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さえないおっさん魔術師は役不足と初心者パーティーを追放される  作者: 水源


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9/17

第9話 刺客を倒したら、なぜか修行仲間が増えていくがおっさんは間違いなく魔術師である

 ――数日後。


 山の中。


「…………」


 ドレヴァンツは。


 木の枝を地面に置いた。


 その前には。


 ビーストゴブリン。


 そして。


 ゴルゴ。


 二人のゴブリンが立っている。


「今日から」


 ビーストが言った。


「本格的に変身の修行を始める」


「お願いします!」


 ドレヴァンツは。


 元気よく頭を下げた。


「まずは基本だ」


 ビーストが。


 指を一本立てる。


「変身には段階がある」


「はい」


「俺の場合は四段階」


「はい」


「第一段階――獣化」


「速度型ですね」


「そうだ」


「第二段階――剛獣化」


「パワー型」


「第三段階――超獣化」


「技術とエネルギー効率」


「第四段階――真・獣王化」


「全部を統合する」


「なるほど」


 ドレヴァンツは。


 真剣に頷いた。


「つまり」


「うん」


「変身するたびに強くなるのですね」


「そうだ」


「どれくらい?」


「第一形態で約三倍」


「はい」


「第二形態で約十倍」


「はい」


「第三形態で約二十倍」


「はい」


「第四形態で――」


 ビーストが。


 一瞬だけ間を置く。


「約五十倍」


「…………」


 ドレヴァンツの目が輝いた。


「五十倍」


「そうだ」


「凄いですね」


「まあな」


 ビーストは。


 少し得意げだった。


「これが俺の切り札だ」


「では」


 ドレヴァンツが尋ねる。


「私も五十倍になればいいのですね?」


「…………」


「ビーストさん?」


「いや」


 ビーストが。


 ゆっくり首を振る。


「お前の場合は違う」


「なぜです?」


「元の肉体が違いすぎる」


「…………」


 ゴルゴが。


 横から口を挟む。


「それは俺も思う」


「ゴルゴさんまで?」


「ああ」


 ゴルゴは。


 遠い目をした。


「俺は二千メートル先から矢を当てるために何十年も修行した」


「はい」


「お前は飛んできた矢を素手で掴んだ」


「はい」


「俺は小宇宙なんて知らなかった」


「はい」


「お前は知らないまま使っていた」


「はい」


「…………」


 ゴルゴは。


 ため息をつく。


「今さら五十倍とか言われてもな」


「?」


「もう基準がおかしい」


     ◆


「それでも」


 ビーストは。


 真剣な顔で言った。


「変身には意味がある」


「はい」


「単純に力を増やすだけじゃない」


「はい」


「身体の使い方そのものが変わる」


 ビーストが。


 第一形態へ変身する。


「獣化!」


 ――ゴオッ!


 身体が一回り大きくなる。


 目が鋭くなる。


 爪が伸びる。


「第一形態は速度」


 シュンッ!


 姿が消える。


 ドレヴァンツの周囲を。


 何度も回る。


「速いですね」


「通常の五倍だ」


「なるほど」


「だが」


 ビーストが止まる。


「力はそれほど高くない」


「速度に特化しているのですね」


「そういうことだ」


 次に。


「第二形態!」


 ――ドゴォン!


 筋肉が一気に膨張。


 腕が太くなる。


 脚も太くなる。


 身体が巨大化する。


「剛獣化!」


 地面が。


 ビシッと割れた。


「第二形態はパワー」


 拳を握る。


「速度は第一形態より落ちる」


 しかし。


「その代わり!」


 地面を殴る。


 ――ズドォォォン!


 巨大な岩山が。


 粉々になった。


「一撃の威力は約五倍だ」


「…………」


 ドレヴァンツは。


 崩れた山を見る。


「なるほど」


「どうだ?」


「私も殴ってみていいですか?」


「いいぞ」


 ドレヴァンツが。


 岩山の残骸へ近づく。


「ふんっ」


 ――ドゴォン!


 残骸が。


 跡形もなく消えた。


「…………」


 ビーストの顔が。


 引きつった。


「参考になりました」


「…………」


「ありがとうございました」


「俺の説明、必要だったか?」


     ◆


「まだ終わりじゃない」


 ビーストが。


 気を取り直す。


「第三形態!」


 ――バチバチバチッ!


