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王国の城内は、国政を動かす人達でごった返していた。
混乱はあるが統率が取られていて、収集された情報が報告され、指示が出される。
「ダイファン領からの侵攻ルート、完全封鎖完了しました」
「魔法国、ダイファン領を武力占拠後、動きありません」
確定した情報が皆に共有されて、真偽不明な情報は真偽不明として共有されていく。
現在判明している事実は、魔法国の兵によってダイファン領が武力占拠されたこと。
ダイファン領からの侵攻ルートは確実に潰せるはずなので、初手でダイファン領を制圧するのはありえないはずだったが、現実に起きている事実だった。
魔法国との交戦状態になったことにより、好機と判断して帝国も攻め込んでくる可能性もある。その場合、大陸全土を巻き込んだ泥沼の大戦に発展する可能性が大きい。
現在、国王は病気静養中のため、最終的な判断を下す国王代理に、情報が集められる。
「魔法国がわが王国に侵攻した理由は現在のところ二つ考えられます。一つは、魔法国で何らかの魔法技術革新が起こったのではないかと。圧倒的戦力差でわが王国に勝利できる魔法技術が手に入った。そう考えると、ダイファン領だけを占拠し現在沈黙している理由も説明できます。わが王国の切り札である最終兵器のリリー様を最優先で排除にかかったと」
「なるほど。もう一つの可能性は?」
「魔法国の一部の馬鹿が暴走しただけかと。その場合、わが王国は非常に有利な立場になります。わが王国の人間に犠牲が出れば、とてつもない強大な交渉カードを手に入れることになります」
国王代理は進言してくる部下の表情を見る。本人は冷徹なことを平気で言えますと取り繕っているつもりだろうが、犠牲者がでることに苦悩の表情を隠せてない。
お互い非常時向きの人材じゃないなと思いながらも、そのことは口にはけしてださない国王代理。
「犠牲者を出すことは全力で阻止しろ。だが、犠牲者が出たときは、徹底的に外交に利用だ」
魔法国の外交大使が到着する。
「今回の件は何かの誤解です。われら魔法国が、この王国に戦争を仕掛けるなどありえません。なにかの間違いです」
取り乱しながら弁明する魔法国の大使。
「この王国に駐在しているあなたに魔法本国が意図的に情報を知らせないで、戦争を開始したのではないのですか?」
「魔法国が戦争を仕掛けるはずがないのです。戦争になったら、わが魔法国の国力では絶対にかなわないことは充分理解してます」
「帝国と連携しているのではないですか?」
「帝国との同盟は交渉がうまくいってません」
王国を挟み撃ちにする同盟成立は試みたとの告白だが、そのことを指摘して時間を浪費させる人間はここにはいない。
「大勢を見極めていない愚か者が暴走した可能性はありませんか?」
「そこまでの馬鹿はいません」
王国の魔法国担当外交官が挙手して名前を上げる。
「失礼ですがそちらの国にはグラントール・ジュニアがいます」
「あ、あの親の七光り大馬鹿野郎はとっくに政権から追い出して、地方に左遷しています」
その場にいるただ一人の伯爵令嬢であるスワンリ伯爵令嬢が挙手する。
「その方の左遷先はどこですか?侵攻されたダイファン領と隣接している、そちらの魔法国領なのでは」
その指摘に、魔法国大使は口元を押さえる。吐き気を押しとどめ、何度も首を縦に振る。
帝国首相執務室。
首相と軍のトップの二人がいた。
「魔法国との戦争状態になった王国に、帝国が戦争を仕掛けて勝てるか?」
「絶対に負けますね。戦争しろと命令されたら、私は逃げますよ。敗戦が決まっている軍のトップなんて、留まる意味がないでしょう」
帝国軍のトップはどちらかと言えば好戦派であるが、王国と戦えば負けると断言する。
「魔法国と連携しても負けるのか」
「負けます。小国を入れて、三国で包囲しても絶対に負けます。我が帝国も魔法国も、大国とは名ばかりの火の車です。無駄な魔法開発に莫大な金を流失させたせいです。まったく、これだけ魔法が流通していて、魔法開発に見切りをつけた王国の昔の国王は、どれだけ慧眼だったんですかね」
「そんなにも、国力が違うか」
「見たでしょう。さっきの王国からの外交使者。補助についていた女性のドレスに宝石。こっちの軍事予算の何年分ですかね。もちろん、こっちに脅しをかけるための豪華な装飾でしょうが、逆の立場だったらそれができますか」
