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 辺境領主の新妻リリーは、一日お休みして、親友のアルパズリ伯爵令嬢の領地でバカンスを楽しんでいた。


 「やっぱり、身体を動かすのは楽しいわね」

 午前中は畑で土を耕し、午後からは鉱山で穴を掘る。

 中央育ちのリリーは、毎年のアルパズリ伯爵令嬢領地の手伝いを心より堪能する。

 「美味しい。すごく美味しい」

 昼休憩は、とれたての野菜をいただく。

 「そうでしょう。そうでしょう。うちでとれる野菜は美味しいでしょう」

 自領地の野菜をほめられ鼻高々になるアルパズリ伯爵令嬢。

 二人の伯爵令嬢は、泥まみれの作業服を着たまま外で食事をとる。同じ作業着を着た領民たちも一緒の場で同じ食事をとる。

 「リリー様、うちでとれた最高級の野菜を」

 「ありがとう。うん、すごく美味しいわ」

 「リリー様、こちらも」

 この領地の二大産業である農作物と鉱山をどちらも心から喜ぶリリーは、ここの領民から大変人気があった。

 差し出される野菜の中で、若干品質が劣る物がおそるおそる出される。

 それはジムとキャサリンとトムの、今年辺境領から移住した三人組の生産品。

 一口食べ、リリーは三人組に言った。

 「一年でよくここまでやったわね。おいしいわよ」

 リリーにほめられ、涙目になる三人組。

 「不満がたまっているみたいだけど、辺境領の運営は大変なの?」

 アルパズリ伯爵令嬢に水を向けられ、リリーは愚痴を漏らす。

 「最近、みんな、ダイファン様の叔父様にまず話を持っていくのよ。お姉さまも、ロールリック先輩も、中央の役人も。おかしいでしょう。辺境領のトップはダイファン様でその妻は私なのに」

 空気を読めない女と子供の頃から言われているキャサリンが言った。

 「リリー様もダイファン様も、辺境領の運営に向いてないのではないですか」

 全力で目を背けていた事実を突きつけられ、リリーは奇声を上げる。




 辺境領に帰るなり、辺境領主ダイファンがすまなそうに言った。

 「リリー。聖女の力は回復したのかい?もし、そうなら、頼みたいことがある」

 リリーは弱々しい表情でうつむく。

 (聖女の力ってなんだっけ。確か、ミッシェル様がその時読んでいた本の設定をそのまま持ってきたはず。思い出せ。思い出せ。思い出せ)


 「で、結局、その場では思い出せなかったんですよ」

 リリーの言葉で、お茶会の他のメンバーは聖女の設定を思い出そうとする。

 「ええっと、確か、リリーが聖女で、何か特別な力を持っていたって、設定じゃなかったっけ?」

 「そうそう。この王国に聖女のシステムがあるってでっちあげて、ダイファン様に事前に吹き込んでおいたんでしたよね。ええっと、聖女は特別な力を持っていて、それが使えなくなったから追放するってストーリーで、どんな力でしたっけ?」

 「ほら。その時読んでいた本の設定そのままで、あー、思い出せそうで、思い出せない」

 「では、当時の本の振り返り読書会を始めましょうか」

 姉たちが脱線しかけるのを、リリーは止める。

 「治癒魔法です。私が、どんな重症患者も魔法でパッと治せたと嘘設定」

 リリーの言葉に、ミッシェル伯爵令嬢の着せ替え人形になっているリンリンが驚いた声を出す。

 「リリー様の聖女の力って、嘘だったですかっす。と言うか、聖女自体でっちあげなんすっか?」

 リンリンの口にお菓子を詰め込みながら、ヨールデリ伯爵令嬢が答える。

 「そうですよ。聖女なんてシステム、この王国に存在しません。娯楽小説の設定をそのまま使ったのですよ。それに、この王国には治癒魔法なんて存在しません。隣の魔法国だってせいぜい研究しているだけで実用はしてないはずですよ」

 「そうなんですかっす?」

 「お医者様が、魔法を使うことなんてないでしょう」

 「自分、病気したことないから、わからないっす。でも、昔の英雄冒険話では、治癒魔法専門で活躍する仲間がよくでてくるじゃないっすか」

 「昔の魔法技術が失われてしまった説と、物語だから現実には無い世界観を入れた説がありますね。最近では、ほぼインチキ説が主流となってますよ。魔法で体力や怪我を回復させているようにみせかけて、ただ単に痛み止めの効果しかない魔法をかけていただけだったのではないかと。まあ、どの説が正しいかはわかりませんが、人間の身体は繊細で精密にできてます。現在、我々が扱える魔法は安定性が無く、大雑把なものです。魔法で治療するなんて、無茶なんです」

 「はえー。そうなんですっかっす」

 モリシア伯爵令嬢は、妹のリリーに質問する。

 「それでダイファン様の頼みというのは?」

 「領民の重病人を救ってほしいと。まあ、そいつは見舞金目当てで、健康なんですけど。ダイファン様は純真だから、信じちゃってるんですよ」

 「なら、そいつを殺すしかないわね」

 「まあ殺すしかないですよね」

 物騒なことを言う伯爵令嬢姉妹を、リンリンが止めようとする。

 「そいつが詐病なら、協力させて、リリー様の聖女の力で治ったって演技させればいいじゃないですかっす」

 リリーは、リンリンに言い聞かせる。

 「奇跡の力は一度でも使ったら、破滅しか道が無いのよ。それに、聖女の力で治るはずのない重病人が治ったなんて茶番劇をして、他の病人関係者に希望を抱かせるような残酷なことだけはしてはいけません」

 「リリー様はそこまで考えているんですね」

 感心するリンリンの髪を梳かしながら、スワンリ伯爵令嬢が言った。

 「いいかんじ風の言葉に騙されちゃあ駄目ですよ。そもそもの聖女でっちあげの主犯がリリー様ですからね」




 「と言うわけで、あなたには死んでもらいます」

 辺境領で金目当ての詐病していたリックは、突然訪問してきた辺境領主の新妻リリーに恐怖する。

 前任の料理長とメイド長と警備長が突然行方知れずになったのは、新参者のリリーの仕業ではないかと噂されていたのだ。

 その噂が真実であることを、リックは身をもって味わうことになる。




 聖女の力を完全に失ったリリーは大粒の涙を流しました。

 「私は救えなかった」

 力を落とすその肩に、ダイファンは手をやさしく置きました。




 「ふざけんじゃあねえぞ。あのリリーのやろうが」

 アルパズリ伯爵令嬢の領地に強制移住させられたリックが、悪態をつく。

 「おい、おまえ。リリー様の悪口を言ったのか?」

 リリー様大好きな領民達が、リックを取り囲みつるし上げる。その中には、かつてリリーに強制移住させられて恨み、今では感謝している元料理長のジムと元警備長のトムがいた。

 さほど人気がない辺境領地と、絶大な人気があるこの領地。それぞれの評判を知っている元メイド長で空気の読めない女のキャサリンは言った。

 「やっぱり、リリー様は辺境領に向いてないわ」

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