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「わたくしは伯爵令嬢なのよ。そのわたくしに、こんな貧相なお菓子を食べさせるつもりなの?」
七歳になったヒチ伯爵令嬢が、お菓子係の作った誕生日ケーキを床に叩きつける。
「娘よ。食べ物を粗末にするのは、やめなさい。伯爵家の者として、やってはいけないことだ」
父親の伯爵が注意するが、娘がわがままに育ったのもこの父親の甘やかしが大きかった。
「わたくしが食べる物は、わたくしにふさわしいだけの水準を保つべきだと、お父様も思うでしょう」
「確かに、そうだが。しかしな」
「こんなお菓子しか作れないお菓子係など即刻解雇しましょう」
「そう何度も、使用人を解雇していると、ミッシェル様がやってくるぞ」
ミッシェル伯爵令嬢の名を出され、わがまま放題だったヒチ伯爵令嬢がはじめてひるんだ様子をみせる。
「そ、そんな怪談、現実におこるわけないですわ」
翌日、訪問してきたミッシェル伯爵令嬢に、ヒチ伯爵令嬢は悲鳴を上げる。
幼き伯爵令嬢達を中心に、伝わる怪談話がある。
わがままな伯爵令嬢の元には、ミッシェル伯爵令嬢がやってきて、他人を思いやるやさしい子に変えてしまうと。
幼い子供の将来のための立派な行動のはずだが、怖い話になるのは、手口があざやか過ぎて洗脳めいた手段やカルト宗教的な目的やらが連想されてしまうのだ。
「わ、わたくしの人格改造をするつもりですか?」
怯えて後ずさる幼いヒチ伯爵令嬢を安心させるため、にっこりと笑って見せるミッシェル伯爵令嬢。
「落ち着ていください、ヒチ様。おかしな噂話が出回ってますが、私はヒチ様の立ち振る舞いを修正するつもりはありません。むしろ、そのまま我を通してもらいたいのです」
いままでの振る舞いにダメ出しをされると思っていたヒチ伯爵令嬢は、びっくりする。
「ご存知かもしれませんが、私達、伯爵令嬢は、この王国からとんでもない量の仕事を振り分けられてます。ここまでの大量の仕事を押しつけられるようになったのは、伯爵令嬢のみなさんが人が良すぎるためです。頼まれたら最終的に引き受けてしまう。このままでは破綻します。ですから、ヒチ様には、そのままでいてもらいたいのです。主張できる伯爵令嬢を増やし、全体の負担を減らしましょう」
ミッシェル伯爵令嬢は、ヒチ伯爵令嬢にケーキ関係の資料を渡す。
「今回、こちらに訪問させていただいたのは、ヒチ様の我を通す能力を見込んで、伯爵令嬢として王国の仕事を頼みたいのです。王国では資金調達のために、王国産の商品を販売をしていますが、うまくいってません。そこで、ヒチ様に新しいケーキの開発をお願いしたいのです」
「パサパサじゃないの。こんなの駄目よ。駄目」
一週間が過ぎ、ヒチ伯爵令嬢は不安になってくる。自分はダメ出しをしているだけで、ケーキを作っているわけでも、具体的な改善案を出しているわけでもなかった。
ミッシェル様はほめてくださるが、このままじゃいけない気がした。
作る人間にアドバイスまではいかなくても、もう少し細かい感想を言えた方がいいと思い、自分の家のお菓子係に、目の前で作るように命令する。作る工程を見るが、よくわからない。自分で作ってみて驚愕する。あれだけ簡単に見えたのに、自分で作ると複雑で、ちょっとでも分量が違うと食べられなくなる。いままで美味しくないとおもっていたケーキは、食べられる時点で上澄みであることを知る。
「ありがとうございました」
ミッシェル伯爵令嬢は、自分に深々と頭を下げてくるヒチ伯爵令嬢に戸惑う。
「ええっと?」
「ミッシェル様のおかげで目が覚めました。いいえ、ミッシェル様が目を覚まさせてくれたのですね」
「いや、それは」
「私は間違っていました。作ってくれる人への感謝の気持ちを持たないといけませんね」
ミッシェル伯爵令嬢はお茶会の席で愚痴る。
「なんで、商品開発のダメ出しを頼むと、みんなダメ出しできない性格になるのよ?」




