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「モリシア様ってバカなんじゃないですか」
本来なら大事になるだろう爆弾発言だったが、徹夜続きのおかしなテンションになっている発言者本人とその周りのため咎める者はいなかった。
何より、発言しているマヤ伯爵令嬢が、普段からモリシア伯爵令嬢を尊敬していて大好きなのをみな知っていた。
「馬鹿と言うより、悪ふざけできるときにとことん悪ふざけするタイプなんじゃないですか?」
と、隣の席で書類仕事をしているルサ伯爵令嬢。
書類仕事を続けながら話を続けるマヤ伯爵令嬢。
「悪ふざけは悪ふざけとして、私はモリシア様はバカだと思うわ」
「本人がいる部屋で、悪口を言わないでよ」
と、向かいの席で書類仕事をしているモリシア伯爵令嬢は言った。
城の大広間に臨時に設けられた巨大テーブルに、二十人前後が書類仕事をこなしていた。山積みになっている書類の束と、目の下にクマを作る伯爵令嬢達。普段は別れた部屋で書類仕事を片付けているが、間に合わなければ王国の運営機能が止まる締め切りがせまり、修羅場に突入していた。
「悪口じゃありませんよ。これは批判です。モリシア様は王国の運営はトライアンドエラーだとよく言っていたじゃないですか。それなのに、国王研修で一度失敗したと思ったら、すぐ諦めるなんて。私はモリシア様に次の国王になってもらいたかったんです」
と、マヤ伯爵令嬢は書類仕事をする手は止めずに言った。
「しょうがないじゃない。研修で心折れちゃたんだもの。あっ、私、国王は無理だって、思っちゃったんだもの」
口を尖らせて拗ねるモリシア伯爵令嬢。普段はこんな態度を絶対しないが、修羅場を何度も共に経験した気心知れた仲間たちの前であることと徹夜続きのため、テンションがおかしくなっていた。
「百歩譲って、モリシア様が次期国王候補から下りるのはしょうがないです。でも、それをあっさり受け入れるなんて、王国の偉い人は何を考えているんですか。考え直すように説得すべきでしょう。あまつさえ、断罪劇の悪役を引き受けることを許可するなんて。モリシア様が表舞台に立てなくなったら、王国にとってどれだけの損失が出るか。王国の偉い人はバカなんじゃないですか」
「本人がいる部屋で、悪口は言わないでおくれ」
と、斜め横で書類仕事をしている王国の偉い人は言った。
本来なら厳重に注意すべき発言だが、かわいい孫娘に甘々な王国の偉い人であるマヤ伯爵令嬢の祖父は言った。
「違うのじゃ。モリシア殿のことを軽んじているから表舞台から下りるのを許可したわけではなくて、その才能を見込んでいるから下りてもらったのじゃ」
王国の偉い人は、書類仕事を続けながら説明する。
「本人は否定的じゃが、もしモリシア殿が国王になったら素晴らしい働きをするじゃろう。国王じゃなくても、表舞台の外交や広報や運営やら、モリシア殿がいなくなると大きな痛手じゃ。だが、代われる人材はいるのじゃ。だが、この書類処理は違う。モリシア殿がいなくなったら、どうにもならなくなって、王国はパンクするじゃろう。モリシア殿自身のずば抜けた書類処理能力と、指示能力、そして改善能力。王国が成立しているのは、モリシア殿が書類処理のトップにいてもらっているためじゃ。だから、表舞台から下りて、こっちの書類処理に専念してくれるのはありがたい話なのじゃ」
しぶしぶながら納得するマヤ伯爵令嬢。
「つまり、国王なんかよりも重要な仕事をモリシア様にしてもらうわけですね」
「その通りなんじゃが、その言い回しは良くない」
「気をつけます。ところで、おじいさま、次の、いえ、茶番の断罪劇を挟むので、次の次の国王にリリー様が決定した理由はなんです?」
「それはもちろん獣人の大規模反乱を無血で解決した一件じゃよ。あそこで氷の魔女を投入の決断をできる者は、王国ではリリー殿以外にいない。これからの王国に必要な能力じゃ。本人は国王の件は冗談事だと思って信じてないふしがあるが」
「他の国は、王子が次の国王になるのが普通のようですが、うちの王子はどうなんですか?」
と、マヤ伯爵令嬢は、王子の婚約者であるモリシア伯爵令嬢に聞く。
「私は王子と婚約できて幸運です。王子はやさしい人で細やかな気遣いをしてくれます。私は幸せな結婚生活を送れるでしょう」
「いえ、旦那としての評価を聞いているのではなくて、国王としてどうですかと聞いてます」
「あの方を国王にするぐらいなら、その辺に歩いている豚を国王にした方がましです」
「本人がいる部屋で、悪口を言わないでくれよ」
と、モリシア伯爵令嬢の隣で書類仕事をしている王子は言った。




