帰還
お化け屋敷から出た柳田達は、除霊の報告をするため
田沢の待つ事務所にやってきた。
古橋:「田沢さん、只今戻りました」
事務仕事をしていた田沢は手を止め、足早にこちらへ歩み寄って来る。
田沢:「おぉ皆さん、お帰りなさい
だいぶお疲れのようですね」
古橋:「そうですね、思ったより時間が掛かってしまって」
田沢:「まずはこちらで少し休んで下さい
今お茶をお出ししますので」
古橋:「有難うございます、では少しお邪魔させて頂きます」
田沢に促され、柳田達は応接スペースのソファに腰掛けた。
柳田:「ふぅー、やっと一息つけるな」
古橋:「いやぁ、今日は大変でしたね」
柳田:「ああ、お前が持ってきた案件のせいだがな」
古橋:「僕もまさかあんなのが来るとは思ってなかったんですよ」
カリン:「ホーント、めちゃくちゃヤバかったよね、あいつ」
勘兵衛:「全くだ、もう俺の霊力もスカスカだぞ」
しばらくすると田沢がお茶を持ってやって来た。
田沢:「皆さんお疲れさまでした
お茶でも飲んで寛いで下さい」
古橋:「はい、有難うございます」
古橋と柳田が出されたお茶を飲む。
勘兵衛とカリンはソファの背もたれに寄り掛かって、ぼんやりと宙を眺めている。
・・・・しばしゆったりとした無言の時間が流れる。
その沈黙を破って田沢が静かに尋ねた。
田沢:「それでなんですが、除霊の方は、どうなりましたか?」
その言葉で、忘れていた何かを突然思い出したように
はっとする古橋。
古橋:「そうでした! その報告に来たんでした
もちろん無事に終わりましたよ、ですよね先輩」
柳田:「あ、ああ、そうだな
無事と言って良いのかは微妙だが、確かに悪霊はもう居ないな」
(違う奴が居るけど・・・)
田沢:「ホントですか! いやぁ助かりました
中々戻られないから何かあったんじゃないかと
心配していたんですよ」
古橋:「いや、まぁ、何て言うか少し
予想外のこともあったりしたんですけど・・・」
田沢:「予想外? 何か問題が!?」
古橋:「いえ、もう全て解決しましたので
問題はありません大丈夫です、ね、先輩」
柳田:「そうだな、しばらくは来ないだろう」
(他の仲間が来るかもしれんが・・・)
田沢:「しばらくは?・・・」
古橋:「だぁ、だ、大丈夫ですよ!
もう来ません、心配いりませんから」
柳田:「ま、あのダメージだ、当分は動けんだろうしな
それに小道の方は悪霊じゃないから放っておいても────」
古橋:「わぁ! わぁぁ! 大丈夫ですって!
もう全て解決しましたから、全く問題ありません!」
田沢:「そ、そうですか、ではもう営業を再開しても?」
古橋:「えぇ、もうバッチリ大丈夫です!」
古橋が柳田の方を振り返り小声で囁くように
古橋:『先輩、余計なこと言わないで下さいよ!
依頼人を不安にさせるでしょ!』
柳田:『奴らはまだ諦めてないんだ、そのうちまたやって来るぞ』
古橋:『それはそうなったときに考えれば良いんです!
