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「よくぞ、ここまでたどり着いた。勇者よ」
「魔王よ。貴様の悪行もここまでだ」
魔王城の玉座では、勇者と魔王の決戦が始まろうとしていた。
しかし、剣を抜いた勇者の両脇を、二人の伯爵令嬢が抑え込む。
「騎士団長。休憩時間は終わりました。書類仕事に戻ってください」
勇者を名乗っていた騎士団長は、二人の伯爵令嬢に抗議する。
「君達は、魔王討伐と書類仕事、どちらが大事だと思っているんだ」
その言葉にぶちきれる二人の伯爵令嬢。
「それでは、逆にお尋ねしますが、魔王討伐と書類仕事、どちらが大事なのですか」
まだ子供にしか見えない伯爵令嬢の激怒に、うろたえまくる騎士団長。
「し、し、書類仕事です」
「じゃあ、戻りますよ」
二人の伯爵令嬢に連行されていく勇者。
残された魔王は、玉座で呆然としていた。
一日前。
魔法国の侵攻を、公式になかったこととして外交を続けることになった王国。
つじつま合わせのための書類仕事は増え、膨大な書類仕事が発生することになった。
泊りがけ仕事が十日目に突入した時に、知らせが入る。
「魔物による王国への侵攻が発生」
目にクマを作る伯爵令嬢達は息を飲む。
みな、おそるおそるモリシア伯爵令嬢の方を見る。
やはり目にクマを作るモリシア伯爵令嬢が微笑む。普段のやさしい微笑みとはまったく違う微笑み。
部屋の空気が一気に冷える感覚になるその他の伯爵令嬢。
「そう言えば、私達の班の慰安旅行はまだでしたわよね。今年の慰安旅行は魔王城にします」
それを聞いた伯爵令嬢達は歓喜の雄たけびを上げる。
きゃっはー。
魔王城。
玉座の魔王に緊急の報告がされる。
「魔王様。人間どもが魔王城になだれ込んできました。正門を突破後、東回廊を進撃中」
「人間どもめ、武器庫が目当てか」
「戦況報告。人間どもが、武器庫を素通りしました」
「何?」
「人間ども、大広間を占拠しました。大テーブルの上に書類を広げてます。やつら、書類仕事を始めました」
魔王城、大広間。
「それでは、みなさん。スケジュール通りに、交代で休憩をとってください。休憩時間中は魔王討伐に自由に参加していいです」
「はい」
「旅の恥はかき捨てではいけません。伯爵令嬢として品位ある行動を心がけてくださいね」
「はい」
「それでは、わたくしから休憩をとらせていただきますね」
休憩をとってフライパンを持って出ていった伯爵令嬢の奇声が大広間まで届く。
「あの奇声は品位ありますかね」
持ってきた書類仕事を片付けるルサ伯爵令嬢の独り言の呟きに、やはり書類仕事をするモリシア伯爵令嬢が答える。
「ぎりぎりセーフですよ」
どこががぎりぎりで何がセーフなのかまったくわからなかったが、聡明なルサ伯爵令嬢は口には出さなかった。
「魔王様。ドレスを着てフライパンを持った女が奇声をあげて、わが軍を蹂躙中です」
「ドレス?」
「ええ。フリフリで舞踏会で踊るときに着るようなやつです」
「フライパン?」
「はい。調理に使う道具です」
「奇声?」
「けけけけけ、とか。きゃはははは、とかです」
「その女ひとりにわが軍は押されているのか?」
「はい。フライパンで全ての攻撃を跳ね返し、こちらの武器を叩き潰して、愚痴を言ってます」
「愚痴?」
「自分がどれだけブラックな環境で働いているかの愚痴です。共感して魔王軍の待遇に不満を表明する奴も出てきてます」
「わが魔王軍一の剣豪ロックレットビルゲーターを差し向けろ」
「とっくに倒されてます。剣も心も折られてます」
「・・・」
「休憩時間が終わったと呟いて撤退していきます。かわりに、教師ぽい女が出てきました。こいつもドレスを着てます」
「ドレスを着ていて教師ぽい?」
「攻撃を魔法の盾で防いでから、その攻撃のどこが悪かったかのダメだししてます」
「わが魔王軍一の魔法使いジュットリナーガットを向かわせろ」
「今、正座で説教されているのがジュットリナーガットです」
「・・・」
魔王はようやく気がつく。
「もしかして、我々は弱いのか?」
「いいですか。あなたがたは攻めてこなかった。我々も何もしなかった。戦争はなかった。だから、私達の書類仕事は増えない。それでいいですね」
目にクマを作るドレスを着た女の言葉に、魔王は頷くしかなかった。




