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 王国の王城内では、報告と指示の声が飛び交っていた。

 「伯爵令嬢コード確認。リリー様本人です」

 「魔法回線経由通信。通信元、飛行船。飛行船登録国、魔法国。登録者グラントール・ジュニア」

 「魔法国の飛行船、確認できました。現在、墜落中」

 「リリー様が転移魔法で脱出するはずです。終点マーカーの強化をしてください」

 「リリー様の転移、確認」

 「医療班、王城内の終点マーカーで待機」

 「こちら医療班。リリー様、現れません」

 「リリー様の転移先、判明。転移先、ダイファン領です」




 ダイファン領を占拠しているのは、大陸魔法爆弾で自分達も処分されることを知らないならず者達だった。酒盛りをしながら、現実を見れていない大きな口を叩きあう。

 「王国の兵隊が来たら、この刀の錆にしてやるわ」

 「国に雇われている貧弱騎士に、本当の闘いってやつを教えてやろうぞ」

 十人ほどで騒いでいるところに、ならず者仲間が血相抱えて飛び込んでくる。

 「ボス。大変です。人質を見張っていたやつらが、全員やられました」

 「何いってんだ、おめえ。まだ、王国の兵隊がくる時間じゃねえだろ」

 「王国の兵隊じゃあねえです。女です。ドレスを着た女が一人だけです」

 「酔っぱらってんじゃねえ。見張りは二十人いただろが」

 ゆらりとドレス姿のリリーが現れる。

 「お嬢ちゃん。きれいなお洋服が汚れるぜ」

 油断している隙に、リリーはボスの腹に拳を叩きこみ、戦闘不能にさせる。

 「なんなんだ、おまえは?」

 リリーが脅威であることに気がついたならず者たちが、手持ちの武器で身構える。

 リリーは名乗る。

 「私は王国の伯爵令嬢だ!」

 その名乗りで、ならず者達は後退る。

 「お、王国の伯爵令嬢」

 「あ、あの狂犬集団」

 十分後、リリーはその場を制圧する。




 「シェルターへの避難完了しました。領民全員います」

 「もう一度、領民が全員いるのを確認してから、シェルターを内側から閉めて」

 「はい」

 人質解放後、リリーは領民の避難指示を出す。

 ダイファンがいると話がややっこしくなるので、初手で気絶させていた。

 「リリー様」

 「ダイファン様の叔父様。どうしました?」

 「爆弾を止める手立てはないのですか?」

 「このシェルターにいれば、命は助かるわよ」

 「ですが、それ以外はめちゃくちゃになります。建物も農作物も。私の育った故郷がなくなってしまう」

 リリーはダイファンの叔父に、身に着けていた髪留めを渡す。

 「それは魔力封じのアイテムよ。大陸魔法爆弾につければ、起動を止められる。でも、大陸魔法爆弾を見つけてたどり着く前に、爆発して死ぬ可能性の方が高いわよ。私は死にたくないから、やるならあなた一人でやりなさい」

 ダイファンの叔父は、シェルターの出口へむかう。

 「ダイファンの叔父様。行く気なのですか?」

 「ええ」

 「レイファン!」

 リリーは初めてダイファンの叔父の名前を呼んだ。

 「気に入った。手伝ってやる。いまからおまえは私の部下だ」

 ダイファンの叔父レイファンは、リリーに最敬礼をする。

 「この命尽きるまで、仕えさせていただきます」




 「ダイファン領より物理回線経由通信」

 王国のごったがえす城の中で、リリーの声が入る。

 「モリシアお姉さまいますか?」

 別室で待機していたモリシア伯爵令嬢は、通信機の前に移動を終えていた。

 「いるわよ」

 「そちらで大陸魔法爆弾の位置がわかりますか?わかるなら座標計算を」

 「座標計算は済んでいるわ。五十メートル上を忘れずに」

 「了解」




 通信を終えたリリーは、レイファンに身に着けている数々の魔力封じのアイテムを渡していく。

 「転移の前に、言っておくけど、私は役に立たなくなる可能性があるから先に魔力封じのアイテムを渡しておくわ。転移魔法は、本来は終点マーカーと言われる転移の目印を目指して、そこに転移する。今回は終点マーカーなしでやる。その場合、どうしたって五十メートルずれる。よこにずれれば大したことないが、上下にずれることもある。下にずれたら生き埋めになるから、わざと地面五十メートル上を転移先として目指す。だから、下手すれば百メートル上から落下することになる。安心しろ、転移と同時におまえには衝撃吸収の魔法をかける。落下は一瞬だから、衝撃吸収の魔法はおまえひとりだけしかかけられない。私はそのまま落下の衝撃を受ける」

