3 公爵家からの縁談を欲しがるお継母様
お父様の葬儀を終えると、色々なことが、一気に私にのしかかる。
継母は後妻で、ベルモント伯爵家の直系ではないから、手続きにも関われない。
そして私には男兄弟がいないので、独身の私では伯爵家を継ぐこともできない。
急いで婿入りをしてくれる人を探すか、嫁いだ相手に爵位を預けるかしかない。
その前に、とにかく大量の書類を揃えなくてはならなかった。
継母?もちろん、何の相続もないわ。
お父様が贈ったものだけ。
それも本来は、亡きお母様の物は私が相続するのが筋。
でもすでに差し上げている。
本当なら男爵家にお戻りいただくのが筋なのだけど、継母は知らんぷりを決め込んで、居座っているわ。
お父様の執務室で、王家に提出する書類を書いていたら、また継母が乱入してくる。
「アリッサ、ワタクシにドレスを返しなさい」
「お継母様のドレスは、たくさん揃えましたわ」
「あんなの、喪服ばっかりじゃない!黒!黒!黒!」
何を言ってるのでしょう。
ご自分の夫が亡くなったというのに、真っ赤なドレスで舞踏会に行こうとして、さすがに屋敷の使用人全員に止められていたわね。
御者でさえ、控え室に閉じこもっていたというのに。
「お継母様、伯爵家の未亡人になったらそれが当たり前ですわ。どこの誰に聞いていただいても、それは変わりません。貴族が守るべき規範です」
「いちいちガヴァネスみたいにうるさいわね、もう、いいわ!」
バタン!と扉を力任せに閉め、執務室を出ていく継母。
はあ、何とかして、あの人を。
そして、目の下に隈ができたころ、王家直轄の貴族監理官に書類を提出し、王家からの指示を待つことになった。
⌘
書類が受理され、一か月後、王家から打診書状が届く。
封を開けて愕然とした。
「エメルディ公爵家………」
そう、王家の血筋を引くエメルディ公爵家。
公爵様が一年前に夫人を亡くされていたのは知っていたけれど。
後妻の縁談だった。
王家からの打診とはいえ、王命に近い縁談は断れない。
ブルーノ様。
私は自分の部屋へ駆け込んで、泣いた。
たぶんサフィエル侯爵家も名乗りを上げてくれたはず。
でも、王家の血筋の公爵家と侯爵家では、家格差が大きすぎた。
伯爵家が異を唱えるなど許されない。
お父様が恨めしい。
サフィエル家からは、一年以上前に婚姻の打診があったのに。
事実上、婚約に近かった。
なのにお父様は、先にあのプリシラを家に入れた。
私の婚姻のために、義理でも母が必要だろうと。
お母様の代わりならパステーラ侯爵家のお祖母様がいらしたわ。
そしてお父様は、お母様の思い出を消して、勝手に亡くなった。
逝くなら、あのプリシラも一緒に連れて逝ってくれれば良かったのよ。
ああ、こんなことを考える自分が大嫌い!
ブルーノ様。
ブルーノ様。
一晩中泣き続け、そして覚悟した。
領地と領民を守るのは貴族の務め。
この伯爵家に仕えてくれている者たちを養う義務がある。
みんなを路頭に迷わせるわけにはいかない。
それに、エメルディ公爵様が立派なお方なのは存じ上げていた。
領地経営の手腕や福祉対策、領地の整備、女性の私でも知っている。
ベルモント伯爵領を託すにはもったいないくらいの方。
打診のお返事を書かねばならないわね。
まずは、泣き腫らした顔をなんとかしなくては。
ハンナを呼んだ。
すごい剣幕で部屋に怒鳴り込んで来たのは継母だった。
「アリッサ!最低ね!自分だけ幸せになろうとして!ワタクシに黙って、公爵様と婚姻するなんて許せないわ」
は?
なんで知ってるの?
継母の手には王家からの便箋が握られていた。
執務室に置いてあったはず。
「お継母様、執務室に勝手に入って書状を勝手にご覧になったのですか」
「ワタクシだって、この家の者よ」
「お継母様、執務室は特別な場所です。勝手に出入り」
「うるさい、うるさい、うるさいのよ!なんでアリッサが公爵様の後妻になるのよ!ずるいわ」
継母は爪を噛みながら地団駄を踏んでいる。
ハンナが部屋に入りかけて、私と目があった。
私が頷くとすぐに出て行った。
「……ずるい?」
「そうよ、あなたみたいな小娘よりワタクシの方が釣り合うわ」
何を言っているの?
「これは、家同士の」
「ワタクシの方が公爵夫人に相応しいのよ!譲りなさいよ」
継母が私に掴みかかってくる。
「ずるい、ずるい、ワタクシのものよ」
引っ掻かれ、髪を引っ張られ、爪を立てられた。
セバスチャンとハンナが入ってきて、引き剥がそうとするけれど無理。
しかも継母は、セバスチャンに噛みついている。
「公爵様を取らないで!ワタクシが後妻になるのぉ」
泣き叫ぶ継母。
「お継母様、いい加減になさって。子供じゃあるまいし」
「人を馬鹿にしてぇ!横取りしたくせに!ワタクシの公爵様を返しなさいよう」
何を言っても聞かない人だった。
セバスチャンとハンナも、疲れ果てている。
そう、この「プリシラ」には、屋敷中が振り回されていた。
私は、怒り心頭に発していた。
「そんなにお望みなら、この縁談、お継母様にお譲りしますわ」
「……まあ、ありがとう、嬉しいわ」
継母はそう言うと、さっとドレスと髪の乱れを直し、部屋を出て行った。
でもどうやって。
ベルモント伯爵家の爵位を持って嫁げるのは私だけ。
どうやっても継母は血の繋がりがない。
どうすれば、花嫁を入れ替えられるの?




