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夜の闇が深まろうとする時刻。
廃墟になっているはずの館に、忍び込んだ異国の姉妹は、軽いパニック状態になっていた。
「聞こえる!聞こえるわ!子供の泣き声がする!こんなところにいるわけがないのに!」
「落ち着いて。姉さん。空耳よ。あと、大声出さないで」
「聞き違いじゃないわ。ほら、あなたにもはっきりと幼い女の子の泣き声が聞こえているでしょう。幽霊よ。幽霊だわ」
「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊なんているわけないわ。こ、これは魔法か何かよ」
「そんなことができる魔法なんてないでしょう。私達は魔法の専門家なのよ」
舞踏会が開始される前の、まだ日が沈みかけの時刻。
今夜、舞踏会デビュー予定の、十一歳になる伯爵令嬢が泣きじゃくっていた。
「お姉さま達に、デビューのお披露目をしたかったです」
「しかたありませんわ。我々、伯爵令嬢は王国の雑用をする者なのですから。今夜の舞踏会デビューはキャンセルです」
「はい」
泣きながらも、しっかりと返答する幼い伯爵令嬢。
「これより、立ち入り禁止の館に侵入している泥棒の捕獲をおこないます」
「はい」
「こんな夜中に、泥棒の真似事なんて」
「全部、姉さんのせいでしょう。この王国の立ち入り禁止場所に魔法感知装置を仕掛けるなんて、発覚したら私達の国潰されますよ」
「そんな大袈裟な」
妹はキレる。
「私達のちっぽけな国は本来ならお金が無くて破綻しているところを、経済大国のここの王国に、支援してもらって、支援してもらって、支援してもらって、なりたっているんですよ。支援やめるだけで、うちの国は潰れるんです。姉さんの脳みそ、カビが生えているんですか」
「私は国一番の才女とよばれていて」
「その才女が、他国の魔法研究を盗むつもりだったんでしょう。ここまでの馬鹿、見たことないわよ」
「昔の魔法研究の大天才の成果をちょっと見てみたい知的好奇心よ。この王国は、もう魔法研究していないんだから、ちょっとぐらい、いいでしょう」
「いいわけないでしょう。国家機密ですよ。発覚したら私達は処刑ですよ。処刑。装置も回収したし、一刻も早くここから離れま・・・」
暗闇の中で、妹の言葉が途切れる。
長い階段の先に、ドレス姿の女性が立っていた。
顔はわからない。
「く、首から上が無い」
頭無しドレスの女性が、階段を凄い勢いで駆け下りてくる。
その先にいる姉妹は悲鳴を上げる。
「この黒い覆面を被るんですか?」
「相手は悪党ですからね。顔を隠した方がいいです」
「暗闇だと、まるで首から上が無いように見えますね」
出口に向かって逃げる姉妹。
「幽霊よ。首無し幽霊」
「そんなのいるわけないわ。人間よ。人間がドレス着て、頭隠しているだけよ」
「そんな格好の人間は、幽霊より怖いわ」
喚きながら逃げる姉妹の肩に手が置かれる。
姉妹の名前が呼ばれる。
「な、なんで、私達の名前が?」
姉は後ろを振り返る勇気はない。
妹が、おそるおそるの振り向くと、
そこには誰もいなかった。
「どうして、今日の舞踏会の披露する予定の消失手品を使ったんですか?」
「緊急脱出よ。まずいことになったわ。かなりまずい。あれ、小国の天才姉妹よ。なんでこんなところにいるのよ」
「そもそも、この建物なんなんです?」
「ほら、本当の魔法遺跡の場所を隠すために、ここが魔法遺跡ですよって偽情報を流したけれどバレバレだったようでどこの国のスパイもひっかからなくて、泥棒とか肝試し目的の侵入者しかこなくて。ああっ。肝試し。肝試しか。まずい。小国の重要人物に、王国の伯爵令嬢が危害を加えようとしたわけだから、非常にまずい国際問題になるわ。我々だけでは対処できません。すぐに上に報告します」
「どうする?どうする?私達の身元ばれてるわよ」
「あれが幽霊だったことに賭けるしかないでしょう」
「それも怖い」
「ともかく、ここにいた理由をでっちあげないと。ああっ。肝試し。肝試しをしていたことにしましょう」
「私達の嫌いなことのぶっちぎり一位が幽霊話を聞くことじゃない」
「処刑されたいんですか。いいですね。私達は幽霊大好き姉妹」
「小国と敵対関係になることだけは絶対に避けなければいけません。帝国と魔法国の二つの大国に挟まれているわが王国は、小国との友好関係維持は第一優先事項です。天才姉妹には、最大限の接待をしてご機嫌取りをします」
王国の舞踏会。
隣接する小国の関係者を招く接待の場。
ミッシェル伯爵令嬢が、小国の天才姉妹を接待する。
「お二人は心霊スポットに興味があるそうで」
「は、はい。そうです。私達、幽霊大好き姉妹です」
「それはよかった。王国の怪奇スポット巡りにお誘いしたいのですが」
姉妹は悲鳴を飲み込み、笑顔を張り付かせて言った。
「わーい。ぜひ、参加させてください」




