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「華やかに見える社交界も、裏ではドロドロしているから、注意するのですよ」
ラタ伯爵令嬢はかつて母親から聞いた言葉を思い出す。
先日、十一の歳で社交界デビューを果たし、舞踏会のきらびやかに舞い上がったが、今現在の自分の格好とやっていることを思い、想像していた伯爵令嬢の生活とは全然違うと感想を口に出す。
「ドロドロって、愛憎劇みたいのを期待していたんですけどね。母から聞いた裏でドロドロが、まさか裏路地でドブさらいとは思ってもいませんでした」
「うちの王国の伯爵令嬢社会は、体育会系ですからね。隣の魔法国家とはまた事情が違うんですよ」
ラタ伯爵令嬢の隣で、同じように作業服を着てドブさらいをするヨールデリ伯爵令嬢。
王国の伯爵令嬢は何でも屋の側面もあり、王国で手が回らない仕事が回されてくる。
ドブさらいをしている二人の伯爵令嬢の耳に、騒がしい声が届く。
「ここから先は立ち入り禁止だ」
「いいじゃないですか。俺はお嬢様がたから話を聞きたいだけですよ。護衛をつけて、お仕事ごっこしているお姫様がたにね」
「貴様、王国のために働くお二人を愚弄する気か?」
「だから、その辺を取材させてもらいたいんですよ。前のドブさらいで、汚れに触れたお嬢様のひとりが、病気になって今も醜い顔のままだとか」
「あのゴシップをでっちあげたのは貴様か」
もめている相手の顔を確認したヨールデリ伯爵令嬢は、ラタ伯爵令嬢に指示を出す。
ラタ伯爵令嬢はその場できをつけをし、復唱する。
「ヨールデリ班、ラタ。これより手配犯の捕獲を行います」
罠にかかったことを知った記者が、逃げ出そうと身体を反転した時には、ラタ伯爵令嬢が記者の肩に手をかける。
記者は瞬間移動の魔法と勘違いするが、ただ単に足が速い。
そして、格闘道場では、あのロールリック伯爵令嬢から何本も勝ち星をとったことがある強者。
地面に転がされ、少女の細腕一本でまったく身動きできなくなる記者。
スワンリ伯爵令嬢は連行されてきた違法記者を見て、あらかさまにため息を吐く。
「王国は許可した者以外の、取材活動および情報伝達活動を禁止しているのを承知してますよね」
「王国に都合がいい情報だけ流すことは報道ではない」
「かっこいいことを言ってますが、あなたが実際にやっていることは、ありもしない不倫記事をねつ造して広めてる。どうして、そんなことができるんですか?」
「ゲス要素がないと売れないんですよ。真実をみんなに知ってもらうための、小さな嘘ですよ」
「理解したくないですね」
「そんなこと言わないでくださいよ。あなたほどのお偉いお方が、わざわざお顔をみせてくれたんだ。俺に探りを入れにきたんでしょう」
「・・・」
「王国は囚人を使って人体実験をしている」
盛大にため息を吐くスワンリ伯爵令嬢。
「やはり勘違いしてましたか」
「誤魔化す気か」
「いいえ。その噂が出た理由もわかってます。説明が難しいので、一緒に来てください」
「もっと、肉をよこせ!」
「温いんだよ。もっと熱々にしろ!」
「味は濃くするんだよ!」
監獄の中で、食事中の囚人達が好き勝手に騒いでいる。
違法記者は、食事の中身を見て驚く。食べきれない量の食事が用意され、どれもが質の高い料理が提供されていた。もし外食でこれと同じものを頼むと、けっこうな値段がするのはわかる。
「これは、いったい?」
スワンリ伯爵令嬢は、困惑する違法記者に説明する。
「囚人達を使って料理の改善点を洗い出しているところです。これが、変な伝言ゲームで、囚人達を使った人体実験の噂になってしまったようです。ここの改善点を、王国の直営店の料理店に伝えて、売り上げを伸ばそうと試みているところです。成果もでてきてます」
すごすごと退散する違法記者。
記者がいなくなったのを確認してから、スワンリ伯爵令嬢は監獄長に言った。
「ケーキの方の進捗は?」
「囚人たちが音を上げて、ダメ出しどころじゃないですね。毎日ケーキだけを食べることは相当な苦行のようです」
「では、ケーキの担当を増やしましょう。責任者のモリシア様には私から話しておきます」
「食糧難が発生して、貴様らに食べさせるパンが手に入らなくなった。だが、次期国王夫人にならせられるモリシア様が、貴様らのために食料を用意してくださった。感謝するように。それでは、モリシア様からのありがたいお言葉を貴様らに伝える」
監獄長は、これから音を上げることになる囚人達に告げる。
「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」




