様を見つめ返すと頷いた。
顎は動かなかったから、目をぱちりとした。
「ふむ、一つ聞きたい。サフィエル侯爵家の嫡男ブルーノ殿はどうするつもりだった」
「……婚約はしておりません。王家の采配に従うつもりでした」
「諦められるのか」
もう諦めてるわ。
「はい。伯爵家には守るべき領民と領地がございます」
「潔いお人だ」
公爵様の手袋の先が顎を離れて、私の目尻をすっと撫でた。
え?何?今の?
「これを使いなさい」
公爵様が床についた私の手をとり、手巾を手の上においてくださった。
手巾を見るのに俯くと、涙がポトポトと落ちる。
え?私、泣いていたの?しまった。
「お見苦しいところを、申し訳ございません」
「いや、客室を用意したので、少し休まれたほうが良いだろう。伯爵家には先ほどのベルンを行かせてある、心配するな」
しばらく返して貰えないのね。
なるようにしかならいわ。
家令の指示で侍女が呼ばれる。
部屋を出ようと開いた扉のところにいたら、甲高い声が聞こえてきた。
「アリッサ!こんなところまで追いかけてきて何様のつもりなの」
振り向かなくてもわかったけど、声の方に振り向くと、間違いなかった。
廊下の真ん中で仁王立ちしているのは、プリシラ!
しかも、真っ赤な夜会用のドレス姿。
二年前に新年の夜会のために作った私のドレスを着ていた。
何なの?その格好は!
「お継母様、あれほど喪に服しているから黒のド」
「うるさいわね」
パシッ!
プリシラの扇で頬を叩かれた。
「オスカー様を取り返しに来たのね。このアバズレが、恥を知りなさい!」
もうわけがわからない。
プリシラがまた掴みかかってきたのを見て、さすがに公爵家の使用人が動いた。
護衛騎士が素早くプリシラを制したけれど、相変わらず、護衛騎士にも噛み付いている。
そして私の後ろに気配がしたので振り返ると、公爵様が立っている。
一部始終を見ていらしたみたい。
どうしたの?
口元をおさえて、少し斜め横を見てらっしゃるけど、肩も震えている?
咳払いをした公爵様が反対側の空いている手を軽く振ると、家令が指示を出し始める。
「オスカーさまあ、その女狐に騙されては駄目よ。後妻の権利はワタクシがもっているのですう」
護衛騎士にお継母様が連れていかれる。
「ねえ、あなた逞しいのね。でもワタクシに横恋慕しないでね。オスカー様の妻になるのですからあ」
プリシラ、もう黙って、頼むから!
口を開くんじゃない!
プリシラの姿が見えなくなって、みんな、いなくなった。
サロンには、公爵様と私だけ。
え、家令のおじ様もいない。
「アリッサ嬢、少し見せなさい」
公爵様が、先ほど打たれた頬に手を伸ばす。
「大丈夫です。いつものことですから」
「大丈夫ではないだろう、失礼する」
公爵様が何か呟くと頬が少し温かくなって痛みが消えた。
治癒魔法だわ。
「ありがとうございます。痛みがなくなりました」
しばし、見つめあってしまった。
「……あの、継母が申し訳ございません」
「アリッサ嬢、私をあのプリシラ殿に譲ろうとした罪は大きいとは思わないか」
「はい。非礼を通り過ぎたと思います。何としても償いますから」
「気負わずともよい。とにかく少し休むといい」
「ありがとうございます。では失礼いたします」
そしてサロンを出ようとした私に公爵様がおっしゃった。
「アリッサ嬢、償いが楽しみになってきた。礼を言う」
ちょっと待って!
不定期更新ですが、完結します。
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