 話を理解したレイファンが何か言いかける前に、リリーは魔法を発動する。

 「転移」




 一瞬で景色が変わり、空から落下し地面に叩きつけられるレイファン。

 衝撃はなく、起き上がるレイファン。

 地面に転がるリリーが呻きながら口から血を吹き出す。

 重症なのがあきらかなリリーは、無傷のレイファンを見て笑う。

 「成功だ」

 「リリー様!」

 「行け!」

 「はい!」

 リリーの命令で、レイファンは走る。

 地面に横たわるリリーの視界に、レイファンを追いかける魔法国のならず者の姿が入る。

 リリーはそいつを排除しようとするが、もはや指一本動かせない。

 「やっぱり、私は詰めが甘いですわね。フォローをお願いしますね、モリシアお姉さま」




 「魔法国の転移魔法防止機能を停止させるですか?」

 モリシア伯爵令嬢は、魔法国大使と交渉をする。

 「はい。今から、王国の人間を、ダイファン領の終点マーカーへ派遣しても間に合いません。ですが、大陸魔法爆弾の設置場所は、魔法国との国境ぎりぎりです。魔法国に設置してある終点マーカーを使えば、リリーの手助けをできます。それには、魔法国の転移魔法防止機能を停止してもらう必要があります」

 「早速、手配します」

 モリシア伯爵令嬢は、魔法国大使を止める。

 「安請け合いなどしないでください。今はあなたの誠実さも努力も求めていません。できるかどうかです。転移魔法防止機能を停止させることは、国の存亡にかかわる行為です。一介の外交官にすぎないあなたにそれができますか?」

 「私は本国の第一王子と深いパイプがあります。第一王子は現状を理解できる能力があり、強権を発動する判断ができる人です」

 「では、お願いします」

 「はい」




 道端に無造作に設置された大陸魔法爆弾にたどり着くレイファン。

 魔力封じのアイテムを、大陸魔法爆弾につける。

 それまで、勢いよくカウントダウンされていた数字がゆっくりとなる。

 だが、

 「どうして?」

 カウントダウンは止まらない。ゆっくりだが、着実に数字は減っていく。

 レイファンは他に爆弾を止める方法を知らない。

 魔力封じのアイテムにひびが入っていることに気がつく。

 「まさか落下の衝撃で?ふざけるな!リリー様が命懸けで託してくれたんだぞ。こんな結果が許されていいわけないだろ!もうちょっとなんだ!」

 カウントダウンの数字が一桁になる。

 絶望するレイファン。

 大陸魔法爆弾に別の手が置かれる。その指には魔力封じの指輪がはめられている。

 カウントダウンが完全に止まる。

 「あなたは?」

 「伯爵令嬢です」

 額に魔力封じの札を貼りつけた少女はそれだけ言えば十分とばかりに、それ以上は語らない。魔法国の終点マーカー経由でここに派遣されたカミ伯爵令嬢だった。

 「おい。その手を離しやがれ」

 魔法国のならず者が、カミ伯爵令嬢の頭にむかって、剣を振り下ろす。

 カミ伯爵令嬢は手を離さない。

 自分に振り下ろされる剣から目をそらさない。

 憧れている人が常にそうしているように、胸を張る。

 剣がカミ伯爵令嬢の頭に直撃する手前で、魔法国のならず者が蹴り飛ばされる。

 蹴り飛ばした少女は、一旦きおつけをして宣言する。

 「ヨールデリ班、ラタです。これより、みなさんの護衛をさせていただきます」

 ふっとばされた魔法国のならず者は、起き上がろうとしてまったく身体を動かせないことに気がつく。片手を後ろで捻り上げられ、地面から身体を離せられない。

 「不出来な後輩が世話になったようだな」

 背中から誰だかわからない声がかけられる。

 魔法国のならず者は悟る。

 自分の後ろにいるのは絶対に敵わない相手で、何故か自分に対して激怒していることを。




 そして、




 「氷の魔女より報告。大陸魔法爆弾の完全無力化が完了しました」

 知らせを聞き、王国の人間たちは安堵で脱力する。

 「終わった」

 「終わりましたね」

 笑顔で笑い合う。

 そんな中で、モリシア伯爵令嬢とその部下の伯爵令嬢達が、やさぐれた表情になる。

 「始まった」

 「始まりましたわね」

 どんな種類のトラブルでも、国家間の問題はすさまじい量の書類仕事が発生する。

 モリシア班の仕事は今から始まるのだ。


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