「無理だろうな。それで、わが帝国はどうしたらいい?」
「軍が参戦すべきと主張したところを、あなたが抑え込んだとして、王国に貸しを作った形にすることが一番でしょう」
「よし。それでいくぞ」
王国領、帝国との国境付近。
武装した王国の軍隊が、帝国軍が侵攻した場合に備え配備される。
鎧に身を固めた中身は、普段ドレスを身にまとう伯爵令嬢達。
「帝国に配慮して、正規軍は配備されない。だが、帝国軍が参戦した場合は、われらが民衆の盾になり時間を稼ぐ」
「はい」
整列した武装伯爵令嬢が、隊長の伯爵令嬢の言葉を聞く。
「何かがあれば、全て、我らが勝手な暴走をしたことになる。我らに名誉はない。我らは汚名を被るのが仕事だ」
「はい」
「我ら伯爵令嬢は王国の使い捨ての道具」
隊長の言葉を復唱する伯爵令嬢達。
「我ら伯爵令嬢は王国の使い捨ての道具」
魔法国領、上空。
魔法を動力とした飛行船が、王国領から遠ざかっていく。
リリーはその飛行船の中の牢獄に閉じ込められていた。鍵は魔法でロックされている。
魔法国産なので、全てが魔法を原動力としている。
リリーは自分の待遇を分析する。
魔法国には自分の顔は知られているし、最終兵器としていざとなれば、魔法国を半壊させることができると認識されているはず。それなのに、魔力対策もせずに雑に閉じ込められている。
「お目覚めかな、辺境領地夫人」
「わたくしをどうするつもりですか?」
牢獄の外から、男が答える。
リリーは男を観察する。
誰かに指示され実行している緊張感もなく、靴紐はほどけ袖口は汚れている。
こいつが黒幕で、馬鹿だ。
リリーは見切る。
「君の役目はもう終わった。辺境地の奴らをおとなしくさせるための人質だったが、もう必要ない」
「あの辺境領のルートから、王国の中央へと侵攻は不可能ですよ」
男は大笑いする。
「中央への侵攻などしないよ。僕の天才的な頭脳が、そんなことをしなくても、王国を制圧できることに気がついたのだ。あの辺境地は、王国中央からの距離が近い。あの辺境地で大陸魔法爆弾を爆発させれば、王国の中央は壊滅だ」
リリーは男の言っていることが、一瞬理解できなかった。
「あそこで爆発させたら、魔法国の人達も死ぬんですよ」
「必要な犠牲だ。王国の中央さえ壊滅出来たら、王国は魔法国のものだ。これで僕を馬鹿にしたやつらを見返せる」
「大陸魔法爆弾が作られたのは二十年前です。その対策がとられてないわけないでしょう。反射魔法石を設置してあるから、たとえ大陸魔法爆弾を爆発させても、中央は無傷ですよ」
「ははははは。魔法嫌いの王国が、魔法石を設置するはずがないだろ」
「王国は魔法の研究に予算を出さなくなっただけです。流通している魔法道具は使いまくってます」
「白々しい嘘はつくな」
「お願いです。爆発は止めてください。中央以外は、反射魔法石を設置していないんです。人が死ぬんです。爆発させたら人が死ぬんです」
「なら、土下座でもしてくれるのかな?」
リリーは躊躇なく土下座をする。
頭を地面にこすりつけ、頼む。
「お願いします」
男は笑う。リリーの土下座姿を見て大笑いする。
「残念ながら、僕にも爆発は止められないよ。もう爆発のカウントダウンは開始されている」
土下座したままリリーは聞く。
「あなたでは爆発は止められないのですね?」
「そうだ」
リリーは立ち上がる。
男が期待していた憎悪や屈辱の表情はなかった。
リリーはもう男に意識を向けていなかった。
「おまえ、僕を無視するな。魔法国のやつらのように、無視をするな。おい。聞いているのか。扉に手をかけても無駄だ。その牢は魔法でロックされている」
リリーは背中に手をまわし、魔力封じの札を取り出し、牢の扉に手をかける。
牢が開いた。
男の脇をすり抜け、リリーは飛行船の操縦室へと走る。
途中で魔法国の兵が立ち塞がるが、魔法の攻撃を避けずにそのまま受けたまま、リリーは魔法兵の脇を突っ走る。全身を魔力封じのアイテムで固めたリリーには、魔法の攻撃は無効である。
最短ルートで操縦室にたどり着き、煩雑な計器類から目当ての通信機のスイッチを入れる。
「こちらリリー。伯爵令嬢コード、ゼロゼロナナサンロクゼロ。王国の敵の目的はダイファン領で大陸魔法爆弾を爆発させること。至急、周辺の避難をお願いします。これより、この飛行船を墜落させます」