 今度は。


 身体が細くなる。


 筋肉も。


 第二形態より減っている。


「これは?」


「超獣化」


 ビーストの瞳が。


 鋭く光る。


「第三形態は無駄を削る」


「無駄を?」


「筋肉。


 動き。


 呼吸。


 力の流れ。


 すべてを最適化する」


「…………」


「だから」


 ビーストが。


 一歩踏み込む。


 ――シュンッ!


 ドレヴァンツの懐へ。


「速い」


 拳。


 ――ドゴッ!


 肘。


 ――バキッ!


 膝。


 ――ドンッ!


 一連の動作に。


 一切の無駄がない。


「これが第三形態だ」


「凄いですね」


「第二形態より力は低い」


「はい」


「第一形態より速度も低い」


「はい」


「だが」


 ビーストが笑う。


「実戦では一番強い」


「なるほど」


 ドレヴァンツは。


 少し考えた。


「では、第四形態は?」


「…………」


 ビーストの顔が。


 真剣になる。


「最後は」


 ゆっくり構える。


「全部だ」


「全部?」


「速度」


「はい」


「力」


「はい」


「防御」


「はい」


「反応」


「はい」


「技術」


「はい」


 そして。


「全部を同時に最大化する」


 ――ゴオオオオオオオオ!


 空気が震えた。


 ビーストの身体を。


 淡い光が包む。


 筋肉は大きくなりすぎない。


 身体も巨大化しない。


 ただ。


 すべてが完成された形へ変化する。


「真・獣王化!」


 ――ドンッ!


 山全体が揺れた。


「これが俺の最終形態だ」


 ドレヴァンツは。


 じっと見る。


「…………」


「どうだ?」


「格好いいです」


「そうだろう!」


「では」


 ドレヴァンツが。


 拳を握る。


「私もやってみます」


「待て」


「はい?」


「まだ説明しかしていない」


「分かっています」


「じゃあ、なぜ構える?」


「試したいので」


「…………」


 ビーストは。


 頭を抱えた。


     ◆


「では」


 ドレヴァンツが。


 目を閉じる。


「第一形態」


「…………」


 何も起きない。


「獣化」


「…………」


 何も起きない。


「変身!」


「…………」


 やはり。


 何も起きない。


「…………」


 ドレヴァンツが。


 首を傾げる。


「できませんね」


「当たり前だ!」


 ビーストが叫ぶ。


「そんな簡単にできるものじゃない!」


「そうなのですか?」


「ああ!」


「では」


 ドレヴァンツが。


 拳を握る。


「小宇宙を使います」


「待て!」


「はい?」


「それは変身じゃない!」


「ですが、力を増やすなら」


「そういう問題じゃない!」


     ◆


 その時。


 ゴルゴが。


 何かに気づいた。


「……待て」


「どうしました?」


「ドレヴァンツ」


「はい」


「もう一度、さっきの『変身』をやってみろ」


「はい?」


「小宇宙を使わずに」


「分かりました」


 ドレヴァンツが。


 目を閉じる。


 深呼吸。


 身体の奥へ意識を集中する。


「…………」


 ――ドクン。


 心臓が鳴った。


「…………!」


 ビーストの顔が変わる。


「今だ」


「はい?」


「身体の中に力が集まっている!」


 ――ドクン。


 もう一度。


「…………」


 ドレヴァンツの筋肉が。


 わずかに膨らんだ。


「第一形態!」


 ――ゴオッ!


 身体を淡い光が包む。


「…………!」


 ビーストが。


 目を見開いた。


「成功した……!」


「…………」


 ドレヴァンツは。


 自分の手を見る。


「これが……」


「そうだ!」


「変身」


「そうだ!」


「なるほど」


 ドレヴァンツが。


 頷く。


「では」


 そして。


「第二形態」


「待て」


「はい?」


「いきなり二段階目は――」


 ――ゴオオオオオオオオ!


 ドレヴァンツの身体が。


 一気に膨張した。


「…………」


「…………」


 ビースト。


 ゴルゴ。


 二人とも。


 固まった。


「剛獣化!」


 ――ドゴォォォォォン!


 山が揺れる。


 ドレヴァンツの筋肉が。


 大きく膨れ上がった。


「できました」


「…………」


「第二形態です」


「…………」


 ビーストが。


 震える声で言う。


「普通は……」


「はい」


「第一形態を何年も修行してから……」


「はい」


「第二形態へ進むんだぞ……?」


「そうなのですか?」


「そうだ!」


「なるほど」


 ドレヴァンツは。


 少し考える。


「では、第三形態も?」


「…………」


「やってみます」


「やめろ!」


 ――バチバチバチッ!