とにかく今はここを丸く収めることが重要なんですよ!』
柳田:『いや、でも小道のこともあるし───』
古橋:『いいから! ここは僕に任せて下さい!』
二人のひそひそ話を田沢が怪訝そうな表情で見ている。
田沢:「あのー、やはり何かまだ問題が?」
古橋:「いえ、大丈夫です、全く心配は要りません
安心して営業を再開して頂いて結構です」
田沢:「そ、そうですか、いや、流石ですね
やはり古橋さんに相談して良かった、ホントに有難うございました」
古橋:「いえいえこちらこそ・・・・
では、あまりお邪魔しては田沢さんもご迷惑でしょうし
我々はそろそろ失礼いたしましょうか」
そういって古橋が勢い良く立ち上がると
柳田達もだるそうにゆっくりと立ち上がった。
そのままぞろぞろと出口まで行くと古橋は満面の笑顔で振り返った。
古橋:「田沢さん、今回はご依頼頂き有難うございました
また何かあったらご連絡下さい!」
挨拶を済ませると、古橋は慌てるように皆を車に押し込んだ。
古橋:「皆さん全員居ますねー、ではさっさと帰りますよー」
なんとか依頼を果たし柳田達は帰路に着いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
廃墟と化し今は誰も寄り付かない、とある建物の地下。
光の届かない暗い部屋の中に突然歪みが出現した。
その歪みから深い傷を負い、消滅仕掛けた状態の鬼燕が現れ
その場に崩れるように倒れ込む。
暗い部屋の中には薄っすらと数名の人影が見える。
その内の一人が天井付近の空間に向けて手を翳すと
青白い光の玉が現れ周囲を淡く照らした。
その光により鬼燕の前に3人の人物が照らし出された。
中央には机に肘をつき鬼燕を見下ろすように白髪の少年が座っており
その右側には女性が、左側には男性が一人ずつ立っていた。
女性は細身で背が高く和服姿で右手には閉じられた和傘を持っている。
男性は猫背で痩せており長い腕をだらりと下げ
手足には水掻きのようなものがあった。
二人共、嘲るような不気味な笑みを浮かべて鬼燕を眺めている。
女性が鬼燕に話し掛ける。
女性:「なんだいボロボロじゃないか
随分と無様な姿だねぇ鬼燕、フフフフ」
それに左の男性が続く
男性:「舞華の言う通り、同じ野風様の側近のくせに
いつも俺達を見下しておいて、そのザマとは情けない」
鬼燕:「うるさい、黙れ貴様ら、この私に舐めた口を───── 」
野風:「よさぬかお前達!」
小競り合いを始めた3人を白髪の少年、野風が一喝する。
野風:「舞華と怪跳も控えよ」
舞華:「はぁーい」
怪跳:「・・・はい」
改めて野風が鬼燕に視線を向ける。
野風:「鬼燕、相手の力を見誤ったな
私の施した帰還術式が発動していなければ
貴様の身体は消滅しておったぞ」
鬼燕:「は、申し訳ありません・・・」
野風:「おまけに目的の物まで奪われるとは・・・
私も少しお前を過大に評価しておったようだ」
鬼燕:「あのときあの少女さえ現れなければ・・・」
鬼燕に対する野風の視線が厳しくなる。
野風:「言い訳は見苦しいぞ」
鬼燕:「は、しかし───」
野風:「もうよい、だが、収穫もあった
小道の奴が復活しておったとは・・・」
鬼燕:「小道? あの少女をご存じなのですか?」
野風:「うむ、貴様の眼を通して私も見ておった
あれは間違いなく小道だ」
鬼燕:「恐ろしい程の強大な霊力でした
一体あれは何者なのですか?」
野風:「奴は分断された我が魂の欠片、元々は私と一つの存在だった者だ」
鬼燕:「野風様と一つだった存在・・・」
野風:「力を失い、ずっとどこかで眠ったままと思っておったが
そうか復活したか、フハハハハ
奴を取り込めば我が野望の達成が一気に近付くぞ!」
鬼燕:「あれを捕獲するのですか? 素直に応じるとは思えませんが」
野風:「元は私と一体だったが今はそれぞれが別の自我を持っておる
恐らく一筋縄ではいくまい
まだ私と力の差が大きいとは言え侮れない強さだ
貴様もその身で味わったであろう?
今はまず目的の物の回収が先だ」
鬼燕:「それでしたら私がもう一度───」
野風:「いや、その体ではしばらくまともに動けんだろう
次は舞華に行ってもらうとしよう、良いな、舞華」
舞華:「もちろんです、必ずや期待に応えて見せましょう」
鬼燕:「お、お待ち下さい!
あの勘兵衛がいる以上、舞華では無理です
どうか私にもう一度機会をお与え下さい!」
野風:「くどい、もう決めたことだ
貴様は休んで身体の回復に専念するがいい」
舞華:「そうそう、あんたはゆっくり休んで
この私の活躍を眺めていれば良いのさ、フフフフ」
鬼燕:「くっ・・・・」




