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これはリリーの国王研修時の話。
国王候補の一人として、リリーは王国の領地の一つに派遣される。領主の仕事を担当してその能力をアピールする場と、リリーは国の偉い人に説明を受けたが、お客様として本来の領主に言われたことだけ無難にこなしていく。それはリリーの、自分は国王になれないしなるつもりもないとの意思表示。
受け入れている領主側も、リリーの意思をくみ取って、他愛もない仕事しか渡さない。
そうして終わるはずだったリリーの研修の途中で、獣人族の大規模反乱が発生する。
獣人族は、王国の少数民族。
二年前まで獣人との関係は良好だった。だが、今では衝突を繰り返している。その原因を作ったのが王国政府の人間なので、その負い目から毅然たる対応ができない。それが問題を悪化させる結果となっていた。
その獣人族が、百人規模で、この領地の食糧庫を占拠したとの報告が入る。
食料供給に影響がでれば、役人との小競り合いだった対立が、一般にも浸透し関係修復は絶望的になる。
頭を抱える領主の部屋に、リリーが入ってくる。
額に魔力封じの札を貼りつけているので、顔の大半は隠れている。
領主にとってリリーはまだ十六歳の子供だったので、やんわりと与えられた部屋でおとなしくしてくれるようにとうながそうとする。
「氷の魔女を投入しました」
領主が口を開く前に、リリーは告げる。
その報告に驚愕する領主。
「魔法は関係ない事態ですが、事態の危険度から中央からの特別承認をいただきました」
緊急事態発生前の物事を穏便に済ませようとする少女の面影は無くなり、必ず問題解決をしようとする強い意志がにじみ出る。
「し、しかし、氷の魔女を使うのは、あまりにも外道な・・・」
「やらなければ、問題が悪化するだけです。痛みが発生しても、ここで対処するしかないのです」
「ですが、氷の魔女を派遣することは、どんな非難を受けるかわかりません」
「だからこそ、私が命令したのです。後で問題になったら、あなたとは関係なく、軽率な小娘が勝手に行動したことだと切り捨ててください」
「そんなことできません」
「やってもらわないと困ります」
「あなたは私の恩人なのです」
「恩人?」
「私の娘はリリー様と同じ魔力暴走の体質です。この王国は魔法の研究を一切放棄しています。治る希望が無い病気。娘の絶望がどれだけのものだったのか。その娘の希望となったのが、あなたなのです。あなたはいつでもどこでも、その額につけた魔力封じの札を貼りつけ堂々としている。娘はあなたに勇気づけられ、あなたのようになりたいと積極的に外に出るようになった」
「あなたの娘さんは、カミ伯爵令嬢ですね」
「はい。そうです」
「カミ伯爵令嬢は素晴らしい人です。舞踏会でも、魔力封じの髪飾りをつけ胸を張って立ち振る舞う。同じ病気の人達のためです。あなたの育て方が素晴らしかったからでしょう。私は自分勝手な人間です。この額の魔力封じの札は、お姉さまからのプレゼントをみんなに自慢したかっただけです。ですが、あなたが私に恩を感じると言うなら、きっちりと私を切り捨ててください。我ら伯爵令嬢は、王国の使い捨ての道具です。その役目を私に果たさせてください」
領主はリリーに最敬礼をする。
「氷の魔女を派遣したことで問題が発生したら、あなたに全責任をかぶせさせていただきます」
その獣人の少年は武器を持っていた。
果物用の小さい刃物だったが、少年はその刃物で戦うつもりだった。
ふと、少年は、自分が帽子で獣耳を隠したままだと気がつく。不当占拠したこの食糧庫には獣人族しかおらず人目を気にする必要なんかないのに。それでも、獣耳を隠す習慣が身についてしまったので、わざわざ帽子をとる気にはなれなかった。
他の獣人族も、ほとんどが獣耳を隠し、全身の獣毛を隠し、尻尾を隠していた。
かつては、獣人族の誇りとして、積極的にアピールしていたものなのに。
獣人族は国と交渉して今の事態になったことの賠償金を請求しているが、国はわずかほどの金しか渡してこない。女性陣は馬鹿なことをしてないで働けと言うが、これは誇りの戦いなのだ。
「どうして、みんな武器を持ってきているんだ。それに、なんでこんな大人数なんだ」
「みんな、働いてないからヒマで。武器は交渉の脅しであったほうが」
「集団が暴走したらコントロールできないだろうが」
リーダーの叱責は、反感を呼ぶ。リーダー自身が武器を持っていないことに気がついた者が、今ならリーダーを殺せると思ってしまう。
魔が差した考えが誰かにとりつく前に、見張りの切迫した声が届く。
「氷の魔女だ!」
氷の魔女は不思議に思う。
何故自分が獣人族反乱の鎮圧に呼ばれたのか。王国における魔法関係の問題は全部自分が担当するが、今回は魔法は関係ないはずだ。
それでも、与えられた仕事はきちんとこなそうとする。
まずは話し合いを。
それで、わかってもらえたら、それにこしたことはない。
誠実な考えで職務に取り込もうとする氷の魔女の後ろで、魔法省の部下達がドン引きしていることに当の本人は気がつかなかった。
手持ちの武器が、魔法で氷漬けになり使用できなくなっていくが、それすらも気がつかず、獣人達は氷の魔女の姿に恐怖する。
「逃げろ!」
「尻尾を隠せ!」
パニックになりながら逃げていく獣人達。
戦いが避けられたことで安堵する氷の魔女。
「わかってくれたのですね」
「離せ。せめて、あいつに一刺ししてやる」
「無理に決まっているだろう」
獣人の少年を、大人の獣人二人が捕まえて一緒に逃げる。
「あいつのせいで、どこに行っても俺達は愛玩動物の扱いなんだ」
「ともかく、尻尾を隠せ。捕まったら、いやらしいことをされるぞ」
「あいつが、あいつが、夜の交流会で、あんなことを言ったばかりに」
「獣人の男の人って、いやらしいですよね。常に上半身裸だし尻尾は丸出しだし。獣耳はいやらしいし、獣毛もいやらしい。私が特にいやらしいと思うところは尻尾のつけ根です」