「超獣化!」


 ドレヴァンツの身体が。


 さらに変化した。


 光が強くなる。


 気配が鋭くなる。


 山全体を。


 圧倒的な威圧感が包む。


「…………」


 ゴルゴが。


 望遠具を取り出す。


「戦闘力を測ってみる」


「そんなものがあるのですか?」


「俺の独自装備だ」


 ゴルゴが。


 数値を見る。


「…………」


「どうです?」


「壊れた」


「…………」


「数値が振り切れた」


「…………」


 そして。


 ビーストが。


 小さく呟く。


「俺の第三形態より……」


 ゴルゴが答える。


「遥かに上だ」


「…………」


 ドレヴァンツが。


 嬉しそうに笑う。


「では」


「待て」


「はい?」


「第四形態だけはやめておけ」


「なぜです?」


「俺の最終形態だぞ」


「はい」


「俺が何十年もかけて到達した形態だぞ」


「はい」


「だから――」


 ドレヴァンツが。


 目を閉じる。


「真・獣王化」


「やめろおおおおおおお!」


 ――ゴオオオオオオオオオオ!


 大地が震えた。


 空気が爆発する。


 雲が一気に吹き飛ぶ。


 そして。


 ドレヴァンツの身体が。


 静かに変化した。


 巨大化しない。


 筋肉も必要以上には増えない。


 ただ。


 すべてが研ぎ澄まされる。


「…………」


 ビーストは。


 絶望した。


「俺の……」


「…………」


「最終形態……」


 ドレヴァンツが。


 拳を握る。


「これが第四形態ですか?」


「…………」


「とても使いやすいですね」


「…………」


 ビーストは。


 その場に膝をついた。


「もういい」


「はい?」


「お前の勝ちだ」


「戦っていませんが」


「関係ない」


     ◆


 神界。


『…………』


『…………』


 白き神と黒き神は。


 地上を見下ろしていた。


『第一形態になった』


『はい』


『第二形態にもなった』


『はい』


『第三形態も』


『はい』


『第四形態まで……』


『はい』


 黒き神が。


 震える声で尋ねる。


『……何分だ?』


『三分ほどです』


『…………』


 黒き神は。


 ゆっくり椅子に座った。


『俺たちは』


『はい』


『何十年も修行したゴブリンを送り込んだよな?』


『はい』


『それが』


『はい』


『三分で全部抜かれた』


『……はい』


『しかも』


 白き神が。


 地上を見る。


『まだ小宇宙を使っていません』


『…………』


 二柱は。


 同時に頭を抱えた。


『駄目だ』


『はい』


『これはもう駄目だ』


『はい』


『変身を教えた結果』


『はい』


『最終形態まで覚えられた』


『はい』


『しかも本人は』


『はい』


『まだ修行だと思っている』


『…………』


 しばし。


 沈黙。


 そして。


 黒き神が。


 ゆっくり顔を上げる。


『……次は』


『はい』


『もう一人では駄目だ』


『ええ』


『複数だ』


『…………』


『一人が駄目なら』


 黒き神が。


 拳を握る。


『十人だ』


 白き神が。


 少し考える。


『十人……ですか』


『ああ』


『それでも駄目だったら?』


 黒き神は。


 答えなかった。


 なぜなら。


 その先にある答えが。


 すでに見えていたからだ。


 ――百人。


 ――千人。


 ――一万人。


 そして。


『……軍団を作るか』


『…………』


 白き神は。


 遠い目をした。


『それだけはやめたほうがいいと思います』


『なぜ?』


『ドレヴァンツが全員の師匠になったら』


『…………』


『我々の軍勢が』


 一拍。


『全員、ドレヴァンツ側に寝返ります』


『…………』


 黒き神は。


 静かに頷いた。


『……確かに』


 ――こうして。


 神々は。


 新たな刺客を考え始めた。


 しかし。


 まだ知らない。


 次に送り込もうとしているのが。


 **「一人ではなく、複数で戦うこと」を極めたゴブリンたち**だということを。


 そして。


 それこそが。


 ドレヴァンツにとって。


 新たな修行仲間を大量に増やすことになるとは。


 この時。


 神々は。


 まだ知らなかった。

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