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リマ伯爵令嬢は嘘をつく。
「ミロ様は美人で優雅で、みんなの憧れの人です」
マリ伯爵令嬢は嘘をつく。
「ミロ様は家柄も素晴らしく、私にとっては遥か上のお方です」
舞踏会場で、さりげないふりをしてミロ伯爵令嬢の評判をきかれた双子のリマ伯爵令嬢とマリ伯爵令嬢は、心にもないことを答える。
二人とも、ミロ伯爵令嬢のことを、美人だとも優雅だとも家柄が素晴らしいとも思っていない。
この王国において舞踏会は大きく二つに分けられる。
ひとつは王国内の人間だけの気楽な社交の場。
もうひとつは、他国の人を招いた、外交の場。
今回は後者であり、他国の人間に世間話の合間に、自国のミロ伯爵令嬢についてさぐりをいれられた双子の伯爵令嬢は嘘をついた。
踊り場から退場し、待機のための隣部屋で、双子の伯爵令嬢は本音をぶちまける。
「ミロ様はかっこいいんです」
リマ・マリ伯爵令嬢がいるのは、招待客には見せない主催者側の息抜きや準備のための部屋。
広く大きな部屋で、今回は踊り場にいる人数より多い伯爵令嬢達がいた。
「みなさんは、もうすぐ舞踏会デビューをしますので、ここで雰囲気だけでもつかんでください」
指導役の伯爵令嬢が、まだ小さい伯爵令嬢達に、舞踏会の段取りを説明している。
この部屋からは、メインの会場がこっそりと見れる仕組みになっている。
「ミロ様からの合図きました。お色直し入ります。指定はゼロサン」
待機していた三人の衣装担当の伯爵令嬢と二人の装飾担当の伯爵令嬢が、素早く動き出す。
ミロ伯爵令嬢がこの部屋に入ると同時に、一斉に五人の伯爵令嬢達が作業にとりかかり、通常なら脱ぐのに二十分はかかるドレスが、三分以内に手早く着替えが終わる。
席を外したことにも気がつかなかった招待客たちが、まるで印象が違うドレスを身にまとって現れたミロ伯爵令嬢に感嘆の声が上がる。
「質問です。予定になかったこの衣装替えはどんな意味があるのですか?」
まだ八歳の舞踏会デビュー前の伯爵令嬢が手を上げて疑問点を聞く。
「いい質問ですね。今回の招待国は小国ですが、けして一枚板ではありません。基本的にはわが王国との協力関係を維持させようとする人達ですが、あらかさまに敵対すべきと主張する者だっています。この舞踏会にわざわざ来て挑発的な言動をして、こちらの出方をうかがうこともします。そんな時に、今のように相手の軍事予算よりも金がかかったドレスや宝石をみせつけて、相手国内で友好派の意見が通りやすくさせる目的です」
マリ・リマ伯爵令嬢は双子の間で盛り上がる。
「今の早着替え、かっこよかったですね。やっぱり、ミロ様はかっこいいですわ」
「着替えの補助をされたみなさまも、かっこよかったですわ」
部屋のすみで泣きながら書類仕事をしているモリシア伯爵令嬢に、隣で書類仕事をしている目にクマを作るルサ伯爵令嬢が、悲痛な声をかける。
「時間になりました」
「それじゃあ、戻るわね」
目のクマを化粧で隠したモリシア伯爵令嬢は会場に戻る。
そんな様子を見ていたリマ・マリ伯爵令嬢は感想を言い合う。
「一瞬で舞踏会モードに切り替わるモリシア様はかっこいいですわ」
「舞踏会のあいまに書類仕事を片付けている姿もかっこいいですわ」
モリシア伯爵令嬢と入れ違いに部屋に入ってきた伯爵令嬢が、部屋に入るまでの毅然さがなくなりふらつく足で部屋に置かれているベットにそのまま倒れこむ。
舞踏会用のドレスのまま、ベットに飛び込むことはとんでもないことだが、とんでもないことが発生したことを知らせる意味でもあった。
「報告します。魔法遺産の場所をさぐられました」
部屋のみなが息を飲む。
その場の責任者のスワンリ伯爵令嬢は、冷静に指示を出す。
「存在が知られたなら、場所もいつかは特定されるでしょう。ですが、我々の口から洩れるのは避けなければなりません。ミッシェル様、お願いします」
ミッシェル伯爵令嬢が出ていく。
「みなさま。ミッシェル様の手腕を間近で見られるチャンスですわ」
いままで落ち着いて指導していた伯爵令嬢が、興奮を抑えきれずにいた。
待機中の衣装替えグループの伯爵令嬢達も、覗き口の前に集まる。
もちろん、リマ・マリ伯爵令嬢もミッシェル伯爵令嬢に注目している。
「相手国の宰相婦人が、世間話のていで魔法遺産がありそうな場所をさぐってますわね」
「ミッシェル様が、宰相夫人の話題を糸口に、王国の観光名所の紹介をはじめましたわ」
「宰相夫人が強引に話を戻しましたわね」
「ミッシェル様、自然に王国の温泉名所の話に持っていきましたわ」
「宰相夫人、王国の魔法歴史に話題を切り替えましたわ」
「ミッシェル様、王国歴史館の観光案内に話を繋げましたわ」
「宰相夫人、音を上げ始めましたわね」
「おおっ。ミッシェル様、追撃でお土産の王国産のケーキをおすすめしてますわ」
「ミッシェル様はかっこいいですね」
「ええ。ミッシェル様はかっこいい」




